Vol.84 食と健康

栃木の「しもつかれ」、茨城の「すみつかれ」

<Q>
我が家では、節分で残った豆を大豆ごはんやきな粉にして食べますが、栃木県出身の友人は、「しもつかれ」という料理に使うそうです。「しもつかれ」とはどんな料理ですか。名前の由来も教えてください。

<A>
 「しもつかれ」は2月の初午(はつうま)の日、稲荷神社に五穀豊穣や無病息災を願って、赤飯とともに供える料理のことで、栃木県を中心に北関東に古くから郷土料理として引き継がれています。お正月に残った塩鮭の頭、節分に残った福豆、荒くすりおろした大根とにんじん、油揚げなどを酒粕と一緒に煮込んだ素朴な料理です。しょう油や砂糖、みりん、酢、味噌などで味を付けますが、材料や作り方に決まりはなく、地域や家庭それぞれの味があります。栃木県央地帯から茨城県の鬼怒川下流域では、大根、大豆、塩引き鮭の頭、酒粕、にんじん、油揚げを基本に作られます。埼玉県東部や千葉県北部、福島県南奥会津、但馬では、大根、大豆だけとシンプルです。そのほかにも大根、大豆、塩引き鮭の頭、酒粕の何れかを組み合わせるなど種類は豊富なようです。酒粕が用いられるようになったのは、造り酒屋が出現し、酒粕が流通し始めた江戸時代中期の頃といわれています。

 昔から「七軒の家のしもつかれを食べると病気にならない」との言い伝えがあり、自分の家だけではなく、隣近所と分け合って食べ比べる風習があります。また、一晩置いて冷たくなったものを、炊きたての赤飯と一緒に食べるのがおいしいともいわれています。

 しもつかれの呼び名は「すむつかり」「しみつかれ」「すみつかれ」など、地域によって異なります。栃木県では「しもつかれ」、茨城県の西部では「すみつかれ」と呼ばれているようです。また、名前の由来も諸説あります。『宇治拾遺物語』に「大豆をいりて酢をかけるを、・・・ “すむつかり”とて」とあり、これが語源になっているという説、大豆の表面のしわが、赤ん坊のむつかる顔(すねた顔を意味する方言)に似ているので、「すむつかり(酢憤)」といったという説、作り方の「酢み漬け」から「すみつかれ」と呼ばれたという説などさまざまで定かではありません。

 地域に根差して生み出された「しもつかれ」。文化庁が認定している100年続く食文化「100年フード」にも選ばれています。栃木県では「しもつかれウィーク」というイベントを開催し、数多くのしもつかれ商品が紹介されたり、高校生が江戸時代のしもつかれを再現した缶詰を開発したりと地域を盛り上げているようです。これからも受け継がれていく郷土料理ですね。