現実的な判断が曇ってしまう心理とは

あるミーティングでのことです。入社間もない新人が、業務手順の効率化について提案をしました。それは確かに理にかなったものなのですが、提案を聞いたリーダーは面白くありません。リーダーの心の中には、“確かに効率はよくなるかもしれないけど…。今までのやり方でも不都合はなかったし、変える必要はないんじゃないか。なにより、新人がこんな意見を言うもんじゃないよ…”という思いが沸いてきます。そして思わず、「うちの部署は前からこのやり方なんだ。新しいやり方を通すなら、もっと人間関係を築いてからだ。いいかい、新人はもっと謙虚にならないと…」と、みんなの前で指摘し始めました。新人の案は採用されず、場は凍りついてしまいました。
交流分析という心理学では、人の心の状態を、P(Parent)、A(Adult)、C(Child)という、3つの自我状態で捉えます。Pは理念・信念・風習・習慣といった価値モード、Aは“今・ここ”を冷静に見るような現実モード、Cは感じたことを素直に表現するような感覚モードといった感じです。Aが心の舵を取って、Pの価値やCの感覚を参考にしながらも現実的な判断をすることができれば理想なのですが、そうはいかないのが人間です。現実的な判断は、Pの価値モードやCの感覚モードによって曇ってしまうことがあるのです。
Aの現実モードが曇ってしまう状態を、交流分析では「汚染」と表現します。AがPの価値モードに汚染されると、まるでPの価値観を正当化するような言動になります。先ほどの会議の場のリーダーのように、これまでの風習を引き合いに出して「新人は謙虚であるべき」という自分の価値を強く訴えるような言動です。一方、AがCの感覚モードに汚染されたとしたら、自分の心の動揺を隠して、もっともらしい理屈を作り出すような合理化という心の動きが表れます。
厄介なのは、汚染されている本人は、Aの現実モードにいると思い込んでいることです。“新人のためには必要なことなんだ”という現実的な判断だと思い込んでいるので、周りが見えません。しかし、汚染状態から抜け出せないと、問題解決の可能性(この場合は業務効率化)が見逃されてしまいます。
汚染から抜け出す鍵はシンプルです。まずは間をおいて、深呼吸しましょう。次に、自分の心の中を駆け巡っている思いが、P(価値モード)からの声なのか、C(感覚モード)からの声なのかを点検してみましょう。そして、立場を変えて、自分の心の中の声に納得できるのか、自問自答してみてください。この3ステップを踏むだけでも、Aの汚染はクリアになると思います。
自分の心のモードを点検して、ビジネス場面で役立つ建設的な対話を目指してみましょう。