Vol.60 食と健康

疲労の救世主はなに?

 「生活スタイルが変わりストレスが増えたせいか、なかなか疲れが取れません。栄養ドリンクやコーヒーに頼っていますが、大丈夫でしょうか」「食べ物に気を付けると疲労回復が早いと聞きましたが、疲れた時にどのようなものを食べたらよいですか」などのご相談が管理栄養士の窓口には寄せられます。
 日本で本格的に疲労の研究が始まったのは1990年代から。「KAROUSHI」という言葉がそのまま世界で通用するほど、日本人の健康にとって疲労は大きな問題といえます。
 食事による疲労のセルフケアについて紹介します。

■疲労ってどんなもの?
 疲労は、発熱や痛みとともに3大生体アラームと呼ばれ、体の状態を一定に保とうとするホメオスタシス(恒常性)の乱れを知らせる重要な警報の一つといわれています。
 疲労は、体が自分の身体能力の限界を超えて活動してしまいそうな危機を事前に察知して活動を制限させる役割があります。疲労感や倦怠感といった不快な症状を起こし、休むように命じる重要な生体アラームが疲労だとわかってきています。

■疲労の原因物質は乳酸ではないの?
 疲労の原因は、筋運動による乳酸の蓄積といわれてきました。しかし、現在では、乳酸は疲労の原因物質ではないことがわかっています。
 近年の研究で明らかになったのが、疲労には活性酸素が関わっていることです。私たちの体は生きていく中で、多くの活性酸素を産生しています。細胞が若く健全な状態であれば、グルタチオンやアスコルビン酸(ビタミンC)などの抗酸化物質が有効に働いて、活性酸素を無毒化します。ところが老化の状態や慢性疲労、過労などでは、この抗酸化物質の働きが弱まり、十分に活性酸素を除去できないために疲労感が増すと考えられています。

■疲労回復に効果的なことは?
 疲労回復にはまず、体の恒常性を維持することが大切です。そのためには、生活リズムを整え、十分な睡眠、適度な運動などを心がけるようにしましょう。
 そして食事では活性酸素の発生を抑え、発生した活性酸素を除去するような工夫が必要です。食事が整い、体がスムーズに動くようになれば、疲れにくくなり、過労の予防にもなります。
 「これを食べれば即、疲れが取れる」といった万能な食品はありませんが、疲労回復に関係する栄養素や食品を紹介します。日々の食事に取り入れて、早めの回復に努めましょう。

 ■栄養ドリンクやコーヒーは救世主?
 確かに、疲労や倦怠感が続くと、栄養ドリンクやコーヒー、紅茶をつい飲みたくなりますね。しかし、疲れが取れたように感じるのはカフェインや微量なアルコールによる覚醒作用によるもので、効果が切れるとかえって疲労感が増すことがあります。カフェインにはビタミンやミネラルの排泄作用もあるので、摂りすぎには注意しましょう。

 長期にわたり疲れが取れない場合は、慢性疲労症候群や隠れた病気の可能性もありますので、受診することをお勧めします。