Vol.55 ハラスメント

部下とのコミュニケーション活性化を

 ダイヤル・サービスのハラスメント相談窓口に入る電話は、職場のハラスメントに関する相談ばかりではありません。4月は入社したばかりの新入社員や若手社員から、ハラスメント以外の相談も入ってきます。

 「入社して1年たつが、担当の仕事はなく、毎日、簡単な仕事を振られています。いつか先輩のようになりたいという目標はありますが、仕事の幅は広がらず、今のままでは焦りを感じます。上司に相談したら『焦らなくても大丈夫』と優しい言葉が返ってきました」
 ここまで聞く限りでは、上司にはハラスメントにあたるような言動はなく、相談者と上司は相談できる間柄で、関係は悪くなさそうです。でも、本当にそうなのでしょうか。この後、相談者は「もう我慢の限界だ」とつらい気持ちを吐露しました。明確な役割を与えてもらいたいだけなのに上司は気持ちを汲み取ってくれない、と不満を感じていることが分かりました。
 不満は、自分が抱いていた期待と現実のズレによって生じるものです。しかし、部下の立場では、どんなに不満を感じていても自分の気持ちを伝えない傾向があります。この相談者も、自分の気持ちを上司に伝える勇気がなかったと言っています。「不満」というネガティブな感情は相手にマイナスの印象を持たれかねません。評価に影響を及ぼしてしまうかもしれないと思うと、正直には伝えにくいものです。しかし、今のままでは上司から期待されていないと感じて、仕事に対するモチベーションも低下するでしょう。

 この相談者は上司とは相談できるような間柄です。それでも、上司が相談者の考えや思いを理解するほどに十分なコミュニケーションは、取れてはいなかったのかもしれません。
 私たちは、普段コミュニケーションを取っている相手とは、良好な関係はできている、うまくやれている、と思っています。しかし、もしも“部下のことが理解できないのではないか”と気になるようなことがあれば、さらなるコミュニケーションが必要です。根気よく続けていけば、部下の考えていることや性格、仕事に対する目標、モチベーションなどを知ることができるようになります。
 そこに至るまでにはそれなりの時間を要するかもしれません。でも心理的安全性が高まっていれば、部下は自分の不満や気持ちを上司に告げても大丈夫だと思えるようになります。そのような関係を築くことができていれば、相談者もつらい思いを抱えてハラスメント相談窓口に電話をすることはなかったでしょう。
 4月は、新入社員や新しい部下と出会う季節です。まずは上司であるあなたから、コミュニケーションを活性化してみてはいかがでしょうか。

参考文献:山浦一保「武器としての組織心理学 人を動かすビジネスパーソン必須の心理学」(ダイヤモンド社)2021年

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