Vol.33 労働制度・権利

医師の働き方改革とは?2024年4月適用開始の制度内容と対策方法まとめ

2024年1月12日

2024年4月から適用開始予定の医師の働き方改革によって、時間外労働時間の上限が変わります。医師の働き方改革とは?病院やクリニックの課題は?制度に対応するために必要な対策を解説します。

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2024年4月より、医師に対しても時間外労働の上限規制の適用が開始されます。
過重労働が当たり前とされてきた医師の労働環境を変え、持続可能な医療体制を構築するにはどうすれば良いのでしょうか。
この記事では医師の働き方改革の内容と、医療機関が取るべき対策についてまとめます。

医師の働き方改革とは

医師の働き方改革とは、国や地方自治体、医療機関などが、医師の長時間労働を改善するために行う取り組み全般を指します。
「働き方改革」とは、様々な背景を持つ人々が多様な働き方をできる社会を目指すための取り組みです。この流れの中で、2019年には一般労働者を対象に時間外労働の上限規制が設けられましたが、診療を行う医師などの一部の職種においては、業務上の慣行や特性から直ちに規制を適用するのは難しいとして、5年間の猶予期間が与えられており、2024年4月から上限規制の適用がスタートすることになりました。

医師の働き方改革が必要な背景とは|2024年から始まる理由

令和元年に厚生労働省が行った調査によると、約4割の医師の時間外労働が年間960時間を超えており、その倍以上の時間外労働を行っている医師も約1割ほどいることが分かっています。
以前から、日本の医療は医師の常態的な長時間労働に支えられていることが指摘されてきました。それに加えて、近年では高齢化により医療の需要が増えていることや、高度化する医療技術を習得する時間を確保しなければならないことなどから、一層その傾向は強まっています。
しかし、安全かつ質の高い医療を提供してもらうためには、長時間労働の問題を是正しながら医師の勤務環境を整備し、その健康を守ることが重要です。また、働きやすい環境を作ることで、少子高齢化が進む中でより多くの人材を確保し、今後も日本の医療体制を維持していく体制作りの側面もあります。

一般的な職種では2019年4月(中小企業では2020年4月)から適用が開始されていた時間外労働の上限規制ですが、自動車運転業務や建設事業等の他のいくつかの職業とともに医師については猶予が与えられ、適用開始が2024年4月からとなっています。医師の過重労働を前提に成り立っていた医療体制を、新たな法に則ってただちに改革することは難しく、特に地域医療などで医師の不足が発生する可能性があったためです。

医師の働き方改革の主な変更内容3つ

①時間外労働の上限規制
2024年4月からは、勤務医の時間外労働時間は、原則として年960時間が上限となります。以下のやむを得ない理由によりそれを超えて働かなければならない場合は、医療機関は都道府県知事から指定を受けなければなりません。なお、指定を受けた医療機関に所属する全ての医師に適用されるものではなく、指定される事由となった業務に従事する医師にのみ適用される点、所属する医師に異なる水準を適用させるためには、医療機関はそれぞれの水準についての指定を受ける必要がある点に注意が必要です。

医療機関に適用される水準長時間労働が必要な理由年の時間外・休日労働上限時間
A水準(指定を受けない場合は、医師は原則A水準に分類される)960時間
連携B水準医師を派遣する場合、他院と兼業する医師の労働時間を通算すると長時間労働となるため通算で1,860時間
(各院では960時間)
B水準救急医療等の地域医療の確保のため1,860時間
C-1水準臨床研究・専門研修医の研修のため1,860時間
C-2水準長時間修練が必要な技能の習得のため1,860時間

②医療機関勤務環境評価センターの設置
B水準やC水準の指定取得を希望する場合は、医療機関は医療機関勤務環境評価センター(通称:評価センター)の評価を受ける必要があります。原則として年間の時間外労働時間は960時間なので、それを超える場合は医師の労働時間を短縮するための取り組みを行っていることを示すことも求められます。都道府県は、その評価の結果をもとに指定の可否を決定します。
評価センターは、

・医療機関内で適切な労務管理体制が敷かれているか
・他の職種にタスクを移管・共有したり、会議を効率化したりするなどの労働時間短縮に向けた取り組みを行っているか

などの観点から評価を行います(評価項目と評価基準は「医療機関の医師の労働時間短縮のと取組の評価に関するガイドライン」に示されています。)。

※B水準は2035年度末に終了すること、C水準についても将来的に減らしていくことが目標とされています。

③健康確保のための追加ルールの設定
また、医師の健康確保のために以下の体制を整備することも求められます。
勤務間インターバル・代償休息
勤務シフトを作成する際には、勤務の間に適切な休憩時間を確保することが求められ、これを勤務間インターバルと呼びます。日勤や宿日直許可のある場合は始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間、宿日直許可がない宿日直の場合は始業から46時間以内に18時間の休息時間を確保する必要があります。
また、何らかの緊急事態によってこれを確保できなかった場合は、「代償休息」として事後的に休憩時間を与える必要があります。

面接指導
月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる医師には面接指導を行い、勤務の状況や睡眠がとれているか、疲労がどの程度溜まっているかなど心身の状況について確認します。この際、面談を行う医師は直属の上司でない方が望ましいとされています。
面談担当者は面談の結果を所属する病院等の管理者に提出し、それを受けた管理者は必要に応じて労働時短の短縮などの適切な措置をとることが求められます。
注意点としては、面談は時間外・休日労働が100時間以上となってから事後的に行うのではなく、100時間以上となることが見込まれる段階(100時間に達するまでの間)で行う必要があることです。

医師の働き方改革を進めるときに抱える課題点

・労働時間の正確な把握医師は、他の職種と比較して労働時間を正確に把握することが難しい職業です。
医療機関では、医師だけでなく看護師や薬剤師、医療事務などの様々な職務の人々が勤務していることや、日勤以外にも夜勤や宿日直、時間帯による交代制など複数の働き方があることから、勤怠の管理が複雑になっています。ICカードや位置情報を利用した勤怠管理システムを導入する医療機関が増えていますが、紙やExcelでの勤怠管理を行っている場合は、本人の記載を上司等が必ず確認し、客観的が担保された記録となるようにする必要があります。
加えて、副業や兼業をする医師も多くいるため、主たる勤務先である病院では、副業先・兼業先での勤務実態も把握したうえで働き方改革の内容に沿ったシフトを設定することが求められます。

・人手不足
少子高齢化により、医師の担い手は減りつつも、医療のニーズは高まっています。また、都会志向の医師が増えている影響で、地方の医師不足は加速しています。
これに加えて今回時間外労働の上限規制が適用され、従来のような長時間労働が出来なくなると、医療機関はさらに医師の数を増やす必要があります。
また、従来は大学病院等の比較的規模の大きな病院が地域医療を支援するために医師を派遣してきましたが、上限規制が適用されると派遣を中止せざるを得ない場合があることも指摘されており、地域医療が成り立たなくなることも懸念されています。

医師の働き方改革に向けて行うべき6つの取り組み

①医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み
まずは、医師の勤務時間について正確に把握するようにします。ICカードやタイムカードなどの機器を導入することが望ましいですが、他の方法で勤怠管理を行っている場合も、記録を上司が確認する手順を踏むなどして、勤務時間を客観的に把握するようにしましょう。

②36協定等の自己点検
協定に沿わない時間外労働をさせていないか確認しましょう。
1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合は、労働基準法第36条に基づく労使協定(通称36協定)を締結し、時間外労働の限度時間数を定めなければなりません。協定なしに時間外労働をさせていないか、また限度時間数を超過した時間外労働をさせていないか注意する必要があります。

③産業保健の活用
産業医による面接指導や健康相談を活用して、長時間労働や、それに伴うメンタルヘルス等の問題を抱えている医師・診療科への対応策を検討しましょう。

④タスク・シフティング(業務の移管)の推進
タスク・シフティングとは、医師が担ってきた業務を看護師・薬剤師等の他の医療スタッフに移管することで、医師への業務の集中を分散し、負担を軽減することを目的とする取り組みです。特に点滴に係るものや、書類の入力などの業務は医師以外のスタッフが実施することが推奨されています。

⑤女性医師等の支援
女性医師が出産や育児などと両立して働きやすいよう、短時間勤務等の柔軟な働き方を推進するなどの支援を行いましょう。

⑥医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取り組み
上記①~⑤に加えて、各医療機関の状況に応じた以下のような取り組みも求められています。

勤務時間外に緊急でない患者への病状説明等を行わないこと
連続勤務時間数を考慮したシフト設定とすること
複数主治医制の導入など

医師の働き方改革の取り組みにおいて具体的にやるべきことは2つ

①労務管理の徹底
時間外労働の上限規制に対応するには、医師の勤務時間を正確に記録・把握する必要があります。そのために重要となるのが以下の2点です。

出勤・退勤時間の把握
まずは正確な出勤・退勤時間を把握するようにしましょう。厚生労働省は客観的な記録を取る手段としてタイムカードやICカード、パソコンなどの方法を推奨していますし、他にもスマホアプリや、ビーコンを用いるものまで、その種類は多岐に渡ります。これ以外に、紙やExcelなど、医師の自己申告に依存する方法で記録を取っている場合は、上司などが確認することとし、客観的で正確な記録とするよう心がけましょう。

時間外業務と宿日直、自己研鑽などとの区別を明確にする
時間外業務と、宿日直や自主的な研鑽との区別をすることも重要です。宿日直については、労働基準監督署の許可を得たものに関しては労働時間から除外することが可能です。
また、自己研鑽については詳細は各医療機関に委ねられていますが、所定の労働時間外に上司の指示無く自主的に行われるものに関しては労働時間に含める必要がないとされています。

上記の双方において、副業・兼業先における勤務実態についても主たる勤務先は把握しなければなりません。

②タスクのシフト、シェア
医師の長時間労働を減らす方策として、タスクシフト/シェアにも取り組むようにしましょう。書類作成業務や説明業務などの医療行為ではない業務は、特に医師から他の職種に移行することが推奨されています。また、特定の職種に移行が推奨される医療行為については厚生労働省が詳細に示していますので、こちらをご覧ください。
また、認定看護師を活用したり、看護師に特定行為研修を受講することを推奨するなどして、医師以外の医療専門職の対応可能業務を増やすことも奨励されています。
現行の法制度ではタスクシフト/シェアが難しい業務については、法改正を行うことも検討されており、今後も医師から他の職種に移管される作業は増えそうです。

医師の働き方改革を実際に取り組んだ成功事例

労務管理やタスクシフト/シェアへの取り組み方にも、様々なアプローチがあります。ここでは、厚生労働省が紹介する事例の中から、「変形労働時間制」と「チーム制」についてご紹介します。

①変形労働時間制の導入
決まった時間に出勤・退勤すると、その所定の時間帯以外の勤務は全て時間外労働となってしまいます。しかし、変形労働時間制を導入すると、事前に決まっている外来診察や手術、会議の時間帯に柔軟に合わせて出退勤することができ、時間外労働を削減することが可能ですし、効率よく働くことで医師の負担も減ります。また、毎日決まった時間に勤務する必要がなくなるため、事前に診察や手術が入っていない日を休みとし、宿日直が入っている夜間を勤務時間とすることも可能になります。
補足として、「変形労働時間制」とはフレックスタイム制とは異なります。
変形労働時間制とは、1カ月、1年などのうちの一定期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間以下であれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。フレックスタイム制においては労働者である個人が自由に出退勤の時間を設定することができますが、変形労働時間制においては、使用者の側が仕事量に応じて労働時間を調整するのが特徴です。
なお、「フレックスタイム制」についてより詳しくご覧になりたい方は、こちらの記事をご参照ください。

②チーム制の導入
医師から他職種へのタスクシフトだけでなく、医師間でタスクを共有することも、労働時間を短縮するためには有効です。
チーム制とは、複数人の医師がチームとなって患者の診察や対応に当たる仕組みです。現在日本で一般的な主治医制は、患者一名に対して医師一名が主治医となって何かあれば休日や夜間でも主治医が担当することとなっており、この方式だと医師は休息時間を十分に取ることが難しいことが指摘されています。一方チーム制では、当番の医師以外は休日や深夜に休息を取ることが可能になるため、過労を防ぐ効果があることが指摘されています。

取り組み事例の一覧はこちら

2024年から始まる医師の働き方改革でよくある質問

ここでは、医師の働き方改革についてよく寄せられる質問を紹介します。

・医師の働き方対策の対象者は?
今回、2024年4月から以上の上限規制の対象となるのは、病院、診療所、介護老人施設などに勤務する医師(「特定医師」)です。これに当てはまらない産業医や、検診センターで働く医師、研究を主な業務とする医師などは、同じく2024年4月から、一般労働者の時間外労働の上限規制が適用されます。なお、歯科医師や獣医師については、2019年(中小企業では2020年)に一般的な事業や業務と共に上限規制の適用が開始されています。

・医師の働き方改革で外勤はどうなるのか?
時間外労働の上限規制は、主たる勤務先での労働時間と、外勤先での労働時間を合算したものについて適用されます。そのため、主たる勤務先の労働時間だけで上限に達してしまい、外勤ができなくなる可能性や、外勤の医師を受け入れることで成り立っている病院や診療所の運営が難しくなる可能性もあり、対応が模索されています。
また、常勤先の病院は、医師に自己申告してもらい、外勤先での勤務時間を把握する必要があります。申告漏れを防ぐためのルールや手続きを作成し、周知するようにしましょう。

まとめ

医師の長時間労働は長らく認知されていましたが、その業務の特殊性から、厳しい勤務の実態も仕方ない、改善することは難しいと思われてきました。

今回の改革で、医療業界は大きな転換点を迎えることになります。医療の高度化によって医師の負担は今後も増加していくこと、少子高齢化によって医療ニーズが増加する一方で医療の担い手は不足することなどが予想されており、質の高い医療を持続的に提供できる体制をなるべく早く構築する必要があります。
しかし、新たな制度を導入し、組織を変化させていく中では、今まで抱えることのなかった問題も浮上するでしょう。制度の適用はまだ開始されていませんが、既に残業時間を改ざんされるなどのハラスメントや、宿日直許可を乱用することで見かけ上の労働時間を減らす不正行為などが横行することが懸念されています。

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窓口を外部に設置することで、より多くの相談が集めやすくなること。相談についてのフィードバックが病院に送られることで、法令の遵守はもちろん、医師にとってより働きやすい環境を整備することが期待できます。
昨今では組織を運営する上でのウェルビーイングの重要性が注目されています。人命を預かるという業務の特殊性を過度に強調して過重労働を当たり前とするのではなく、一労働者として適正な勤務環境を整備し、医師個人の権利や心身の健康を守るような環境を整備することは、長期的には自院における医療の質・安全を確保し、離職を防止して持続的に医療を提供することが可能となるなど、組織全体の利益へと繋がることが期待されます。
医師の勤務環境の改善策をお考えの方は、是非一度、当社サービスの活用をご検討ください。

参考サイト

医師の働き方改革を進めるための タスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理

フレックスタイム制とは? その基本概要から目的、仕組みなどを、導入企業などの特徴を交えながら解説

いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ)|取り組み事例

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