Vol.32 特定事例・事件

日本大学アメリカンフットボール部薬物事件の時系列順まとめ|学生の薬物使用から考える内部通報の意義

2023年12月21日

日本国内の大学アメリカンフットボール部の中でも、有数の歴史と成績を誇る名門チームに起こった薬物使用事件と、それに関連する日本大学の対応が大きな波紋を呼んでいます。
この記事では、日本大学アメリカンフットボール部薬物事件に対応に係る第三者委員会が提示している、2023年10月30日付の調査報告書(以下、「調査報告書」)をベースに、日本大学アメリカンフットボール部(以下、「アメフト部」)の薬物事件の内容と、それに関連する大学側の対応の問題点を見ながら、内部通報の意義を考えます。

日本大学アメリカンフットボール部薬物事件の概要

まず、日本大学アメリカンフットボール部の薬物事件(以下、「本薬物事件」)の概要について、2023年12月8日までの事象を時系列順にまとめます。

日付 出来事
2022年10月 アメフト部指導陣が、保護者よりアメフト部内にて大麻使用の噂がある旨の情報を取得。ヒアリングを実施し、使用が疑われる部員の名前が上がるが、当人達は否定。
2022年11月 ヒアリングで名前が上がっていた部員が大麻使用を自己申告し、他7名の部員も使用していることを告発。自己申告した部員に対し厳重注意処分を実施。
2022年12月 警視庁の係官が来校し、部内に大麻使用者がいる旨の匿名通報があったことを副学長と競技スポーツ部長らに伝達。
2023年6月 警視庁係官が、部員の大麻使用を指導者が知っていること等を記した匿名メールが届いたことを副学長に伝達。副学長は学長に報告。
2023年7月6日 強制捜査の可能性を受け、副学長が部員へのヒアリングと荷物検査を実施。寮内で大麻と思われる植物片が保管された缶を発見し、12日間大学本部に保管後、警察に報告。
2023年7月13日 副学長が理事長にアメフト部員の薬物使用疑いを報告。理事長は部員の所持品から大麻らしきものが発見されたことを認識。
2023年7月18日 部員の保護者から問題の内容と隠蔽の疑いについての手紙が理事長に届く。広報部は「大麻が見つかった事実はない」と返答。
2023年7月19日 荷物検査で発見された植物片の持ち主が大麻使用を認める。
2023年8月2日 日本大学がプレスリリースを出し、「アメフト部の寮内に違法な薬物が見つかった事実はない」と発表。理事長が同様の発言を囲み取材で断言。
2023年8月5日 部員1名が違法薬物所持で逮捕。その後、10月16日に2人目、11月27日に3人目の部員が逮捕。
2023年11月28日 学内会議にて、アメフト部の廃部方針を決定。
2023年11月29日 現役部員有志が廃部方針撤回の要望書を日本大学へ提出。
2023年12月1日 アメフト部員1名が書類送検。最初に逮捕された部員の初公判で「副学長がもみ消すと思った」と陳述。
2023年12月4日 日本大学が会見を開催。理事長はアメフト部の廃部方針について「継続審議する」と発言。
2023年12月6日 日本大学が廃部方針の提示後、初の部員向け説明会を開催。

大学側の対応が不適切と認識される原因や背景

本薬物事件をめぐる日本大学の対応を検証した第三者委員会の報告書では、不適切な行為を生んだ原因や背景を以下の7つに分類していますが、複数の原因が複合的に絡んで生じたものであると指摘しています。

1. 基本的姿勢の不適切さ
不都合な情報を無視し得られた情報を都合よく解釈して自己を正当化するという姿勢が、全ての場面で顕著だとしています。
本薬物事件の対応を進める中で、「刑事訴訟において有罪判決になるのか」や「その立証がなされうるのか」という判断基準の下で様々な意思決定がされ、アメフト部の学生寮において複数の部員が薬物を使用していたことが高い蓋然性をもって疑われることになれば、大学の社会的信用に深刻な影響を及ぼすことが十分に理解されないまま対応が重ねられたことを指摘しています。

2. 学生・部員への教育的配慮に欠けた対応姿勢
日本大学が定める内部規程等に従うと、アメフト部の指導陣や部長、競技スポーツ部、担当副学長らは、アメフト部の運営管理において適切な薬物防止策を採ることや、学生寮の適切な管理を求められていたというべきであり、日大の学生に対する保護ないし安全配慮義務は、一定の範囲で在学契約に伴う付随的義務になることもあると考えられると指摘しています。
また、本薬物事件の対応においては、前項述べた基本姿勢の不適切さと合わせ、立証されなければ薬物使用の事実はないと判断するという不適切な基本姿勢や判断基準が、寮内の規律の乱れから学生が犯罪行為等の不適切な行為に巻き込まれ、心身の健康が害されるおそれがあっても十分な対応をしないという教育的配慮に欠けた姿勢に繋がったとしています。

3. ガバナンスの機能不全
仮に、教職員や役員が誤った職務執行を行ったとしても、上位者や上位組織(学長、理事長、理事会、監事)によってそれが制御・牽制されてこそ、適正なガバナンスが実現できることはいうまでもなく、本薬物事件における不適切な基本姿勢や不適切な行為を制御・牽制すべき上位者や上位組織によるガバナンスが全く機能していなかったことを指摘しています。
情報の独占や適切な報告の未実施
本薬物事件においては、学生及び教職員等による犯罪行為等を含む危機事象への対応方針を定めた危機管理規程に基づき義務付けられた報告や業務管理上必要な報告がされず、必要な情報が一部の人間に独占されたことが、早期の危機管理態勢の構築を妨げ、意思決定の誤りに繋がったと指摘しています。

4. 危機管理規程の不遵守
日本大学においては、不正・不祥事案が発生した場合に対応するため、危機管理規程及び危機管理基本マニュアル、不正・不祥事案等対応マニュアルが定めているが、本薬物事件においては、当該規程に基づく報告がされておらず、機能していなかった点を指摘しています。なお、危機管理規程が機能しなかった原因としては、危機管理規程とマニュアルに曖昧さがある点や、規程と異なる運用がされていた点を挙げています。

5. 不明確な権限と責任
組織における内部統制の基本は、権限の所在を明確にし、その権限行使に関わる責任の帰属を明確にすることであり、組織の効率的で適正な運営に不可欠であると言及されています。
本薬物事件においては、教学案件と法人の危機管理の区別が曖昧であり、危機管理における最高責任者が誰であるのかという整理がされていなかった点等が指摘されています。

6. 組織風土
学長や副学長といった法人における上位管理者による明白な規程違行為等に象徴されるコンプライアンスに対する意識の欠如を挙げています。
また、「不祥事を起こした場合、その事実を徹底的に調査し、その事実をすべて社会に公表し、適切な処分と再発防止策を実施する」という基本的な姿勢や、「危機管理の最大の目標は、目先のダメージ回避ではなく、最終的な信頼の回復である」という点が理解されておらず、危機管理についての知見や認識の欠如を指摘しています。

薬物事件を通して考える内部通報の意義

調査報告書では大学側の内部統制上の問題点にフォーカスが当てられており、日本大学も今後の学内におけるコンプライアンス遵守やガバナンス向上等、内部統制の整備に取り組まれることが公表されています。また、メディア等では、大学側の動向と共に、アメフト部の存続等が継続的に報道されているようです。

内部統制の整備は非常に重要なテーマであることは明白ですが、本薬物事件を踏まえ、今後の対応を考えていく際に忘れてはならないのは、本薬物事件による部活動停止の影響により生活環境が大きく変化したり、アメフト部を含む日本大学に対する風評に晒されることで、精神的に大きな負担を負うことになる学生ではないかと考えます。

ここでは、一般企業や学校法人などを問わず、内部統制の一部分として当社が提供しているサービスでもある『内部通報』という観点で、本薬物事件を通じた教育機関における内部通報の意義を改めて考えてみたいと思います。

少し単純化した比較にはなりますが、大学生と高校性の教育環境を比較した場合、大学生という立場は、年齢を含む社会的な位置付けがより成人に近づくことにより、興味関心の範囲が広がると同時に多様化が一段と進み、自己裁量による活動範囲が拡大する為、教育機関が学生を管理することの難易度は高まるものと思われます。

一方、学生自身が大学生という立場に伴う自己責任の拡大を適切に理解することが難しく、その過渡期の中で大学生たちが好奇心や仲間からの同調圧力によって違法薬物を使用するなどの問題行動を行ってしまう可能性が高まるものと考えられます。

問題行動を起こしてしまった当事者に対しては、然るべき処分があるべきだとは考えます。一方で、好奇心や興味、その場の雰囲気に流されて違法薬物を使用してしまった学生がいたとすれば、そのような行動を後悔し、状況を変えたいと考える学生もいるのではないでしょうか。

本薬物事件を振り返った際も、保護者からの情報提供やアメフト部員からの自己申告、警視庁ホットラインを利用した匿名通報など、当事者や関係者が状況を変えようとする自発的なアクションが行われていることを改めて認識すべきです。

内部通報制度の整備は、『問題行動を可能な限り早く把握し、適切に対処することに有効』ということだけではなく、問題行動を行ってしまった人やその行動は行っておらずとも認識してしまった人に対するサポート手段として機能する可能性があるものだと捉えることもできます。また、そのような認知を広め利用しやすい環境を整えていくことも重要だと考えます。

事業者としての取り組み

近年、一般企業や学校法人等において、内部統制やコンプライアンス遵守に関わる意識がますます強くなっているものと思われます。
法令という観点でも、2022年6月に改正公益通報者保護法という法律が改正され、300人以上が所属する組織における内部通報制度の整備が義務化されています。
日本大学に置かれましても内部通報の整備は進められており、法令で求められる利用者の範囲である学校法人の役職員だけでなく、学生の方々まで利用することができるようにして制度整備に取り組まれています。

当社のような事業者側も、利用者により適切に相談・通報(以下、「通報」)を行ってもらえるような環境が提供できるように、以下のようなサービスをしています。
・通報方法の多様化
電話やウェブだけでなく、チャット形式での通報が可能であり、匿名を希望される場合は匿名のまま継続的にコミュニケーションが可能です。
・情報共有の確保
通報や相談内容について、顧客となる組織の要望に合わせた複数の送付先に設定することが可能であり、本薬物事件でおきた特定の人間による情報の独占を防ぐことが可能です。

当社の場合、一般企業や学校法人を問わず、内部通報の外部窓口サービスとして「企業倫理ホットライン」を提供しています。組織で発生する不正事象はもちろん、学校法人におけるアカデミックハラスメントや研究費の不正使用等の問題に加え、本薬物事件のように告発しにくい事象についても匿名で通報や相談をすることが可能です。
「相談者や通報者の身元が分かってしまうのではないか」等、企業や学校の担当者が受付を担当する相談窓口に対する不安を取り除き、利用者にとって相談や通報の心理的ハードルができるだけ下がるような工夫をしています。
内部通報制度の整備について、情報収集や検討を進めている担当者の方は、当社にお声掛けいただければと思います。

参考サイト

企業倫理ホットライン

コンプライアンス研修

コンプライアンスの基礎知識から通報時の対応まで幅広いラインアップ

当社のサービスを網羅したサービス資料を差し上げます。

当社のサービスを網羅したサービス資料を差し上げます。
また、メルマガでは定期的に人事の方向けに有益な最新情報を発信しています。

メールマガジン登録

資料請求

資料をご請求いただき、誠にありがとうございます。
後ほど、資料ダウンロード用URLを記載したメールをお送りさせていただきます。
その際、メールもしくはお電話させて頂く場合がございますので、予めご了承ください。