Vol.27 労働制度・権利

譴責処分とは?懲戒処分における位置付け、処分対象や処分の流れ、注意点を解説

2023年10月20日

譴責(けんせき)処分は、懲戒処分の中では軽い処分に分類されます。従業員が自分のしたことに対して始末書を提出して反省をし、同じ過ちを繰り返さないことを約束します。軽い処分ではありますが、就業規則に記載がない場合は行うことができず、懲戒権の濫用に当たる場合は無効となります。譴責処分を行う際には、事前に十分な調査と検討を行いましょう。

日常ではあまり使われない「譴責(けんせき)」という言葉。「しかり責めること。不正や過失などを厳しくとがめること」、「懲戒処分のうち最も軽いもの。職務上の義務違反について警告し、将来を戒めること」という意味を持っており、ビジネスの世界では、会社が従業員に対して譴責処分を行うことがあります。
ここでは、譴責処分の概要や懲戒処分の種類・訓戒や戒告との違い、譴責処分の対象となる行為、譴責処分の手続き・流れ、譴責処分を行う際の注意点などについて解説します。

譴責処分とは?

譴責処分とは、懲戒処分の一種であり、従業員が自分のした違反などに対して企業側が厳重注意することをいいます。従業員に対して始末書の提出を命じることもあります。
譴責処分の対象となる行為は法律ではなく、各企業の就業規則によって定められます。譴責処分は比較的軽い懲戒処分であるため、軽微な就業規則違反を譴責処分の対象にしている企業が多いです。
譴責処分は厳重注意を与えるものに過ぎず、減給や降格などの重い制裁は伴いません。ただし、譴責処分を受けるようなことをしてしまった従業員には、処分を重く受け止めて、二度と同じことを繰り返さないという決意が求められます。
なお、譴責処分を受けた旨を履歴書の賞罰欄に記載する必要はありません。従業員から質問された際には、そのように伝えてください。

懲戒処分の種類・訓戒や戒告との違い

譴責処分は懲戒処分のひとつです。懲戒処分とは、従業員が就業規則に違反した場合に下される処分のことで、一般的には、戒告処分、譴責処分、減給処分、出勤停止処分、降格(降職)処分、諭旨解雇処分、懲戒解雇処分などがこれにあたります。処分の重さは上記記載の順に重くなります。なお、訓戒処分というのもありますが、これは、戒告処分、譴責処分と同様に、従業員に対して厳重注意を与える処分です。

●戒告処分
従業員の行動を戒めるために、文書や口頭で注意する処分です。譴責処分と実質的に同じですが、始末書を提出させるかどうかで区別している企業もあります。

●減給処分
賃金から一定額を差し引く処分です。減給については、労働基準法第91条において規制があり、「1回の額(すなわち、1件の懲戒事案についての減給額)が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」、「数件の懲戒事案について減給処分を科す場合、その総額が一賃金支払い期において支払われる賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。
<労働基準法第九十一条>
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

●出勤停止処分
一定期間就労を禁止し、自宅にて謹慎などをさせる処分です。出勤停止中は、賃金が支給されません。

●降格(降職)処分
職位や役職を現状より低いものに下げる処分です。位が下がるだけでなく、減給を伴うことが多いため、従業員にとっては大きなダメージになります。

●諭旨(ゆし)解雇処分
従業員に対して退職を勧告する処分です。「諭旨」は言い聞かせるという意味を持っています。まずは退職届の提出を勧告し、この時点で退職届が提出された場合は退職扱いとなり、提出されない場合は懲戒解雇を行います。

●懲戒解雇処分
従業員を強制的に退職させる処分です。会社資金の横領、窃盗、傷害など重大な刑法犯にあたる行為をした場合や、業務に必要とされる資格や免許を有していると偽っていた場合などは懲戒解雇に相当することが多いです。
なお、懲戒解雇を行う場合には、原則として30日前に解雇予告をするか、または30日分以上の平均賃金を支払わなくてはなりません。

<労働基準法第二十条一項の条文>※条文ママ
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

企業は従業員に対して、就業規則に規定されていない懲戒処分を行うことはできません。譴責処分は軽い処分であるとはいえ、就業規則に定められていない場合には認められないということです。懲戒処分を行わざるを得ない事態に備えて、あらかじめ就業規則上の懲戒規定を整備しておきましょう。

なお、懲戒処分に関する事項を就業規則で定める必要があることは、労働基準法第89条9項に記されています。

<労働基準法第八十九条九項>※条文ママ
就業規則
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

<懲戒処分について就業規則に定めるべき事項>
●懲戒処分の種類やその程度(必須)
懲戒処分の種類(戒告処分、譴責処分、減給処分、出勤停止処分、降格(降職)処分、諭旨解雇処分、懲戒解雇処分など)や制裁の具体的な内容を記載します。
●懲戒処分する理由(必須)
懲戒処分ができる場合(=懲戒事由)を記載します。重大な非違行為については具体的に列挙した上で、幅広い行為をカバーするため、ある程度抽象的な懲戒事由も定めるのが一般的です。
●懲戒処分の手続き(任意)
懲戒処分の可否や種類を判断するための手続きを記載しておくと、適正手続きの観点から懲戒権の濫用と判断されるリスクを抑えられます。

譴責処分の対象となる行為

懲戒処分の中でも軽い部類である譴責処分には、一例として以下の行為が相当します。総じて、仕事上の中程度以下のミスや単発での非違行為などが譴責相当と考えられます。

●正当な理由がなく、早退や遅刻、欠勤をした
●企業が所有する営業車で事故を起こした(けが人や被害者が出ない程度の物損事故など)
●周りが不快になる態度をとって反省の様子がない
●ミスを隠して、顧客からクレームがきた
●連続してアポイントを忘れて、商談が破談になった
●禁止されているにもかかわらず、寝坊を理由に自家用車で通勤した
●工場の機械操作を誤り、数時間操業を停止させた
●商品運搬中に転んでしまい、商品を破損させた
●同僚同士で意見が食い違って口論となったが、それでは抑えきれずに物を投げつけてしまった
●上司が部下にミスを押し付けて、責任逃れをしようとした

譴責処分は、始末書を提出した本人が反省し、二度と繰り返さないことを前提としています。譴責処分後も反省の色がなく、同じことを繰り返すようであれば、もっと重い処分を与えることも考えられるでしょう。

譴責処分の手続き・流れ

譴責処分を行うにはどのようなステップを踏む必要があるのでしょうか。ここでは、手続きやその流れをチェックしていきましょう。
なお、譴責処分は懲戒処分の中でも軽い部類ですが、軽いからと言って上司の裁量で簡単に行っていいものではありません。譴責処分には労働契約法第15条の適用があり、客観的合理性と社会的相当性が認められない場合、処分が無効となるという点は覚えておきましょう。

<労働契約法第十五条の条文>
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

ステップ1:事実関係の調査
譴責処分の対象となるような問題や行為が発生しているという情報が入った場合は、まずは事実関係の調査を実施します。物的な証拠を収集したり、社員へ聞き込みをしたりして、問題や行為が確実なものであることを確認します。

ステップ2:本人へのヒアリング
証拠がそろったら、本人に事実確認をします。本人の言い分を聞き、譴責相当の行為の内容や背景を探っていきます。

ステップ3:処分の手続きの確認
就業規則で定められている懲戒処分の手順を確認します。定められた手続に従わないと、不当な処分とみなされて、譴責処分が無効となる可能性があるので注意しましょう。

ステップ4: 当事者への告知
譴責処分を決定した場合は、その旨を書面で本人に通知します。通知書面には、譴責処分の理由や就業規則の根拠条項、処分内容(ここでは譴責処分)を記します。また、始末書の提出が就業規則で定められている場合は、提出を命じる旨と提出期限を記載しましょう。

ステップ5:始末書の確認
始末書が提出されたら内容に目を通します。そして面談などを通して本人の口からも内容についての説明や反省点、今後二度と行わないということを話してもらい、誓約させましょう。
始末書の提出を従業員に拒否された場合は、就業規則の規定に従って提出することを再度求めましょう。提出拒否に関するやり取り(メールなど)は保存しておき、従業員が拒否の姿勢を崩さない場合は、更に重い懲戒処分を行うことも検討すべきです。

譴責処分を行う際の注意点

譴責処分を行う際には、以下の要件が揃っていることを確認する必要があります。
①就業規則に譴責処分を行うことがある旨が定められていること
②就業規則に懲戒事由が定められており、そのうちいずれかに該当すること
③労働者の行為の性質・態様等に照らして、譴責処分に客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当と認められること

就業規則については、従業員がいつでも閲覧できる状態にしておく必要があります。従業員が閲覧可能な就業規則において、懲戒処分の種類(譴責)と懲戒事由をあらかじめ定めておきましょう。

譴責処分の客観的合理性・社会的相当性については、過去の社内における処分事例や裁判例などを参考に判断しましょう。過去事例に比べて処分が重すぎる、同じ問題を起こしても人によって処分の重さが違うなどの場合は、譴責処分が無効となるおそれがあります。従業員の好き嫌いではなく、行為の性質・態様に焦点を当てて判断することが大切です。

譴責処分が有効、無効となった判例

譴責処分の有効性が問題になった裁判例を紹介するので、実際に譴責処分を行うかどうか判断する際の参考にしてください。

●社内に批判的なメールを送信(東京地裁 平成25年1月22日判決)
契約社員が非正規社員13名に対して、雇用終了の話があって応じる必要はないといったような内容を含む、会社に対する批判的なメールを送信したことにつき、企業側が契約社員に対して譴責処分を行いました。裁判所は、会社側の発言の問題点を棚上げしていることや、会社に実害が生じていないことなどを指摘して、譴責処分を無効としました。

●ハラスメント調査による情報漏えい(名古屋地裁令和元年7月30日判決)
私立大学の教授がハラスメント調査を実施した際、ハラスメントの具体的な情報を伝えながら調査を進めた行為が情報漏えいにあたるとして、大学が教授に対し譴責処分を行いました。裁判所は、教授がした行為は目的を達するために行われたもので正当とみなし、譴責処分は無効となりました。

●業務命令違反(東京地裁令和元年12月5 日判決)
早退が多い従業員に対し、会社は勤務態度を改善するために導入している社内制度の適用を提案しました。しかし、従業員はこの提案を拒否したため、会社は従業員に対して譴責処分を行いました。裁判所は、当該社内制度を適用したことは合理的であり、従業員が拒否したことは懲戒事由にあたるとして、譴責処分を有効としました。

●メールで訴訟しますとの発言(東京地裁令和3年9月7日判決)
企業年金を確定拠出年金に移行するため、会社の担当者が労働者に関係書類の提出を求めました。これに対して、メールにて「私が不利益を被ることがあれば訴訟します」と返信した従業員につき、会社は脅迫および非協力的な態度を理由に譴責処分を行いました。裁判所は、従業員に弁明の機会を与えなかった点が手続的相当性を欠くとして譴責処分を無効とし、労働者が被った精神的損害10万円の支払を会社に命じました。


●就業規則違反(静岡地裁令和2年6月11日判決)
大学の准教授が研究費の助成金規程で定められた書類を、3回催促されたにも関わらず提出しなかったことを理由に、大学側が准教授を譴責処分としました。裁判所は、服務規程における懲戒の基準に該当し、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるとして、譴責処分を有効としました。

就業規則に則って、正しい判断を

懲戒処分である譴責処分は、比較的軽い処分ですとはいえ、就業規則上の根拠および客観的合理性・社会的相当性の要件を満たすことが求められます。
従業員による問題行動が発覚したときは、懲戒処分の要件を慎重に検討した上で、実際に懲戒処分を行うかどうかを適切に判断しましょう。

弁護士からのワンポイントアドバイス

譴責処分は、比較的軽微な就業規則違反に対して行われることが多い懲戒処分です。減給・出勤停止・降格・解雇など、より重い懲戒処分を行うためのステップとして、譴責が選択されることもよくあります。

譴責は懲戒の中でも軽い部類に属しますが、安易に行うと懲戒権の濫用により無効となり得る点は、他の懲戒処分と同様です。従業員の行為などの事実関係を精査した上で、譴責を行うべきか否かを適切に判断してください。

監修:阿部 由羅(弁護士)
監修日:2023年10月12日

阿部 由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

参考サイト

ゆら総合法律事務所

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