Vol.26 コンプライアンス

コンプライアンス教育を社内で進めるには?目的やポイントを解説

2023年10月3日

コンプライアンス違反は、無知ということが原因で引き起こされてしまうことがあります。コンプライアンス教育は、コンプライアンス違反の抑止になる教育で、経営層だけでなく、従業員の受講も求められます。この記事では、コンプライアンスの定義、教育が広まった背景、教育の目的、教育の内容などについて解説しています。

高度経済成長期の日本は、コンプライアンスを意識するというより、復興を掲げて国民が切磋琢磨していました。そのような中、公害による健康被害などが引き起こされ、今でもその後遺症に悩まされている方がいます。現代に置き換えてみると、公害はコンプライアンス違反。当時の経営層や従業員たちの知識が乏しく、こんな大惨事になるとは思わずに、健康被害を引き起こしてしまったようです。コンプライアンス違反は、故意の場合もありますが、先にお伝えしたように、無知ということが原因で引き起こされてしまうことがあります。
企業の成長と信頼性を維持するためには、コンプライアンスを意識することが欠かせません。さらに、この意識は、経営層だけでなく従業員1人ひとりに根付いていることが求められます。なぜなら、たった1人の従業員の行動が企業全体のイメージを左右することもあるからです。そのため、経営層や人事・労務の担当者は、定期的なコンプライアンス研修やコンプライアンス教育を通じて、コンプライアンスの重要性を伝え、従業員の意識を高める役割を担っています。
今回は、コンプライアンスの定義、コンプライアンス教育が広まった背景、コンプライアンス教育の目的、コンプライアンス教育の内容などについて見ていきましょう。

コンプライアンス(法令遵守)とは?

コンプライアンス(compliance)とは、法令遵守という意味をもつ言葉です。企業が遵守すべき法律や法令、さらには企業独自の倫理、社会的なルールなどを守ることを指しています。コンプライアンスを意識して企業活動をすることで、ステークホルダーからの信頼や社会的な信用を獲得することができます。法令が遵守できていれば、法的なトラブルに巻き込まれる可能性も低くなるでしょう。また、企業のブランド価値やイメージも向上し、安定した経営を持続していくことができるでしょう。
最近は、コンプライアンスを意識することは、法令遵守以上の意味を持っています。それは企業文化の一部として、組織全体の価値観や行動基準を示す指針となっているという点です。従業員が自ら考え、行動する基盤となるため、経営層はこの文化を築くべく、リーダーシップを発揮することが求められています。

コンプライアンス教育が広まった背景

近年、企業の不祥事や法的トラブルが頻繁に報道されるようになりました。全国展開している中古車販売・買取店では、社内でのパワハラ行為に始まり、売上至上主義による顧客への裏切り行為にあたる保険料の水増し請求と、社内外において、様々なコンプライアンス違反をしていることが明るみになりました。また、大手芸能事務所では創業者による長期間に渡るセクハラ行為の被害者たちが声を上げて、世界的な問題にまで発展しています。とある組合では、高齢者などに対して保険の不正更新をしていたことがコンプライアンス違反として内部告発されました。この行為は、社内では売り上げをあげるための常識として、何十年も前からまかりとおっていたようです。
これらは、2023年の事例で記憶に新しいものとなりますが、これより前のタイミングでも、内部告発などにより、様々なコンプライアンス違反が明るみになっています。
コンプライアンス違反の発覚によって、それまでの常識が大きく変わることもありました。例えば、大手広告代理店の若手社員が激務を苦に自殺をしてしまった事件。休日出勤や繰り返される残業で疲弊していたことに加え、上司からの厳しい指導で自信を失ってしまったという未来ある若者が、自ら命を絶ってしまいました。この事件が世間を騒がせるようになると、様々な企業が残業をよしとしなくなり、以降は残業をできるだけしない働き方というのが常識として求められるようになっています。ちなみにこの大手広告代理店は、違法残業の疑いで幹部が書類送検されるなど、法的な制裁を受けています。さらに、ステークホルダーの信用も失い、顧客離れが見られる部分もありました。
しかし、業務を命令した上司は、ここまで大きな問題になってしまうことを想像できていたのでしょうか。推測になりますが、この上司も新人時代から「広告業界やマスコミ業界の働き方はこれが常識。心身ともにきついのがあたり前」というように言われ続けてきたのではないかと思います。そして、そこに疑問を持たずに何十年も働き、自分の部下にも同じことを求めていただけなのかもしれません。つまり、過剰な残業や代休の取れない休日出勤が「コンプライアンスに違反している」という意識が全くなかったということです。
この事件からも分かるように、コンプライアンス違反をすることは、企業にとって大きなダメージになってしまうことが理解できるかと思います。様々な事件を受け、各企業も自社の利益を追求するだけでは、組織の継続は難しいということを認識するようになってきています。
このような背景があって、コンプライアンス教育の必要性が高まっています。コンプライアンスを意識して行動することは、企業が社会の一員として果たすべき責任感をもっているという気持ちの表れです。また、法令を遵守することは、ステークホルダーへの約束でもあります。この約束を守ることで、企業は社会との信頼関係を築くことができます。コンプライアンス教育は企業の経営戦略の一部としても位置づけられるようになってきているのです。
また、グローバル化の進展により、多国籍企業が増え、異なる国の法律や規範、文化に対応する必要が出てきたということも忘れてはいけません。例えば、中にはワークライフバランスを非常に重要視している国もあります。日本には、仕事とプライベートが切り離せない文化が残っている企業もあるようですが、世界のトレンドを把握し、売り上げのアップだけでなはなく、コンプライアンスを考える必要性に目を向けることが求められています。

コンプライアンス教育の目的

コンプライアンス教育の主な目的は、従業員が日常の業務を行う際に、法令や企業の倫理を遵守することを確実にすることです。従業員がコンプライアンスに対して正しい知識と意識を持つことで、企業全体のリスクを低減することが期待されます。また、教育を通じて、企業の価値観やビジョンを共有し、一体感を持つことも大切な目的となります。

コンプライアンス教育の内容

コンプライアンス教育の内容は、業界や企業の特性に応じて異なりますが、基本的には法令の概要、企業の倫理や規範、そして具体的なケーススタディが含まれます。特にケーススタディは、実際の事例をもとに、どのような判断や行動が求められるのかを学ぶことができるため、非常に効果的です。
また、コンプライアンス違反をすることでどのような社会的制裁があるのか、企業が受けるダメージはどのようなことなのかも伝えていきます。コンプライアンス違反のケースにもよりますが、具体例としては下記のようなものです。

●長時間労働
労働者の健康被害や離職者の増加などが起こりやすくなります。また、長時間労働をさせていることが明るみになると、求人も難しくなってしまうでしょう。近年、就業実態については、口コミサイトやSNSなどですぐに公表されてしまうので、コンプライアンス違反をしていないかどうかは、これまで以上に注意を払う必要もあります。

●ハラスメント行為
行為を受けた従業員のメンタルヘルスへの影響、離職者の増加などが予測されます。離職については、行為を受けた従業員だけでなく、他の従業員が「将来同じ目にあうかもしれない」などと考えて、辞めてしまうこともあるでしょう。従業員が減ってしまうと、採用コストの増加なども考えられるため、経費の負担が増えます。そして、新しい採用が決まっても、ハラスメント行為が残っていれば、離職、採用と経費だけがかかる負のループが発生してしまいます。
ハラスメント行為は大いに人を傷つける行為です。こういった行為がまかり通っていると魅力を感じない企業に見えてしまい、企業に対して不信感が募ってしまうでしょう。入社を考えている人がこの事実を知ったら、辞退してしまうかもしれません。

●商品偽装
消費者からの信用低下、不買運動、健康被害の発生などが考えられます。特に健康被害が起きた場合は、訴訟、補償問題など長期に渡った対応が必要になります。もちろん、起こしてしまったことに対して真摯に向き合うことは大切ですが、経費の圧迫による経営悪化、不正を犯した企業で働いていることに対する罪悪感や企業への不信感などに起因する従業員の士気の低下、負の連鎖による業績の低下、担当者の精神的プレッシャーによる離職など2次、3次の被害が発生してしまうことも否めないでしょう。

●情報漏えい
ステークホルダーの信用低下、同業他社へ有益な情報流出などがあります。後者の例としては、回転ずしチェーン店の取締役が同業他社へ転職する際、転職先の利益になるような情報を持ち出したことが発覚して、不正競争防止法違反の疑いで逮捕された事件が記憶に新しいところです。昭和時代のように、転職しないで定年まで勤め上げるということが美徳や常識ではなくなり、雇用の流動化によって同様の事件が増えています。機密情報の漏えいは、もちろん持ち出した本人に問題がありますが、企業側も情報管理意識を徹底することが求められます。
情報は企業の4大経営資源のひとつです。情報が企業にとって重要な資源であることをもっと意識すべきでしょう。

●補助金等の不正受給
企業の信用失墜、顧客や取引先離れなどが起こる可能性があります。コロナ禍の「雇用調整助成金」の不正受給件数は1,524件でした(2023年(令和5年)3月末時点)。そのうち、不正受給額が100万円を超えた企業、悪質と判断された企業は、社名や代表者名、金額などが厚生労働省の各労働局のホームページで公表されています。虚偽の報告などで雇用調整助成金や緊急雇用安定助成金を受給しているようですが、公表されてもなお未返還という企業もあります。こういった実態を取引先が目にした場合は、安心して任せられないという気持ちになって、事業にも大きな影響を与えることになってしまうでしょう。

コンプライアンスを意識することのメリットについても伝えておきましょう。大きな点は、故意によるコンプライアンス違反の発生が防げるため、社会的信用の失墜、業績の悪化などの様々なリスクが軽減できるということが挙げられます。また、従業員の意識の高さが業務にも反映されるので、ステークホルダーからの信用も得られやすくなるでしょう。さらに、ハラスメント行為や違法な残業、休日出勤などがなくなることで、働きやすい職場環境が実現されます。

役職別のコンプライアンス教育

役職や職位に応じて、コンプライアンス教育の内容や深さが異なります。よって、コンプライアンス教育はそれぞれが理解しやすいように、別々に実施する必要があります。

●経営層
経営層には戦略的な視点からのコンプライアンスの重要性を強調して伝えていきます。さらに、コンプライアンスに関する基本方針やルールの策定、体制の構築、適切な運用を行うための知識を身に付けられるようにします。経営層になると、インサイダー取引や賄賂の授受、反社会勢力との関係などの危険性についても、教育しておくことが重要です。

●管理者
コンプライアンスの基礎知識だけではなく、部下の模範となるような知識を蓄えて行動ができるように教育することが重要です。また、決裁権が与えられるような管理職になると金銭的な不正行為に巻き込まれそうになるかもしれません。話を持ち掛けられてもしっかりジャッジできるように、法令などについても伝えておきましょう。

●一般従業員
企業におけるコンプライアンスの基礎知識のほか、過去に従業員が起こしたコンプライアンス違反の具体例などを交えて、そのリスクなどを伝えていきましょう。さらに、企業の機密情報を安易に口外してはいけないことや、個人のSNSの取り扱いなどにも言及します。社会経験のない新入社員などには、日常業務や社会的倫理における遵守事項を中心に教育することが必要でしょう。

コンプライアンス教育のポイント

コンプライアンス教育を効果的に行うためのポイントは以下のようなものです。

●定期的な研修の実施
コンプライアンス研修は、一度実施して終わりではなく、定期的に行って定着をはかるようにしましょう。毎回、コンプライアンスを意識することの重要性は繰り返し伝えるようにし、「コンプライアンスを意識して業務に取り組むことは、社会人として当たり前のことなんだ」と植え付けるようにします。研修は座学だけでなく、最後に理解の程度を確認するために、クループディスカッションや確認テストなどを実施するとより効果的です。

●具体的なケーススタディの取り入れ
コンプライアンスの定義だけを伝えてもピンとこない受講者がいるかもしれません。理解しやすいようにするためには、講義内容に最近起きたコンプライアンス違反やその顛末などをできるだけ具体的に取り入れるといいでしょう。また、違反だけでなく、コンプライアンスを意識して経営している企業についても伝えていきます。研修は実施することだけが目的ではなく、研修によって何を理解し、何を得られたかということが重要です。よって、受講者が興味を持って聴講できる内容にすることがポイントとなるでしょう。

●教育の内容の更新
法令などは見直しがかかることがあります。法令が改正するタイミングで、これまでの内容と改正点の比較表などを作成し、分かりやすく可視化した上で研修にて伝えるようにしましょう。研修の講師は、人事・労務の担当者でも構わないのですが、情報の更新、正しい知識の伝達という視点からすると、専門家に任せた方が無難かと思われます。

コンプライアンス教育を実施する方法

コンプライアンス教育にはいくつかの方法があります。ここでは代表的なものを紹介しますので、参考になさってください。
●社内研修による教育
研修のコンテンツや講師を外部に委託せずに、社内の人材がその企業にマッチした企画、運営、効果測定までを実施します。テーマによって講師を変えたり、受講人数を検討したりするなど、様々なことを担当の従業員が考えていきます。管轄は総務部などが行い、必要に応じて各部署に声掛けをしていくというのがスマートです。ただし、担当者はコンプライアンスに関する知識や企画力などが求められます。よって、完成度の高い研修にするためには、コンプライアンス研修を専任する担当者が必要になるでしょう。

●外部講師による研修にて教育
外部講師による研修では、コンプライアンスに精通した人材による研修が受けられるという点が大きなメリットです。
外部講師にお願いする方法は大きく分けて2つあります。まずは、講師のみ外部に委託するという方法が挙げられます。これは、当日の運営は全て自社で行い、講師のみを招くという方法です。もうひとつは、企業側は、研修サービスを提供している外部企業にコンプライアンス研修の開催を依頼し、研修の目的や希望する日程などを伝え、あとは企画から当日の運営までをお任せするという方法です。この場合、企業側は会議室などの提供と参加者の出欠確認などを行うだけとなります。なお、最近では対面に限らず、オンラインという方法をとる企業も増えてきました。オンラインのメリットとしては、リアルタイムで受講できるだけでなく、アーカイブ機能を使えば、リアルタイムで受講できなかった従業員も視聴できるという点です。気になるところは繰り返し視聴できるため、知識の定着にもつながるでしょう。

●eラーニングにて教育
eラーニングは、従業員が個々の習熟度に応じて学習を進められる、場所や時間に縛られずに学習できる、というのが特徴であるため、効果的な学習が期待できます。

●ワークショップにて教育
参加・体験型講座を意味するワークショップ。参加者には能動性や主体性が求められるというのが特徴です。講義で多くの時間を割くのではなく、参加者同士が話し合う場面が多いというところが座学メインの研修との違いです。当事者意識が生まれやすい、問題を自分事として捉える力が養われる、という部分がメリットでもあります。

●最新のデジタル技術を活用した教育
リアリティを感じられるVRやARを用いたシミュレーション教育や、より個人の実態に寄せることができるAIを活用したパーソナライズドラーニング※など、新しい方法を取り入れることで、従業員の理解を深めることができます。
※個人のために学習をカスタムすること

コンプライアンス教育の重要性を今一度考えてみましょう

コンプライアンス教育は、企業の持続的な成長と社会的信頼の獲得のために必要不可欠です。経営層や人事・労務の担当者は、この教育を効果的に実施し、従業員のコンプライアンス意識を高める役割を果たす必要があります。
また、コンプライアンスを意識することは、企業の価値観や文化を形成する重要な要素ともなります。時代や技術の進化に応じて、その内容や方法を更新し、従業員とともに成長していくことが求められるでしょう。

企業倫理ホットライン

健全な企業活動を守るためのコンプライアンス通報窓口

当社のサービスを網羅したサービス資料を差し上げます。

当社のサービスを網羅したサービス資料を差し上げます。
また、メルマガでは定期的に人事の方向けに有益な最新情報を発信しています。

メールマガジン登録

資料請求

資料をご請求いただき、誠にありがとうございます。
後ほど、資料ダウンロード用URLを記載したメールをお送りさせていただきます。
その際、メールもしくはお電話させて頂く場合がございますので、予めご了承ください。