Vol.23 コンプライアンス

コンプライアンス違反を起こす人と組織 事例や原因・対策を解説

2023年10月3日

コンプライアンス(compliance)は、企業活動においては法令遵守という意味で使われることが多くなっています。コンプライアンス違反は企業単位で行われること、一従業員によるりものと様々ですが、いずれにしても人が発端になっていることは間違いありません。この記事ではコンプライアンス違反の原因や対策などを解説しています。

売上至上主義による組織的な水増し請求、一従業員による着服、故意や過失の情報漏えいなどのコンプライアンス違反が発生すると、企業の足元が揺らぐ事態になってしまうことがあります。せっかく築き上げた信用を失わないようにするためには、コンプライアンス違反を起こす人と組織などについて理解しておくことが必要です。今回は、コンプライアンスとは?、なぜコンプライアンスが重要なのか、コンプライアンス違反を起こす要因は人か?組織か?などについて、事例や対策なども交えて見ていきましょう。

コンプライアンス(法令遵守)とは?

コンプライアンス(compliance)は、直訳すると「従うこと・命令に応じること」となります。企業活動においては法令遵守という意味で使われることが多く、コンプライアンスを保持して経営を続けることが、ステークホルダーや社会からの信頼を得るには重要とされています。ちなみに法令とは、国の立法機関が定めた「法律」と行政機関が定めた「命令」を指していますが、企業におけるコンプライアンスは、法令以外にも、就業規則や社会的規範などが含まれています。

なぜコンプライアンスが重要なのか

コンプライアンスは、健全な経営を続けていくには重要なキーワードとなります。例えば、企業が活動を続けていくために、もちろん利益をあげていくことも外せないポイントではありますが、そこを求めるばかりにコンプライアンス違反を繰り返していたら、信用を失って経営が立ち行かなくなるでしょう。企業は社会とのつながりの上で成り立っているという点は忘れてはいけません。例えば、認識の甘さから基準を満たしていない商品を流通させてしまったとしましょう。それが食品であれば、健康被害などを引き起こしてしまう可能性があります。製品や機械などであれば、ケガにつながることもあるでしょう。これらが世間へ明るみになったら、不買運動などにつながってしまうかもしれません。少しの気の緩みが大きな問題に発展することがあるという点は、しっかり認識しておく必要があります。
また、企業は会社の4大経営資源のひとつである「ヒト」を大切にする必要があります。最近よく耳にするようになった「ハラスメント行為」もコンプライアンス違反のひとつです。
働く人がいなければ、企業活動は動いていきません。セクハラ、パワハラ、モラハラなどの行為によってせっかく採用した優秀な人材が離職してしまっては非常に残念なこと。離職に至らなくても、ハラスメント行為を受けたことによって、休職や精神疾患に悩まされるなど大切な人生の一部が失われてしまうかもしれません。ハラスメント行為をする側はそこまで深く考えていなく、したことさえ忘れてしまうこともあるようですが、受けた側のダメージは計り知れないということは誰もが認識しておくべきことでしょう。
「ヒト」に対してはハラスメント行為だけではなく、働き方にも注目する必要があります。働き方改革では残業時間の上限が定められており、「残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない」となっています。これは会社の規模は関係なく、大企業、中小企業いずれにも求められていることです。この規制の背景には、長時間労働が労働者の健康を損なう原因となりえるほか、子育て中や介護中の従業員が残業できないことを引け目に感じて辞職をするなど、ワークライフバランスが実現できない要因のひとつになっていたことが挙げられます。さらに、残業が続いて疲労が蓄積すると集中力が下がり、パフォーマンスも落ちてしまう可能性があります。長く働いても成果が伴わなければ、経営面から見ても望ましいことではないでしょう。残業代がかさんでも売上につながらなければ、事業の継続が困難になってしまうこともあります。
コンプライアンス違反には様々なものがありますが、いずれにしてもマイナス面につながってしまうことは確かです。違反が起きがちなのは、長期的な経営や社会的影響が考えられずに、瞬間的な解決をしようとしてしまうとき。横領などは、「手持ちのお金が足りないから借りよう。すぐ返せば問題ないでしょう」と、コンプライアンス違反という意識なく「今自分が困っているから」という短絡的な発想でやってしまうようです。こういったことは、もちろん横領を実行した従業員に非がありますが、ステークホルダーは「危機管理に対しての認識が甘い会社」と感じてしまうことがあり、信頼関係も揺らいでしまう可能性があるかもしれません。

コンプライアンスと似ている用語との違い

コンプライアンスは法令遵守という意味で使われますが、企業の姿勢を示す言葉はほかにもあります。ここでは、コンプライアンスと同じような意味に捉えている人が多いと思われる、似ている用語の意味をお伝えしましょう。


●コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンス(Corporate Governance)は、「企業統治」を意味しています。特に会社を自ら興した経営者は、会社を自分の所有物と勘違いしがちですが、本来会社は出資者株主のものです。
経営者が公私混同するなど間違った方向に行かないようにするのがコーポレートガバナンスで、経営と執行の分離、社外取締役の設置(上場企業は義務)、社内ルールの明確化などが具体的な方法です。企業統治が健全な状況を「コーポレートガバナンスが保たれている」などと言うことがあります。企業にとってコーポレートガバナンスは「常に意識すべきもの」と理解しておくようにしましょう。
なお、コーポレートガバナンスのガイドラインとして「コーポレートガバナンス・コード」というのがあります。この原案は、2015年3月5日に、金融庁と東京証券取引所が共同で公表。東京証券取引所において関連する上場規則等の改正が行われ、コーポレートガバナンス・コードが制定されました。なお、全上場企業に適用されたのは2015年6月。2018年、2021年の改訂によって、より実質的で時代にそった内容となりました。

●CSR
CSR (Corporate Social Responsibility)とは、企業が行う社会活動における責任のこと。経済産業省では以下のように定義しています。

<経済産業省が定義するCSR> 
※経済産業省ホームページ 価値創造経営、開示・対話、企業会計、CSR(企業の社会的責任)について
「企業の社会的責任」とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します。

高度経済成長期、様々な企業は日本の発展のために力を尽くしてきた一方、社会的責任に対する意識が低く、公害による健康被害などが多数報告されていました。
そのような中、誰かの犠牲の上に成り立つ発展は果たして正しいのか、企業は社会的な責任をもっと考慮して活動すべきではないか、という考えが浸透し始め、2000年代に入ってからCSRという言葉がよく使われるようになりました。
現在は、CSRに関する方針を策定している企業、策定を検討している企業は半数以上となり、社会的な責任を意識して活動している企業が多いことが分かります。主に社会が抱える環境問題解決に寄与したり、地域貢献などに取り組んだりしており、環境汚染の防止、植生物の保護、地域支援、格差社会の是正などが挙げられます。
具体的には、下記のような活動です。多くの会社が自社の利益だけではなく、社会や環境にとって利益のある活動の重要性を感じて実行に移しています。
・人を集めて海辺で清掃活動をする「ビーチクリーン」
・森林を保全するための「植林活動」
・地域の青少年スポーツチームを支援する「スポーツ教室や大会」
・物産品購入による「被災地支援」
・教育格差を是正するために「新興国への教材提供、学校の建設」
ボランティアとの違いが分からないという方もいらっしゃるかもしれませんが、ボランティアの目的は、困っている人を助けたり、支援したりすること。企業価値を高めることを着地点とするCSRとは趣旨が異なります。

コンプライアンス違反を起こす要因は人か?組織か?

コンプライアンス違反は、組織全体で起きるものから一社員が引き起こしてしまうものまで様々なケースがあります。いずれにしても、根本には人が関わっており、些細な違反から始まることがほとんどです。
組織的なものになると、社内では長年常識となっている違反も多く、中には「これが会社のルールなんだ」と思い込んで、違反をしている意識がない従業員がいるケースもあります。ある意味閉鎖されている空間でもあるため、利用者の健康被害の発生や商品を使ったことによる事故などでやっと明るみになることも。近年は、意識の高い関係者からの内部通報や内部告発によって、世の中に知れ渡ることもあります。
一従業員がコンプライアンス違反を起こした場合、周囲の監視の目が及んでいないことなどが要因として挙げられます。経理での違反で多いのが、経理処理を一人に任せていて、長期間誰も帳簿操作などに気が付かなったというケース。特に中小企業などでは人材不足が問題になっているため複数の採用は難しいかもしれませんが、コンプライアンス違反が発生しない組織や仕組みを考えておくというのは大切でしょう。
コンプライアンス違反を発生させないためには、その要因となる人のコンプライアンスに対する理解や、もし違反を知った場合にはどのような行動をすればいいのかを周知しておくことも重要なポイントになってきます。まずは理解が進むように、研修などを通して具体例を交えながらコンプライアンス違反の事例を紹介します。さらに、違反を引き起こしてしまった場合に被るであろう企業としての損害などもしっかり話します。また、違反を知った場合に安心して通報できる相談窓口を設けて、社員にも何かあった場合はすぐに相談するように伝えておきましょう。

コンプライアンス違反が生じてしまう要因

コンプライアンス違反が生じる要因は主に3つあります。それぞれについて見ていきましょう。

●悪しき習慣が根づいている企業風土
売上をアップすることだけに目標を置いている企業などでは、パワハラ行為に値するような社内での突き上げが多く見られることがあります。売上が上がるならどんなことでもしていいという風土が定着し、それに逆らうことができない従業員によってステークホルダーの利益が度外視されてしまうことがあります。こういった企業では、利益を残すために公表しているものよりも安価な材料を使うなど、違反を重ねていくことも少なくありません。

●人材採用時のチェックの甘さ
前項で、コンプライアンス違反を起こすのは人だとお伝えしました。よって採用時には、コンプライアンスへの意識があるかどうかを確認するというのも必要です。不正を行う人はそこまで多くはないかもしれませんし、面接で疑うような質問はしたくないという採用担当者もいるかもしれませんが、悪しき因子が組織に入る前に食い止めるというのは健全に事業を継続させていくためには重要です。転職者であれば、以前勤めていた企業からの退職理由などは聞いておくようにしましょう。

●情報を扱う上での意識の低さ
情報化社会になって問題視されているのが、情報漏えいです。顧客情報や取引先情報をデータで管理するようになって久しいですが、いまだに年に何度か、大量の顧客情報や取引先情報が流出してしまったというニュースを耳にします。また、従業員が顧客情報の入ったパソコンを持ち出して電車に置き忘れた、教師が生徒の成績情報が入ったUSBを紛失した、メールの送信先の設定ミスで秘密情報を他社に送ってしまったなど、事例を挙げればきりがありません。
これらの要因の根本にあるのは情報を扱う上での意識の低さです。どこかで、情報漏えいによるコンプライアンス違反は他人事と思っている企業では対策がなされておらず、発生してから慌てて謝罪するという状況になっています。
情報漏えいはコンプライアンス違反で追及されるだけでなく、危機管理意識のない会社という印象を与えてしまって社会的な信用を失ってしまうこともあります。企業が長く経営を続けていくためには、情報を扱う上での意識を従業員全員が高めておく必要があるでしょう。

コンプライアンス違反の事例

コンプライアンス違反への理解を深めるには、事例を知っておくといいでしょう。ここではいくつかの事例を紹介していきます。

●大手広告代理店社員が受けた過重労働やパワハラ行為
有名大学を卒業し、エリート街道を突き進んでいた新人社員。過度な業務量、連日の残業、上司からの繰り返される叱責などが冷静な判断を欠く原因ともなり、自殺するという事件が起こった。これを機に、広告代理店業界のみならず社会全体で過重労働への考え方が変わり、特に残業をよしとしない風潮が定着することとなった。

●悪ふざけした写真をSNSで拡散
アルバイト店員が、店内の什器に入ったり、不適切な使用をしたりしている姿を撮影してSNSにて拡散。本人たちは単なる悪ふざけのつもりだったようだが、消費者の反感を買い、その店は閉店に追い込まれることになった。

●雇用調整助成金の不正受給
居酒屋・美容室経営会社が、コロナ禍において雇用調整助成金1億5,000万円を不正受給。本来であれば、従業員が新型コロナウイルスに感染して、休んだ場合であっても給料を支払った場合に支給される助成金であったが、この会社は条件を満たしていないにも関わらず虚偽の報告をして不正受給をしていた。

●県警内のパワハラ
とある県警で、大声での叱責や体罰などのパワハラ行為が繰り返し行われていた。嫌がらせ、陰口、無視、アルコールハラスメントなども横行していたほか、育休取得の拒否発言などもあったことが判明している。

●中古車買取・販売店による保険金の水増し請求など
工場長などから指示などをされたとして、保険金の水増し請求が横行していた中古車買取・販売店。その手口は悪質で、車両にわざと傷をつけて修理代を水増し請求し、保険金を多く受け取っていたというもの。ほかにも、売上至上主義によるパワハラ行為、除草剤を散布し街路樹や植え込みを意図的に枯らす行為など、様々なコンプライアンス違反が発覚。社長が引責辞任する事態に発展し、店舗の統廃合などが行われている。

●大手タレント事務所の代表によるセクハラ行為
大手タレント事務所において、創業者による所属タレントへのセクハラ行為が日常的に行われていたことが、被害者の訴えにより明るみに。この行為を知っていた同族の経営者が隠ぺいしていたことも分かってきており、事務所は会見を開いたり社長を交代するなどしたり、故人となった当事者に代わって対応に追われている。タレントが出演していたCM契約が打ち切りになるなど、ステークホルダー離れが徐々に見られている。

●財団の経理担当者による着服
人気脚本家が設立した財団の経理担当者Aが採用されたのは2000年のこと。そこから約20年間に渡り、1人で財団の経路を任されていたという。勤務態度はおとなしくて真面目だったというのも、この経理担当者は裏切るような人ではないという色眼鏡で見てしまった要因と思われる。発覚は、人気脚本家が亡くなったタイミング。財団が財務状況を確認したところ、架空の請求書や領収書を発見し、着服が明るみとなった。推定被害総額は1億円。

コンプライアンス遵守に向けた取り組み

コンプライアンス違反を防ぐには、経営者、従業員がコンプライアンスやコンプライアンス違反について理解しておく必要があります。なぜなら、コンプライアンス違反の中には、知識不足によるケースも多いからです。特に、あまりコンプライアンスが意識されていない時代に入社した層には、大幅な意識改革が必要な場合もあるでしょう。
また、経営者や人事・労務の担当者は運営体制を今一度チェックし、社内では長期間常識になっているようなコンプライアンス違反があれば是正するようにしましょう。
さらに、コンプライアンス違反が発生したときのことを考えて相談窓口を設けておくことも重要なポイントです。発生は残念なことですが、火種が小さいうちに対応しておくことが被害を最低限に抑えることにつながります。

コンプライアンス研修を行おう

コンプライアンスやコンプライアンス違反について理解を進めるには、研修が効果的です。人々の相談窓口として50年以上の歴史があるダイヤル・サービスでは、窓口相談だけでなく、各種研修を実施しています。もちろんコンプライアンス研修も実施しており、内容に関しては、企業の規模や要望などによってカスタマイズが可能です。有資格者の講師陣が分かりやすい解説を添えながら登壇させていただきますので、ぜひご検討いただき、お気軽にご連絡ください。

コンプライアンスに対する意識を高めていきましょう

コンプライアンス違反が起こってしまうと、その影響範囲は広く、経営の存続自体を揺るがすことになり兼ねません。ステークホルダーの信用を失うことで業績が悪化すれば、離れていってしまう従業員も出てくるかもしれません。企業は社会と共に成り立っているということを改めて意識ながら、社内でもコンプライアンスに対する意識を高めていくようにしましょう。

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