Vol.20 労働環境・健康

残業は何時間からきつい? 残業時間ごとの特徴とブラック企業の基準

2023年9月26日

一般的には所定労働時間を超えて働いたことを残業といい、その時間は残業時間と呼ばれています。また、労働基準法の定義では、1日8時間、1週間40時間を超えた労働時間のことを指しています。この記事では、1カ月の平均残業時間や職種・業種別の平均残業時間、残業時間が与える影響などについてお伝えしています。

月45時間を超える残業が続く企業は、ブラック企業の可能性があると見なされてしまいます。また、厚生労働省は過労死の労災認定基準として、心疾患や脳疾患が発症する前の1カ月間に約100時間以上、もしくは2~6カ月間に毎月約80時間以上の残業があった場合は、業務との関連で発症した可能性が高いとしています。
このように残業を続けることは、過労死のリスクを高めることにもなってしまいます。また、明るみになった場合は、会社の信用の失墜や離職の助長にもつながる可能性があるでしょう。今回は、1カ月の平均残業時間、残業時間が多い職種、少ない職種、「働き方改革」の推進による残業短縮の試み、残業時間についての基本知識などについて見ていきたいと思います。

1カ月の平均残業時間

厚生労働省では、「毎月勤労統計調査」を実施しています。これは、雇用、給与、労働時間についての変動を毎月明らかにすることを目的にしている調査で、16大産業(①鉱業・採石業、➁砂利・採取業、③建設業、➃製造業、⑤電気・ガス・熱供給・水道業、⑥情報通信業、⑦運輸業・郵便業、⑧卸売業・小売業、⑨金融業・保険業、⑩不動産業・物品賃貸業、⑪学術研究・専門・技術サービス業、⑫宿泊業・飲食サービス業、⑬生活関連サービス業・娯楽業(その他の生活関連サービス業のうち家事サービス業を除く)、⑭教育・学習支援業、⑮医療・福祉、複合サービス事業、⑯その他のサービス業(他に分類されないもの)(外国公務を除く))に属している常時5人以上を雇用する事業所を対象に行われています。
令和5年6月分の結果確報によると、就業形態計の月間所定外労働時間の平均は10.0時間(前年同月と同水準)となっています。
そのような中、働き方改革では残業時間の上限を定め、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から「残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない」としました。また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、下記の範囲を超えることはできないとされています。違反した場合は、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があるので、注意が必要です。
【臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合の残業時間の上限】
●年720時間以内
●複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
●月100時間未満(休日労働を含む)
月80時間というのは、1日に換算すると4時間程度の残業となります。また、原則である月45時間を超えていいのは、年間6カ月までと決められています。

残業時間が多い職種、少ない職種

こうやって見てみると、法律の上限である45時間より、実際の残業時間の平均は10.0時間と低い結果となっていることが分かります。各企業が働き方改革を意識した結果とも取れますが、これはあくまでも平均であり、業種や職種によって異なるという点は認識しておく必要があります。
職種の違いを見る前に、業種での違いを見てみましょう。ここでも、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和5年6月分の結果確報」を参照しますが、平均残業時間が多いのは「その他のサービス業」(21.9時間)、「複合サービス事業」(15.3時間)、「医療・福祉」(14.4時間)となっています。反対に平均残業時間が少ないのは、「鉱業・採石業」(5.1時間)、「建設業」(6.0時間)、「製造業」(7.1時間)などです。
職種別の平均残業時間については、求人情報・転職サイトdoda(デューダ)が調査した、平均残業時間ランキング【94職種別】の結果を見ていきましょう。この調査は、ビジネスパーソン15,000人(20~59歳の男女・正社員)を対象としたもの。調査期間は2022年8月22日~8月30日で、ネットリサーチ会社を利用したインターネット調査によって行われました。この調査によると、最も平均残業時間が少ない職種は「秘書/受付」で10.0時間。次いで、「美容関連職(理美容/エステ/マッサージ)」(10.4時間)、「営業事務アシスタント」(11.0時間)という結果です。ほか、TOP10内には、「医療事務アシスタント」、「金融事務アシスタント」など、アシスタント系の業種がランクインしています。
最も多い職種に目を向けてみると、「プロデューサー/ディレクター/プランナー(出版/広告/Web/映像関連)」、「ビジネスコンサルタント」の37.1時間が1位にランクイン。TOP10内には、「施工管理」、「商品企画/サービス企画」、「製品企画」など、クリエイティブ系、モノづくり系、企画系、コンサル系が平均残業時間の多い職種となっています。

次に、平均残業時間を年代別、男女別に見てみましょう。

●年代別は、いずれの年も20代が最も少ないという結果
上表からも分かるように、いずれの年も20代の平均残業時間が最も少なく、全体の平均を下回っている結果にもなっています。またどの年代も、コロナ禍で思うように活動ができなかった2020年、2021年に比べると2022年は増加傾向にありますが、コロナ禍前の2019年に比べると減少傾向にあることが分かります。

●男女に開きがあることが顕著
男性の平均残業時間は常に女性の平均残業時間を上回っている状態です。2019年から2020年にかけて男性の平均が大幅に減っているのは、コロナ禍や2019年に働き方改革関連法が施行されたことが要因として考えられます。職種の結果からも分かるように、男性より女性が事務や秘書、アシスタント職に就く割合が高いこと、子どもが小さい場合、短時間勤務制度や所定外労働の制限を利用するのが圧倒的に女性であること(下表「育児のための所定労働時間の短縮措置等の各制度の利用状況別事業所割合」参照)などが背景にあるためと思われます。

「働き方改革」の推進による残業短縮の試み

前項でお伝えした調査結果からも分かるように、「働き方改革によって残業に対する意識が変わって、平均残業時間が短くなっている」ということは数値に表れています。
東京都産業労働局が行った「働き方改革に関する実態調査」において、労働時間管理の変化を従業員に聞いたところ、時間外労働の上限規制が適用されてから、労働時間管理に「変化はなかった」と回答した人が31.2%という一方、「変化があった」と答えた人は全体の49.0%となっています。また、具体的な変化の内容として最も多かったのは、「上司が声掛けするなど、時間外労働しないように働きかけるようになった」(70.1%)という項目。ほかの多かったのは、「時間外労働を事前申告制にするなど労働時間の管理が厳しくなった」(57.4%)、「時間外に会議や打ち合わせを行わないようになった」(17.9%)という内容があがっています。従業員が感じているように、企業側の意識は変化し、残業が短縮できるように試みていることが分かります。

残業時間についての基本知識

残業時間とは、所定労働時間を超えて働いた時間のこと。労働基準法の定義では、1日8時間、1週間40時間を超えた労働時間を指しています。さらに残業には、法定内残業と法定外残業(時間外労働)があり、それぞれ計算方法が異なります。

●法定内残業
「1日7時間・週35時間」の労働契約を結んでいて1日7.5時間労働した場合、0.5時間は法定内残業となります。この0.5時間に関しては、労働契約で定められた賃金のうち割増賃金の計算の基礎に含まれる賃金(基礎賃金)をもとに残業代を計算します。
●法定外残業(時間外労働)
「1日7時間・週35時間」の労働契約を結んでいて1日9時間労働した場合、1時間は法定内残業として処理し、1時間は法定外残業(時間外労働)として処理します。法定外残業は、割増賃金率を基礎賃金に掛けて残業代を計算します。

残業と聞くと「サービス残業」を連想する方もいるかもしれません。これはサービスという文字がついている通り、残業代をもらわないで業務を行うことです。一時期このような働き方が横行し、「会社への忠誠心が高い社員なら当然」というように美化するような企業もありました。しかし、サービス残業はタイムカードを押した後に行われることが多く、正確な就業時間が分からないことから、働きすぎになっていても企業側が把握できないなどの問題点があります。過労死ラインを超えていることも多く、大切な命が奪われてしまったケースもありました。そもそも、働いた分に対して賃金が支払われないというのは、間違ったやり方です。サービス残業は従業員の好意と受け止めるのではなく、もしサービス残業が行われているようであれば、早急に是正する必要があるでしょう。

残業は何時間からきつい?

先にもお伝えしたように、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間と決められています。ここでは、月の上限である45時間分の残業をした場合を想定してシミュレーションしてみましょう。

~前提条件~
●1日8時間・週40時間で労働契約
●9~17時が就業時間
●週5日勤務で月23日出勤※土日休み、1日(ついたち)が月曜日で31日まである月を想定
●コンスタントに残業を実施
●通勤時間は1時間※基本リモートなし
<1日あたりの残業時間>
45時間÷23日=1.956時間→残業1時間の日が1日、残業2時間の日が22日
<1日の終業時間と就寝まで>
・残業時間が1時間の日
18時に終業。まっすぐ帰って19時に自宅着。そこから夕飯の支度をして20時にご飯。片付け、入浴などを終えると22時に。読書や動画の視聴を2時間して24時に就寝。
・残業時間が2時間の日
19時に終業。まっすぐ帰って20時に自宅着。そこから夕飯の支度をして21時にご飯。片付け、入浴などを終えると23時に。読書や動画の視聴を1時間して24時に就寝。

残業のきつさについては、人それぞれかもしれません。しかし、余暇の時間が少ないと、知らない間にストレス過多になってしまうこともあります。
上限いっぱいに残業をしたことを前提にシミュレーションをしてみましたが、月45時間の残業というのは、結構な負担となるかもしれません。上限はあくまでも上限と捉え、できるだけ残業時間が少なくできるよう、業務の調整や適切な人員配置をするようにしましょう。

残業時間から見るホワイト企業とブラック企業

法律上、ホワイト企業やブラック企業の定義はありません。しかし、残業に対して意識の低い企業はブラック企業と考えていいでしょう。残業代を支払わない企業もNGです。
また、業務量は変わらないのに、残業はするな、など無理難題を言ってくる企業はどうでしょう。こういったケースでは、残業をしないと業務が終わらない場合、サービス残業や無給の休日出勤が増えてしまうことにもなり兼ねません。さらに、会社側が把握していないときに従業員が仕事をしていて、事故や災害が起きてケガでもしたら大問題になってしまいます。こういった、残業していることを従業員が隠すようになってしまう体質がある企業もブラック企業と判断できそうです。
残業時間については、残業時間の上限(月45時間・年360時間)を超えているのは言語道断。また、そもそも残業は義務ではありません。人員の配置、業務量など、残業をしなくてもいいような体制づくりをしていない企業は、あまり信用できないと言ってもいいかもしれません。
一方ホワイト企業は、働き方改革や従業員のワークライフバランス、人権などを考えている企業です。残業がなるべく発生しないように心がけ、残業をする場合は事前申請を求めて、どの従業員が残業をしているのかを把握しています。残業が続くようであれば面談などをし、問題点を洗い出して改善を求めていきます。よほどのことがない限り残業はさせないという方針のため、残業時間もほとんどないと考えていいでしょう。

平均残業時間が多い企業のデメリット

平均残業時間が長いと、従業員が疲弊してしまい、業務効率が下がったり、離職する従業員が増えたりと、不安定な状態が続いてしまいます。たくさん働いても、それほど業績には反映されず、もっと頑張らなくてはいけないのかと従業員の士気も下がってしまうでしょう。

残業を減らす方法

従業員ができるだけ残業せずに業務に取り組むために、下記のようなことに取り組んでみてください。

●それぞれの業務量を把握し、必要であれば人員配置の見直しをする
残業が多い従業員の中には、能力がないのではなく、業務過多になっているケースがあります。従業員に業務内容や業務量のヒアリングなどを行って可視化し、人員配置も調整しながら残業時間を減らしていきましょう。
●管理職の意識を変える
今管理職となっている層は、残業するのが当たり前という常識の中で仕事をしてきた世代です。「昔は毎日終電まで働いたものだ」、「早く出世したいなら残業は必須ではないかな」というような、時代錯誤な考えを押し付けてしまう管理職も中にはいるでしょう。こういった状況を是正するためにも、管理職向けに研修などを実施して、意識を変えていくようにしましょう。
●相談窓口を設置する
特にサービス残業などは、記録がないため把握が難しいというのが懸念点でもあります。つまり、サービス残業をしている本人や見かねた従業員が声をあげてくれない限り、発覚することはありません。また、何かあったことで発覚するというのは最も避けたいことです。
しかし、サービス残業をしたくないというのは、上司には言いにくい可能性があります。そこで社内や社外に相談窓口を設け、従業員が声をあげやすいようにしておくこともサービス残業を減らすには重要です。

ダイヤル・サービスに寄せられた事例をご紹介

人々の相談窓口として50年以上の実績があるダイヤル・サービスには、下記のような残業時間に関する相談が寄せられています。
●月100時間を超える残業や休日出勤がある。だが、上司の指示で過少申告をさせられ、サービス残業となっている。未払いの残業代、休日出勤手当を払ってほしい。
●支店長の指示で残業をしても、40時間以上の残業申請は却下される。
●残業が制限されている一方、業務量は増え続けているため、サービス残業が常態化している。ほとんど休みがなく、疲労困ぱい状態にあり、過労死の心配がある。

こういった相談を受けた場合は、相談員が迅速に報告書をまとめて、一定のクオリティが保てるように、サービスマネージャーが確認してから、人事・労務の担当者にご報告しています。相談窓口では、傾聴力や専門知識のある相談員が対応し、できるだけ詳細を引き出せるよう尽力しています。

残業時間について、企業としてしっかり考えることが重要

残業が続くと、作業効率が下がるなど、企業にとっていいことはありません。ワークライフバランスが叫ばれている昨今、働き方改革についても意識しながら、残業時間について考えてみてください。また、相談窓口なども利用し、問題が大きくなる前に対処できる体制を整えておくことも重要でしょう。

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