Vol.17 労働環境・健康

働きすぎはなぜ起こる? 働きすぎる人の特徴や過労の症状、警告サイン、働きすぎの解決策まで解説

2023年9月1日

「日本人は働きすぎ」、とはよく聞くセリフです。では、何時間を超えると働きすぎと言えるのでしょうか。日本では働きすぎによる健康状態や精神状態の悪化、さらには過労死が大きな社会問題になっています。日本人はなぜ働きすぎてしまうのか、働きすぎが起きる原因、働きすぎにより生じる疾病や症状、働きすぎる人の特徴、職場環境、働きすぎの解決策などを解説します。

働きすぎの定義

「働きすぎ」と感じるのは、個人によって違います。例えば、月曜日から金曜日まで週5日間勤務の1日8時間労働で「働きすぎ」と感じる人がいれば、同じ週5日間勤務の1日8時間労働に毎日3時間の残業をこなすと「働きすぎだな」と感じる人もいます。そのため、どこからどこまでの時間を超えると「働きすぎ」と言えるのかは、一般的に定義されていないのが実情です。

以前より多くの外国人から「日本人は働きすぎだ」と指摘されてきましたが、では実際に、日本人がどのくらい働いているのか、世界と比較したデータがあるので紹介しましょう。ヨーロッパ諸国を中心に日本、アメリカ合衆国を含めた先進国が加盟する国際機関「OECD」が調査した「2022年の世界主要国の労働時間 国際比較統計・ランキング」によると、日本人1人あたりの1年間の平均労働時間は1,607時間で、OECD加盟国44カ国中30位でした。ちなみに、最も長いのがコロンビアの2,405時間、次いでメキシコの2,226時間、そして最も短いのがドイツの1,341時間です。意外な結果に驚かれた方も多いと思いますが、この調査には、時間外労働や休日労働など公にできない言わば、賃金が支払われないサービス残業の時間が含まれていません。それらを考慮すると、日本人の1年間の平均労働時間はさらに上昇すると予想できます。

現在の日本には「働きすぎ」の法的な定義はありませんが、厚生労働省がその目安ともなる過重労働の定義を設けています。それによると、時間外・休日労働が、 月100時間を超えること、もしくは 2~6カ月平均で月80時間を超えることと定義しています。この基準を超えて働く状況が続くと、病気や死へと発展するさまざまな健康被害を引き起こす危険性があり、過労死ラインとも言われています。もう一つ、「働きすぎ」の目安になるのが労使協定(36協定)の基準です。労働基準法第32条では、勤務時間は1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められています。しかし繁忙期にはこの労働時間を守ることができない企業も出てくるでしょう。その場合、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結により時間外労働が成立します。残業時間は原則1カ月45時間、1年360時間が上限と定められており、これを超えた残業時間は違法となります。これらから、労使協定(36協定)を超えた労働時間が「働きすぎ」の基準と言えるでしょう。

働きすぎるとどうなるか

労働者が休暇を取れないほど「働きすぎ」の状況が続くと、労働者の健康状態や精神状態が悪化し、仕事への意欲の低下などにつながります。例えば、日々の疲れが蓄積して集中力が低下してミスをする、効率的に仕事をこなせなくなるなど業務パフォーマンスが落ちてしまうこともあります。さらには、毎日長時間働いているのに、期日までに業務量が達成できない、成果も上がらないなど仕事への充実感を失い、退職へつながってしまうことも考えられます。
また「働きすぎ」は労働者だけでなく、企業側にもさまざまな問題を引き起こす可能性があります。休暇が取れずリフレッシュもできない労働者に疲労が蓄積すると、体調を崩して仕事を休むことになるかもしれません。そのような日が続くと、企業全体の生産量が下がり企業の利益の減少にもつながるでしょう。人が減れば、他の従業員が毎日残業をして穴埋めする必要が出てくるので残業代が増加するだけでなく、それが原因で離職する従業員が出てきてしまうことも考えられるでしょう。
実際に、厚生労働省の調査では仕事を辞めた人の退職理由で男女ともに上位ランクインしたのが「労働時間が長かった・休暇が少なかったから」となっています。
このように労働環境が悪ければ、もっと良い条件で働ける企業を求めてライバル企業へ流出してしまうといった可能性もあります。また離職者が出れば、新しい人材を雇う必要があるので、その分の採用コストがかかってしまいます。長時間労働が慢性化し、従業員も常に疲弊しているようなこうした労働環境が社外に知れ渡れば、企業イメージは低下します。さらにSNSで企業の実態が拡散されればあっという間に企業は大きなダメージを受けます。その結果、事業に影響を及ぼしたり、優秀な人材も集まりにくくなったりするでしょう。

過労によって現れる症状

働きすぎることで疲れがたまると心身にさまざまな不調が現れます。これらは、すぐにでも休息を取らなければいけない体のサインでもあります。ここでは、過労によって起こる症状をいくつか挙げていきましょう。

・頭痛・・・風邪の症状と間違われやすいのですが、過労による頭痛をそのままにしておくと免疫力が低下して感染症にかかってしまう可能性もあります。過労による頭痛は昼過ぎから夜にかけて症状が出ると言われています。仕事をしていない心身ともにストレスがかかっていない時でも、痛みが続くことがあります。

・体のだるさ、倦怠感・・・全身の倦怠感は、体が重くて力が入らない、眠れない、何もする気になれないなどの症状が現れます。過労による睡眠不足や、不規則な生活、働きすぎで十分な休息が取れない、ということが続くと心身ともに疲労が蓄積して、全身のだるさや倦怠感が起こります。倦怠感もまた、過労死の兆候として現れる症状の一つです。

・不眠・・・疲労や精神的なストレスなどによって不眠は起こります。症状は、夜寝つきが悪い、深い眠りが続かない、夜中に何度も起きてしまう、もっと寝ていたいのに早朝に目が覚めてしまう、眠りが浅く十分に眠った感じがしないなどが、あります。不眠が週3日以上、もしくは3カ月以上持続する場合は、治療が必要な不眠症の可能性があるとされています。不眠になると血圧、血糖値、血液中の脂肪が高くなり、年齢に関係なく高血圧、脳出血を引き起こす要因とされます。

・過眠・・・過眠の症状は、夜十分に睡眠をとっているはずなのに、日中に強い眠気が生じて起きていられない、居眠りしてしまうなど病的な眠気がある状態です。長期間、睡眠を十分に取っていない睡眠不足でも同じような症状が現れますが、この場合は睡眠をしっかり取ることで自然と眠気が取れていきます。しかし過眠の場合は、いくら頑張って目を開けようとしても強い眠気が続くため、病的な眠気と診断されます。不眠症と比べると病気と認識されることが少ないため、やる気がない人だ、いい加減な人だ、などと評価が悪くなることが多々あります。居眠り運転事故や操作ミス、判断ミスなどの原因にもなりかねません。

・食欲の低下・・・心も体も疲れ切っていると、食べたいという生理的な欲求が低下したり、食事を楽しむ気力がなくなったりします。そうした症状を食欲の低下と言います。食欲の低下は、疲労による自律神経の乱れ、ストレスによる副交感神経の働きの低下などによって引き起こされます。不規則な生活や過度の飲酒などによって胃腸の調子が悪くなり、胸やけや胃痛が生じて食欲がなくなることもあります。

・過食・・・食欲が止まらない過食は、ストレスや過労などが原因で起こることが多いとされています。特に女性に多く見られる傾向があり、一度に大量に食べたり、いつまでも食べ続けたりします。過食後に、無理やり嘔吐したり下剤を使ったりを繰り返すと摂食障害に陥ってしまうケースもあります。アルコール摂取が多くなるケースもあります。

・女性特有の体調不良・・・働きすぎで休息がなく体も心も疲労困憊し大きなストレスが掛かると自律神経や女性ホルモンのバランスが乱れ、生理不順や腰痛、下腹痛、頭痛などを引き起こすことがあります。

・過労うつ・・・働きすぎによって精神的なうつ病を発症してしまうのが「過労うつ」です。思考力の低下や集中力が保てなくなることで、仕事上でのミスが多発してしまいます。気分の浮き沈みが激しくなったり、常に疲れていたり、気力が低下するなども過労うつの症状です。食欲の激しい増減や睡眠障害を引き起こすこともあります。過労うつの症状が悪化すると、自殺を引き起こすケースもあります。過労自殺で労災認定された人のうち、半数近くが過労うつが原因という調査結果もあります。

・心疾患・・・働きすぎによって心疾患になると、動悸、息切れ、疲労感、ふらつき、失神、脚や足首・足の腫れなどの症状が見られます。さらに症状が進行すると、心不全や心筋梗塞によって突然死するという最悪な事態を招く恐れがあります。肥満、高血圧、糖尿病などは心疾患を引き起こす大きな原因でもあるので、それら持病を持っている人は特に気をつける必要があるでしょう。また、喫煙も発病の要因の一つです。

・脳疾患・・・過労死する原因の多くをしめるのが脳疾患です。脳疾患は脳梗塞、くも膜下出血、脳出血など突然死につながる病気です。脳の働きに障害が起きる病気なので、一命をとりとめても手足の麻痺、歩行障害、言語障害、顔面麻痺や視力低下など、生涯にわたって後遺症を残す可能性があります。

なぜ働きすぎてしまう状況がおこるのか?

日本における長時間労働は、過労死や過労自殺を引き起こす大きな原因として社会問題にもなっています。厚生労働省では長時間労働の軽減に向けた取り組みとして、企業へ働き方の見直しや、長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導の徹底などを行っています。さらに、各都道府県労働局には労働局長を本部長とする「働き方改革推進本部」を設置しました。長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進などの「働き方改革」について、労使団体への協力要請や情報発信などを行っています。こうした国による対策が行われながらも、なかなか長時間労働が無くならないのが現状です。なぜ、日本の企業では働きすぎてしまう状況が起こるのでしょうか。その原因として次のようなことが考えられます。

・自分の仕事は終わっているのに、同僚の仕事を手伝うなどの付き合い残業がある
・先輩や上司よりも先に退社できない雰囲気がある
・長時間労働への評価が高い
・従業員1人に対する業務量が多過ぎる
・人員不足
・管理職の適切なマネジメント不足
・無駄な朝礼や会議、打ち合わせが多い
などがあります。
これらについては、次の項で詳しく見ていきましょう。

過労を引き起こす職場環境

職場環境は過労を引き起こす大きな原因の一つですが、そこには日本の企業文化の問題も深く関わっています。過労を引き起こす職場環境の問題点を解説していきましょう。

・付き合い残業は企業文化の問題・・・自分の仕事は終わっているのに、同僚の仕事を手伝うのが当たり前になっていて、毎日残業をしているという人はとても多いです。これは企業文化の問題で、過労を引き起こす原因のひとつでもあります。

・先輩や上司よりも先に退社できない・・・上司よりも先に部下が帰ることを良く思わないのは、日本の多くの企業に根付いている風潮でしょう。上司が帰れないから部下も帰れないといったこのケースは、精神的な苦痛も伴う過労となるケースがあります。

・長時間労働への評価が高い・・・日本の社会では長時間労働をしている従業員に対し、努力している、頑張っている、向上心がある、などと高く評価する企業がとても多いです。業務を達成して成果を上げていても定時で退社する従業員には、やる気がない、意欲がないなどと評価されてしまうことを恐れて、仕事もないのに無駄な残業をしているという人もいるようです。

・従業員1人に対する業務量が多過ぎる・・・業務量が多過ぎて勤務時間内で終わらず、残業をせざるを得ないというケースもあります。常に仕事に追われているので、休みたくても上司に言えず、精神的にもプレッシャーを抱えている場合もあります。

・人員不足・・・近年の労働人口の減少によって人員不足に悩む企業は多いです。人手が足りないため、従業員への負担は大きくなります。この状態が長引けば、過労によって心身に影響を及ぼす恐れもあるでしょう。

・管理職の適切なマネジメント不足・・・管理職はチーム全体の業務内容と量を把握するのが仕事。勤務時間内に業務が終わらないのはマネジメント不足です。メンバー一人ひとりの能力や技量を見極め、業務配分を行うことで長時間労働を防ぐことが可能です。管理職が常に労働の実態を把握し適切なマネジメントを行えば、部下の働きすぎの抑止になります。

・無駄な朝礼や会議、打ち合わせが多い・・・日本の企業には無駄な会議が昔から多いと言われています。打ち合わせと称して、ダラダラとプライベートの話で盛り上がり、肝心の業務内容に触れたのは終了間際の数分、というのも稀なケースではないでしょう。打ち合わせのために大量の資料を作った従業員の労力も無駄になります。またアイデアや今後の方針などを議論しても、会議の場で意思決定がされない、結論が出ないとなると無駄な時間で終わってしまいます。

働きすぎてしまう人の特徴
日本人は仕事が好き、というイメージは海外の人たちの共通の認識でもあります。確かに、仕事が好きで働きすぎる人がいるのも事実です。しかし多くの社会人は、残業は当たり前、仕事が断れないなどの理由で長時間労働をこなした結果、頭痛や不眠、過労うつなど心身症状を引き起こしています。働きすぎてしまう人に見られる特徴を紹介していきましょう。

・責任感が強い人は仕事が断れない・・・何ごとにも真面目に取り組み、責任感が強くて完璧主義すぎる人は、仕事が断れず常に働きすぎの状態に陥る可能性があります。自分のスキルでは対応しきれない業務内容であっても、引き受けてしまうこともあるでしょう。人に頼まれたらイヤとは言えないお人好しタイプも同じです。真面目な従業員は企業にとって大切な人材ですが、個人の性格や技量を判断して仕事を割り振ることが大切です。また、残業すればこなせる、休日出勤すれば間に合わせられるなどと、最初から勤務時間内で仕上げようとは考えていない傾向もあるため、必然的に働きすぎになります。

・仕事が好きで疲労を感じない・・・好きな仕事に携われている、達成感ややりがいを実感するなど、働きすぎても全く苦にならないタイプです。休日でも仕事のことばかり考えているでしょう。こうしたタイプは働きすぎている実感がないので、じわじわと疲労が重なっていても気付きづらいので要注意です。

・周囲と比べてしまう・・・常に周囲と自分を比べてしまう人は、もっと頑張らないといけない、あの人が成果を上げているんだから自分ももっと努力しないといけない、と考えて仕事を引き受ける傾向があります。残業をしてでも業務を完璧にこなそうとしますが、思っていた以上に評価が得られなかった場合の精神的なダメージは大きく、心身ともに疲弊して出勤できなくなる可能性も起こり得るでしょう。

働きすぎを解決するには?
日本では過労死が増えており大きな社会問題になっています。そのような中、2014年11月には過労死等の防止対策のため「過労死等防止対策推進法」が施行されたことで、仕事よりも健康や命を大切にすることがより叫ばれるようになりましたが、企業としてはどのような点注意すればいいのでしょうか。ここで、いくつかのポイントをご紹介します。

・労働時間の適正化を行う・・・労働基準法で定められた労働時間は、1日に8時間、1週間で40時間です。休暇は週に1日または4週間に4日以上与えなければなりません。従業員の勤務時間がこの法律の範囲内であるかを確認し、徹底することが重要です。そのためには業務の優先順位をつけていくタイムマネジメントが効果的。限られた時間内で効率的に仕事を進めることを、意識させることが重要でしょう。また、万が一「36協定」は、形骸化させないようにし、更新時には内容を改めて認識し、是正すべき点には対応するようにしましょう。

・職場環境を改善する・・・個人の業務が終わっても帰れない、有給休暇を取得するにも気を遣うなど、間違った企業文化がある場合は改善します。従業員が、オンとオフをしっかり使い分けられるような組織となるように、まずは管理職の理解を進めていくようにしましょう。

・相談しやすい環境づくり・・・業務のことや社内の人間関係などについて相談しやすい窓口を設置します。相談した内容が社内に漏れないかを心配して本音を話せない従業員も少なくないため、利害関係のない外部に委託することも効果的です。

・定期健康診断やストレスチェックの実施・・・企業は労働安全衛生法第66条に基づき、1年以内ごとに医師による健康診断を受診させなくてはなりません。これにより、全身の健康状態を把握することで、過労による疾患が隠れていないかもチェックすることができます。また、厚生労働省が過労死対策として義務付けているストレスチェックを実施するのも効果的です。従業員のメンタルヘルスを事前に知ることで、過労による精神疾患を防ぐことができます。

外部相談窓口の活用を
ダイヤル・サービスは、相談サービスを提供している外部の相談窓口です。例えば、自分の業務が終わっても、上司や先輩がまだ仕事をしていて帰りにくく、毎日残業になってしまう、ほとんど休みが取れずに疲労がたまっているけれど、上司も休まず出勤しているので、休みたいと言いだしにくいなど、働きすぎの状況にあっても、社内ではなかなか相談しにくいこともあるかと思います。そのような時に、外部の相談窓口は相談しやすいという点がメリットと言えます。
また、従業員が相談しやすいのはもちろんのこと、相談内容は、専門知識を持った相談員が、相談を受けた翌営業日に人事・労務の担当者に報告します。迅速な処理は、働きすぎによる弊害を最低限に抑えられることや職場の問題を把握することにもつながります。導入を検討したい場合は、ぜひ一度ご連絡ください。

働きすぎの日本を変えるのは各企業の取り組みが重要

国が打ち出す働き方改革によって労働環境は少しずつ改善に向かっていますが、それでも残業や休日出勤で働きすぎの毎日に明け暮れる人が多いのが実情です。働きすぎに明確な基準がないからこそ、長時間労働の実態が見えづらく、また心身ともに疲弊しきっていることに気づかずに働き続けてしまうのです。有給休暇が取得しやすく、付き合い残業のない職場に改善したいなどと、従業員が声を上げることは難しいでしょう。過労は命に関わる重大な疾患につながるため、経営側が率先して、働きすぎない職場環境をつくることが重要です。

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