Vol.13 労働制度・権利

フレックスタイム制とは? その基本概要から目的、仕組みなどを、導入企業などの特徴を交えながら解説

2023年8月15日

様々な働き方が求められている昨今。フレックスタイム制にも注目が集まっており、より利用しやすい制度となるよう、2019年には法改正が行われています。ここでは、フレックスタイム制の概要、目的、仕組み、導入している企業の特徴、メリット・デメリットなどについてお伝えしていきます。

フレックスタイム制とは

厚生労働省によると、「労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度」と定義されているフレックスタイム制。定義の中にある「生活と業務との調和」は「ワーク・ライフ・バランス」と言われており、この実現を社会全体で希求していかなくてはならないと内閣府は提唱しています。
2019年4月には働き方改革の一環としてフレックスタイム制に関する法改正が行われ、労働時間が清算できる期間が変更となりました。具体的には、清算期間の上限が1か月から3か月に延長。この改正があるまで、労働者は1か月の中で労働時間の調整を行うことはできましたが、月をまたいで調整をすることはできませんでした。その結果、1か月以内の清算期間における実労働時間が定められている総労働時間を超過した場合には、その分の割増賃金を支払う必要がありました。また、実労働時間が総労働時間を下回ってしまうことで、欠勤扱いにならないように、総労働時間に達するまで働いたりするケースが散見されました。しかし、上限が3か月に延⻑されたことで、より長期的な調整が可能となり、これまで以上に柔軟で労働者の都合に合わせやすい働き方ができるようになりました。働きやすい環境を整えることができれば、離職率の低下が期待できます。労働者だけではなく、会社側もメリットを感じられるというのは、労使ともにうれしいポイントでしょう。

フレックスタイム制を導入する場合、以下の基本的なルールを守る必要があります。
➀就業規則等への規定と労使協定の締結が必要となります
就業規則等に、始業・終業時刻については労働者の決定に委ねることを定める必要があります。また、対象となる労働者の範囲、清算期間(上限は3か月)、清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)、標準となる1日の労働時間、コアタイム(任意)、フレキシブルタイム(任意)など、制度の基本枠組みを労使協定で定めるようにします。
※コアタイム、フレキシブルタイムの解説については後述

➁時間外労働に関する取り扱いが通常の労働時間制度とは異なります
フレックスタイム制を導⼊した場合は労働者が労働時間を決めるため、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えたとしても、時間外労働※とはなりません。時間外労働となるのは、清算期間内での総労働時間数を超えた場合です。また、1日の標準の労働時間に達しなくても、遅刻、早退扱いにはなりません。
これらは、フレックスタイム制を導入する上で、労働者が理解しておくべき内容となります。始業・終業時刻を従業員自ら決定するということは、就業規則などに定めておくようにしましょう。ただし、労働時間は従業員自らが決定するとは言っても、会社や上司が労働時間に無関心でいいというわけではありません。清算期間が長いと、「まだ清算期間があるから大丈夫。後半に調整しよう」という気持ちになって、業務過多になってしまう社員もいます。時には、労働時間についてアドバイスするなどし、無理のない働き方ができる環境を整えるようにしましょう。
※時間外労働が発生する場合は、36協定の締結が必須となります。

フレックスタイム制の目的

日本でフレックスタイム制が導入されたのは、1988年4月のこと。フレックスタイム制の目的は、柔軟な働き方を尊重するためで、個人のライフスタイルに合わせた働き方が可能になる点が特徴でもあります。例えば、小学生の子どもがいるお宅では、早い時間に出社し、夕方には帰宅するという働き方ができます。夕飯を作ったり宿題を見てあげたりする時間ができるので、心にも少し余裕を持たせながら、仕事と家庭との両立ができるでしょう。また、残業で帰宅が遅くなったら、翌朝はゆっくり出社するなど、疲労の度合いを加味した働き方も可能です。

フレックスタイム制の仕組み

ここでは、専門用語などの説明をしながら通常の労働時間制度との比較をし、フレックスタイム制の仕組みについて見ていきましょう。
フレックスタイム制の解説などでよく出てくる、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」というワード。コアタイムとは、会社が指定している必ず働かなくてはならない時間帯のことで、フレックスタイム制が導入されていたとしても、この時間帯には就業していることが求められます。なお、このコアタイムは、設ける日と設けない日があったり、日によって時間帯を変えたりすることも可能です。
一方フレキシブルタイムとは、労働者が労働時間を決められる時間帯のことです。時間の使い方も労働者の裁量に任されているので、中抜けをすることもできます。例えば、フレキシブルタイムに子どもの授業参観に行ったり、歯医者の予約を入れたりすることも可能というわけです。
なお、コアタイムは必ず設けなければいけないものではありません。そして、設けるのであれば、時間帯の開始時刻・終了時刻を労使協定で定める必要があります。

コアタイムを設定しないフレックスタイム制のことは、スーパーフレックスタイム制と呼ばれています。コアタイムに縛られることなく働けるスタイルで、従業員は好きな時間に出勤・退勤ができます。
この取り組みは、フレックスタイム制よりもさらに自主性が求められます。上手に活用できる労働者がいる一方、管理ができずに勤怠が混沌としてしまう労働者が出てしまう可能性もあります。人事・労務の担当者は、こういったケースが考えられることも想定しながら、勤怠管理をしていくことが求められるでしょう。

フレックスタイム制を導入している企業の特徴

労働時間が自ら決められるフレックスタイム制ですが、どのような企業が導入しているのでしょうか。
厚生労働省が発表した「令和4年就労条件総合調査」によると、フレックスタイム制を導入している企業は全体の8.2%という結果になっています。この8.2%の内訳は、「従業員数1,000人以上」が31.2%、「300~999人」が17.0%、「100~299人」が8.4%、「30~99人」が6.6%というもの。割合の高さは従業員の多さに比例していることから、規模の大きい企業がフレックスタイム制の導入を進めていることが分かります。業界別については、厚生労働省の「就労条件総合調査(令和3年)」の結果で確認することができます。最も多いのは「情報通信業」で30.0%、次いで「金融・保険業」(14.7%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(14.2%)となっています。
フレックスタイム制の特徴から考えると、職種によっても導入のしにくさ、しやすさがある程度想定できます。例えば、デパートの販売員や営業職などは、労働者の意向だけで業務を進めるわけではありません。お客さまやクライアントの時間に合わせる必要があるため、フレックスタイム制の導入は難しい職種と言えるでしょう。一方、SE(システムエンジニア)、WEBやグラフィックデザイナー、ライター、プログラマーなど、納期までに自分の裁量で業務が進められるような職種、テレワークがしやすいような職種は、フレックスタイム制を導入しやすいようです。

ワーク・ライフ・バランスの実現が叶う働き方であるフレックスタイム制ではありますが、向き、不向きがあることは否めません。大きな企業で導入が進んでいるという結果は出ていますが、部署や職種によっては対象外となっている場合もあるというのが実情と考えていいでしょう。

フレックスタイム制のメリット・デメリット

柔軟に働くことができるフレックスタイム制ではありますが、メリットだけでなく、デメリットも把握したうえで導入することが重要です。ここでは代表的なメリット、デメリットを解説していきます。

●フレックスタイム制のメリット
・ワーク・ライフ・バランスの向上が期待できる
専業主婦がいる世帯数よりも共働き世帯数のほうが上回るようになって久しい中、フレキシブルに就業時間が設定できるフレックスタイム制が利用できると、ワーク・ライフ・バランスの向上が期待できます。最近は晩婚化によって、育児と介護を並行して行う必要が出てくる世帯も増えてきました。子どもの保育園の送迎、親の通院の付き添いなどが重なってしまうたびに有給休暇を取得する、遅刻、早退扱いにしなくていいという点も労働者にとってはうれしいポイントです。

・効率的に業務を進めやすくなる
通常の労働時間制度の場合、繁忙期、閑散期に関わらず、会社が指定する時間に必ず就業していなくてはなりません。この制度の場合、繁忙期は残業が増えて、閑散期は時間が余ってしまう可能性があります。フレックスタイム制であれば、就業時間のコントロールができるので、忙しい時期は長く働き、忙しくない時期は早く帰るというような働き方が可能です。会社にとっても、残業代の軽減につながるなどのメリットがあります。

・ラッシュ時間を回避できるので、通勤ストレスの軽減につなげられる
ラッシュ時間の通勤は、人が多かったり、そのことで遅延が生じたりし、ストレスに感じている人も多いのではないでしょうか。会社に着いたころにはクタクタになってしまい、一休みしてから業務をスタートするというケースもあるでしょう。一休みするということは、その分仕事が進んでいないということ。一休み時間×一休みする労働者の数と考えると、会社側としては大きなロスとなってしまうことが考えられます。一方、フレックスタイム制を導入すれば、通勤ラッシュを外した通勤ができるので、通勤ストレスの軽減、業務パフォーマンスの向上につながることが期待できます。

・離職率の低減や満足度のアップ
通常の労働時間制度の場合は、家庭の事情で遅刻、早退、欠勤が続くと会社にいづらくなり、離職してしまう労働者がいるもの事実。中にはベテランの人材が辞めてしまうケースもあり、それが会社の損失ともなっていました。そのような中、フレックスタイム制を導入すれば、育児や介護に忙しい場合でも、仕事が続けられやすくなります。この結果、定着率や会社への満足度がアップし、安定した経営が継続できるでしょう。

・新規採用のキーポイントとなる
多様な価値観を認める社会へと移行している中、自分の裁量で就業時間が選択できるこの制度を希望条件に入れている求職者もいるようです。また、学生生活のほとんどをコロナ禍で過ごした学生たちは、通学が必須でなかったこともあり、働くスタイルに対してもより自由度が高いものを求める傾向があります。こういった背景から考えると、フレックスタイム制は、採用時の大きなキーポイントになります。

●フレックスタイム制のデメリット
・勤務時間の管理が複雑になる
通常の労働時間制度の場合、例えば就業時間が9~17時であれば、その時間を基準に管理をすればいいということになります。9時を過ぎて出社したら遅刻扱い、16時に帰ったら早退扱い、19時まで働けば残業代をつけるというような感じです。
一方、フレックスタイム制では、個人の裁量で始業・終業時刻、労働時間を決めていくため、実態が把握しにくく、管理が難しくなります。また、労働者、管理者、経営者の全員がフレックスタイム制への理解を深めるほか、フレックスタイム制の運用ルールの整備なども必要になってきます。

・ルーズな働き方をする労働者が発生する可能性がある
自己管理が苦手、もともと時間にルーズという労働者の場合は、就業時間の管理が行き届かなくなる可能性があります。清算期間は最大3か月となっていますが、現時点で自分が何時間働いているのかという管理ができず、無駄な残業時間を発生させてしまったり、就業時間が不足して欠勤控除の対象になってしまったりする可能性があります。また、自由という意味をはき違えて、ダラダラと仕事をしてしまうケースも出てしまうかもしれません。生産性がダウンし、会社としては損失を被ることも考えられます。

・コミュニケーション不足によって、業務がスムーズに進まない可能性がある
フレックスタイム制は、始業・終業時刻、労働時間がそれぞれで異なるので、例えばすぐに聞きたい、今注意をしたいというときに、相手がいないことがあります。そうなると、問題解決が遅延してしまうというリスクも。また、常に近くにいるわけではないので、チャットやメールでのやり取りが主なコミュニケーション手段となるとは思いますが、文字だけではうまく伝わらないこともあるという点は否めません。結果、コミュニケーション不足によって正しく情報が共有できておらず、業務がスムーズに進まない可能性があります。

フレックスタイム制の導入時の課題

上記で挙げたようなデメリットは、フレックスタイム制導入時の課題でもあります。デメリットではありますが、課題に対する対応策で回避することも可能です。
勤務時間の管理が複雑になってしまう、ルーズな労働者が発生するかもしれないという課題に関しては、社内での啓蒙のほか、導入時に合わせてシステムによる管理を行うようにします。内容としては、毎日の始業・終業時刻、労働時間、清算期間の通算労働時間、清算期間の残りの労働時間が見られるようなシステムを構築すること。始業・終業時刻を打刻もしくは入力すれば、瞬時にほかの項目に反映されると使い勝手がいいでしょう。こうしておくことで、上司は部下の日々の労働時間をチェックすることができます。ルーズな労働者についてはその労働時間を根拠に話ができるので、指導しやすくなることも期待できるでしょう。
コミュニケーション不足に関しては、週1回は対面で部内ミーティングをするなど、顔を合わせる機会を設けるというのが効果的。リモートでのミーティングでも構いませんが、普段コミュニケーションが不足していることを考えると、対面でしっかり話せる機会を作ることは重要視したいものです。
コミュニケーション不足については、コロナ禍で広がったリモートワークでも課題になっています。特に、まだ業務や社内の雰囲気に慣れていない新入社員などは、コミュニケーション不足によって戸惑いを感じることがあるようです。フレックスタイム制も同様のことが考えられるので、例えば新入社員のフレックスタイム利用は入社半年後からなど、他社員との交流が進み、ある程度自己の裁量で仕事を進められるようになってから導入するといいかもしれません。

フレックスタイム制を実際に導入したことで分かった課題

フレックスタイム制を実際に導入した企業においても、課題を抱えていることがあります。前段において、日本でフレックスタイム制が導入されたのは1988年4月とお伝えしましたが、特に早いタイミングで導入した企業の中には、制度が形骸化してしまい、実際には利用されていないというケースがあります。就業規則に記載されているので使おうとしたところ、「制度はあるけれど使っている人はいないし、管理が面倒だから遠慮して欲しい」と上司に言われてしまうようなこともあるようです。また、他の人が利用しているのに、自分だけ拒否されてしまったという報告も。こういったケースは、パワハラや嫌がらせの可能性もありますが、その人の業務がフレックスタイム制に向いていない、単にフレックスタイムの申請にある時間帯は頼みたいことがあるので就業しておいて欲しいという、正当な理由がある場合があります。後者については、コミュニケーションや説明不足が原因となるため、普段から風通しのよい職場環境を整えておく必要があるでしょう。

ダイヤル・サービスでできることとサービス導入のメリット

会社や上司はあえて伝えなくても、そのくらい分かるだろうということで伝えていないことが多くあります。悪気はなくても、組織の中にずっといることで、自分の常識が部下の常識にすり替わってしまうパターンもあるようです。当社の相談窓口でも、今回のテーマであるフレックスタイム制の取得について相談を受けることがありますが、そのほとんどがコミュニケーション不足や説明不足によるものです。しかし、原因が分かり解決につなげられるのは、相談者が第三者の相談窓口である当社に相談し、当社がその相談内容を人事・労務の担当者に即日お伝えするという流れがあるからです。相談窓口がないと問題が潜在化し、知らない間に大きくなってしまう可能性があります。
ダイヤル・サービスは、企業・自治体の「コンプライアンス」「ハラスメント」「メンタルヘルス」などの相談窓口として、50年以上の実績がある会社です。こういった第三者の相談窓口を上手に活用して、社内が抱えている問題や課題の顕在化をアウトソーシングしてみてはいかがでしょうか。

多様さが求められる時代に考えておきたいこと

労働者を取り巻く環境は日々変化しています。働き方についても多様さが求められるようになり、そのひとつの方法として今回ご紹介したフレックスタイム制があります。業態や職種、社歴などによっても向き、不向きはありますが、部署ごとに設定を変えるなどフレキシブルかつ会社ごとのオリジナルな取り決めが可能な部分もあります。未導入の場合は、一度検討してみるというのもいいかもしれません。

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