Vol.12 労働環境・健康

ラポールとは? 概要、形成の手法、重要性について解説

2023年8月15日

ビジネスの世界において、職場のメンバーや顧客と良好な人間関係を築くことは、業務をスムーズに進めるためにも重要なことです。そのような中、最近注目されているワードに「ラポール」というものがあります。聞きなれない方もいらっしゃるかと思いますが、ここではラポールの概要、形成の手法、メリット、注意点、効果、事例などをお伝えしていきます。

ラポールとは?

フランス語を語源とするラポールは、セラピーや心理カウンセリング、コーチングなどのシーンで心理学用語として使われてきた言葉です。ラポールの意味は「相手との信頼関係」。信頼関係があるからこそ安心して相談ができるという心理的な融和状態を表しています。また、ラポールは相手に対する「誠意」「好意」「敬意」により築かれるものでもあり、親子関係や友人関係、恋人同士などでは、自然と出来上がっていることがあります。この考え方は、どんなシーンでも意思疎通をスムーズにするための土台になるとされており、ビジネスの世界においても重要視されています。

ラポールの形成の手法

親子関係など、自然と「誠意」「好意」「敬意」をもてる場合以外でも、ラポールは意図的に形成することができます。それには、下記のようなコミュニケーションスキルを手法として取り入れることが必要です。

●ペーシング
ペーシングとは、簡単に言うと相手のペースに合わせること。声の大きさ、声のトーン、話す速度、あいづちを打つ頻度、うなずくタイミングなど、言葉を使わずに信頼関係を築く方法です。意図的にペースを合わせることで「波長が合うな」と感じてもらうことができ、話しやすい雰囲気が形成されます。カウンセリングの手法の一つとして広く知られている方法ですが、ビジネスの分野でも実践され、効果が見られています。

●ミラーリング
ミラーリングは、鏡のように相手の一挙一動を真似ることで、親近感や好意を抱いてもらうという手法です。こういった気持ちを抱くことで垣根が取り払われ、話しがしやすい雰囲気が出来上がります。ただし、瞬時に反応して真似るのはNGです。さりげなくミラーリングをし、相手が自然に受け入れられるようにします。目的は真似することではなく信頼関係を築くこと。不審に思われないように注意しましょう。

●マッチング
マッチングは、聴覚に注力した方法です。話す速度、声の強弱やトーンの高低、呼吸のタイミングなど、聴覚で感じる部分を相手に合わせて、話しやすさや心地よさを形成していきます。ペーシングと同じという印象を受けるかもしれませんが、ページングよりも言動を意識するようにします。同じリズムで会話ができるようにすれば、相手も安心して心を開いてくれるようになる、ということが期待できます。

●バックトラッキング
日本語でいう「オウム返し」がこのバックトラッキングです。相手の発言を繰り返すことで「よく話を聞いてくれているんだ。自分を理解してくれているんだ」というプラスの印象を持ってもらうことができます。プラスの印象は信頼感にもつながるので、良好な関係の構築につながるでしょう。ここでポイントとなるのが、相手の言葉を引用するということ。相手が「楽しかったです」と言えば「楽しかったのですね」、「寒かったです」と言えば「寒かったのですね」という具合です。意味が同じだからといって「楽しかったです」を「ワクワクしたのですね」、「寒かったです」を「ぶるぶるしちゃいますね」などと言い換えると、耳に入ってくる言葉が違うので、話をちゃんと聞いてもらっているという印象にはなりません。
また、一言一句漏らさずに返してしまうと、会話になりませんし、何も考えてないのか? と怪訝な顔をされてしまう可能性も。時には感想なども交えながら、会話を進めていくようにしましょう。

●キャリブレーション
キャリブレーションは、相手の心理状態を把握しながら対応する手法です。例えば商談中、あまり乗り気でないお客さまに対し、あれこれ提案してもうまくいくことはありません。反対に、「自分本位で、感じの悪い営業だな」という印象を持たれてしまって、良好な関係を築くことはできないでしょう。もし当日話す内容を決めていたとしても、反応を見ながら臨機応変に対応することが重要です。
また、上司が部下に注意するときも、この手法を念頭におくと伝わりやすくなります。頭ごなしに注意しても真意は伝わりません。部下の反応を見ながら、言葉を選んで伝えていきましょう、
これまで紹介した手法と比べると、キャリブレーションは少しハードルが高いかもしれません。特に相手がマスクをしている場合や、電話で話している場合は、実践が難しい可能性があります。

ラポールを形成するメリット

ラポールを形成することは、円滑な人間関係や信頼関係につながります。ここではそこから得られるメリットについて解説していきましょう。

●本音を聞けるようになる
信頼している相手に対しては、本音を伝えて理解して欲しいとなるのが人の常です。ラポールの形成によって警戒心が解かれたことで話しやすさが増し、色々なことを包み隠さず話してもらえるようになるでしょう。
例えばマイホーム購入の際、購入希望者が営業担当に希望条件を包み隠さず話すことで、納得のいく購入につながります。しかしこれは信頼関係があるからこそ。「営業担当に話しても伝わらない」、「話を聞いてもらえない気がする」というような関係性では、購入はおろか、他社へ移ってしまう可能性があります。

●人間関係が円滑になることで、スムーズに業務が進む
ラポールによって信頼関係が構築されると、人間関係が円滑になり、様々なメリットが生まれます。顧客の信頼を得ることができれば、安定した受注につながることも期待できるでしょう。
社内においては、ラポール形成によって信頼関係が構築されれば、風通しの良い環境が出来上がります。業務がスムーズに進むことにもなり、働きやすい職場づくりにもつなげられるでしょう。

ラポール形成のためのポイント・注意点

ラポール形成は、ポイントや注意点をおさえてすすめないと、効果が得られないことがあります。

●相手を否定することはNG
ラポールを形成するためには、双方で「誠意」「好意」「敬意」をもてるようにならなくてはいけません。そのような前提がある中、相手の発言をさえぎったり、「それは違いますよ」と開口一番言ったりすると、相手は話す気も聞く気もなくなり、良好な関係性を築くことはできません。まずは傾聴して受け入れてから、何か伝えたいことがある場合は否定せず、意見として伝えましょう。

●過度な手法は逆効果に
手法の説明でも伝えましたが、何度もオウム返しをしたり、タイミングも考えず一挙一動を真似したりすると、「バカにされているのか」と反感を買うことにもなってしまいます。また、一挙一動を真似るといっても、相手が気にしていたり、コンプレックスに感じていたりするような、特有の癖や特徴のある話し方を真似ることは、ラポールの手法ではなく、いじりやいじめと同じです。不快に思われるような、逆効果につながる行動はしないようにしましょう。

●相手をよく見ること
ラポールの手法は、マニュアル通りにやれば成功するというものではありません。何ごとも基本は相手をしっかり見るということ。相手をよく見れば、望んでいること、適切な伝え方、性格などが分かるようになります。ラポールの手法はいくつかありますが、相手によっては向いている手法、向いていない手法もあるでしょう。そういった点を見極めるためにも、まずは相手をよく見るというところから始めるようにしてください。

●継続することを忘れない
ラポールの形成に努め、良好な関係が構築されて商談が成立したとします。しかし、ここで終わりというわけではありません。ラポールは継続していくことも大事です。せっかく良好な関係が築けても、契約が取れたら人が変わったように感心を示さなくなった…というのでは、これまでのギャップが生じる分、大きな不信感へと変わってしまうことがあります。ラポールは手法ではありますが、うわべだけでやることではありません。継続して行うことに意味があります。

ビジネスシーンにおけるラポールの効果

ビジネスシーンにおいても、有効なコミュニケーションツールとなるラポール。ここではいくつか期待できる効果についてご紹介していきます。

●円滑にコミュニケーションがとれるようになる
ラポールで築かれた信頼関係によって、双方に受容しようという気持ちが生まれるため、コミュニケーションが円滑にとれるようになります。円滑にコミュニケーションがとれると、人間関係にも良い影響を与えることになります。こうして、働きやすい職場になることで、業績アップや離職率の低下などが期待できるでしょう。

●信頼感が生まれる
お互いを認め合えるようになるので、信頼感が生まれるというのもラポールの効果としてあげられるポイントです。信頼を感じられる者同士で業務に取り組めば、スムーズに進むだけでなく、良い結果や仕事につなげられるでしょう。
お客さまともラポールが形成されれば、そこで生まれた信頼感から、「何かあれば御社に頼むことにするよ」など、ひいきにしてもらえるようになる可能性が高いでしょう。

●成果につながる
ラポールが形成されていると、チームの結束力が違います。結束力が高いと、意思の統一がしやすくなり、大きな成果を出しやすくなります。社員の士気も高まり、それが相乗効果となって、好循環が生まれるでしょう。

●説得力が増す
信頼関係が築かれると、相手がしっかりと話を聞いたり理解しようとしたりするようになります。よって話が通じやすくなるので、説得力が増すというメリットがあります。
上司が部下に指示したり、顧客に新商品をリリースしたりする場合、このラポールが形成されているかどうかで、結果が大きく変わってきます。相手があまりされたくないと思う話や説得するのにハードルの高い話をする場合は、事前にラポールを形成しておくことをおすすめします。

●心理的に安定しながら業務ができる
人に認められたと感じると心理的にも安定し、自己肯定感が高まります。自身の発言や行動にも自信を持ちながら、前向きに取り組めるようになるでしょう。周りの顔色を伺って自分を抑えるようなことはしないため、活発な意見交換、アイデアにあふれた活気ある職場が実現できます。斬新なアイデアから新商品や新サービスが誕生することも期待できるでしょう。

ラポールの構築により、仕事が成功した事例紹介

ラポールの構築は良好な人間関係の構築と言い換えることができます。これは、日常生活だけでなくビジネスの世界も同様。コミュニケーションを通じて、「この会社なら安心だ。ぜひ一緒に仕事がしたい」という気持ちになってもらうことが、会社の発展や継続には重要です。
ここでは、事業面と組織面、それぞれの側面から見たポイントや、成功事例を紹介していきましょう。

●事業面:価値を理解、共有した提案が可能に
ビジネスにおけるコミュニケーションで重要なのは、受信(相手の気持ちを読み取って、求めていることを見極めること)と発信(相手に伝えたい内容が伝わることや適切な解決方法を提案すること)です。何か伝えたいときは、発信のみをしがちになりますが、一方的な発信は押しつけのようにも感じられてしまうため、良好な人間関係の構築には至りません。まずは、相手を受け入れることが自分を受け入れてもらえることにつながります。
受信という相手の気持ちを読み取ることを大切にして、良好な関係性を築いていきます。そしてその先にあるのが、感化です。感化は、相手の行動変革を促すということで、受信、発信を適切に行うことで感化につなげることができます。手法としては、ページングとバックトラッキングが有効です。

【成功事例】
A社の担当になったばかりの営業Bさんは、女性で子育て中ということを理由に「急に休んだりするんじゃないの? 途中で辞められても困るんだけど」と、全く信頼されていませんでした。しかし、時間をかけてラポールを構築した結果、頼りになって適切な提案をしてくれる営業担当として、どのような案件でも指名がくるほどに。時に失敗することがあっても、「起きたことは仕方がない。リカバリーに努めましょう」と、構築した信頼関係から、クレームではなく、寄り添う姿勢を見せてくれているそうです。

●組織面:心理的安全性の向上で成長しやすい環境に
職場内でラポールが築かれると、風通しのいい環境が生まれます。社員が相互に相談しやすい関係性が生まれるので、コミュニケーション不足による行き違いの発生が少なくなることが期待できます。また、心理的安全性が向上するので、特に若手がのびのびと発言できるようになるというのもメリットと言えます。質問や報告することにも躊躇しなくなるため、例えばミスをしてもすぐに報告があがってくるようになります。「どうせ若手が何か言って変わらないし、聞いてもらえない」という発想自体が生まれず、組織の一員として臆せずチャレンジしていってくれるでしょう。
ちなみに心理的安全性とは「組織の中で自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態」のことで、1999年に組織行動学を研究するエドモンドソンによって提唱された心理学用語です。

【成功事例】
企画部署で主任になったAさん。企画会議では、Bさんという部下が上司の顔色を伺って発言する姿が気になっていました。ある日、Bさんを別室に呼んで話を聞いてみると、「以前自分の意見を正直に発言したところ、意図も確認せずに全否定されたので、それから怖くなって自分の意見が言えなくなってしまった」とのこと。話をじっくり聞いていくうちに、Bさんの斬新な企画力に圧倒されたAさん。その後、管理者研修で学んだラポールを意識しながら定期的にBさんと面談していくうちに、Bさんの心理的安全性が向上。Bさんらしい企画や意見が、活発にだされるようになったということです。

ラポール形成のために人事ができること

IT化や効率化が叫ばれている昨今。会社の発展や継続には、もちろん他社との差別化や時代のニーズにあった商品開発が必要になってきますが、人と人との信頼関係を築くことも大きなポイントになってきます。そのような中、ラポール形成は、信頼関係を築くための大きなカギ。人事で取り組めることはどのようなことなのでしょうか。ここでは、ラポール形成が社内で浸透するよう、いつか取り組みの例を挙げていきたいと思います。

●意義のある1on1ミーティングが実施できるようにする
上司と部下という関係でラポールを形成するためには、1on1ミーティングを実施することが重要です。しかし、上司が1on1ミーティングの意義を理解しないで実施してしまうと、ラポールを形成することはできません。ダメな事例としては、「1on1ミーティングは上司が部下に命令や注意をする場所と捉えてしまっている」というものが挙げられます。この考えでは、上司が一方的に思うことを伝えて、最後にどう思ったかを部下に聞いて終了となってしまう可能性があります。おそらく、上司の思いを一方的に受けた部下は、自分の意見を正直に伝えることはできないでしょう。
1on1ミーティングで重要なのは、まずは上司が部下の話を傾聴するということ。そして、ペーシングやバックトラッキングなどの手法を使って、意図的にラポールを形成していきます。しかし、上司は心理学の専門家でもなければ、心理学のスペシャリストでもありません。人事では、研修の一環として1on1ミーティングのロールプレイングなどを行い、擬似体験の中でスキルや手法を身につけてもらうようにするといいでしょう。

●ラポールをテーマにした研修を実施する
ラポールという言葉や考え方自体、理解していない従業員もいることでしょう。まずは、研修会を実施し、その概要や手法、効果などを伝えていきます。また、理論だけでは理解が進まない可能性があるので、事例動画などを作成し、分かりやすく伝えることも重要です。研修で伝えたい内容は属性によってもやや異なるため、「職種別」、「部署別」、「階層別」に分けて行うのが理想。最後には確認テストなどを行い、理解の深度をはかることも重要です。

ほかにも、ラポールをテーマにした漫画や冊子、WEB記事などの社内コンテンツを作成して、意識を高めるという方法もあります。

また、ラポールが形成されていたとしても、以下のような業務に関係のないことや、社内で口にしにくいことは、外部の相談窓口である、ダイヤル・サービスによく寄せられています。

●ハラスメントを行っている部下に対して、上司としてどう指導するべきなのかアドバイスが欲しい。
●セクハラの被害者に対して、上司としてどうやってコミュニケーションをとっていくべきかが分からない。

ダイヤル・サービスでは、上記のようなことも受け付ける社外の相談窓口を設けています。社内でラポール形成を意識しつつも、外部の相談窓口を活用し、風通しの良い職場づくりに役立ててください。

ラポールを活用し、信頼しあえる関係を

ビジネスにおいて、円滑なコミュニケーションを構築するために効果を発揮するラポール。ラポールを形成させるための手法を活用しながら信頼関係を築き、事業の発展や継続に役立ててみてはいかがでしょうか。

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