Vol.06 労働制度・権利

有給休暇とは? 付与日数の計算方法について、有給休暇取得の妨害事例について具体的に解説

2023年8月1日

有給休暇は、労働者が会社を休んでも賃金が支払われる制度です。業種や業態に関わらず、また正社員だけではなく、一定の要件を満たすすべての労働者に与えられる休暇として、労働基準法の第39条によって定義されている労働者の権利です。
そして2019年の労働基準法改定により、企業は、年10日以上の有給休暇を与えられる社員には、年間5日以上の有給休暇を取得させることが新たに義務付けられました。また労働基準法にはもともと、有給休暇を付与する条件、付与日数の決め方、日数の上限などが規定されています。これらは法律で定められたルールのため、違反すれば違法となり、企業には罰則が科せられます。そのため、企業はこれまで以上に労働者の有給休暇を正確に管理することが求められています。
この記事では、労働基準法における有給休暇の定義や有給休暇を付与する労働者の要件、労働者の立場によって違う付与日数の計算方法などを分かりやすく解説します。さらに、有給休暇を請求した労働者が、実際に会社側から受けた取得妨害や嫌がらせ行為などの事例もあわせて紹介しています。
会社側は基本的に、労働者から有給休暇の申し出があった際には拒むことができません。今回取り上げた妨害事例は、どの会社にも起こり得るケースばかりです。今後の労働者とのトラブルを回避するための大きなヒントになるでしょう。

有給休暇とは

有給休暇の正式名称は「年次有給休暇」といいます。一定期間勤務した労働者に対して、心身の疲れを回復してゆとりある生活を実現することを目的に与えられる休暇のことで、賃金が支払われる休暇日のことです。有給休暇は労働基準法第39条によって定められた労働者の権利です。通常、労働者が仕事を休む場合は、会社側は休んだ期間の賃金を支払う義務はありません。しかし労働基準法第39条によって、有給休暇を取得して仕事を休んだ期間は賃金を支払う必要があると定められています。労働基準法第39条には有給休暇が付与される条件や付与日数の決め方などが規程されています。

有給休暇を付与する条件

労働基準法第39条に定められている、有給休暇を付与する労働者の条件には次の2項目があります。
●6カ月間継続して勤務している
●全労働日の8割以上を出勤している
正社員はもとより、契約社員、勤務日数や勤務時間が短いアルバイトやパートタイム労働者など区分に関係なく有給休暇を付与します。ただし派遣社員については、雇い主はあくまで派遣会社となるため、派遣社員の有給休暇の付与は派遣会社が責任を持って対応することになります。
近年の働き方の多様化により、フリーランスや業務委託で仕事を受注して働いている人たちが増加していますが、そうした形態で働く場合は事業主という扱いとなります。企業の労働者には該当しないため、有給休暇の取得対象とはなりません。

また、有給休暇を付与する労働者の条件にある「全労働日の8割以上出勤」の計算式は【出勤日数÷全労働日】で算出されます。計算の結果、8割以上となった労働者が付与対象となります。

●全労働日・出勤日として取り扱う日数
・有給休暇を取得した日
・業務上の負傷や疾病などにより療養のため休業した日
・法に基づき産前産後休業、育児休業した日
・法に基づき介護休業した日

●全労働日・出勤日から除外される日数
・使用者(会社)の事由によって休業した日
・正当なストライキや争議行為により労務していない日
・休日労働させた日
・法定外の休日など、就業規則で休日とされている日に労働させた日

この他、生理休暇や慶弔休暇、通勤災害による負傷や疾病で療養するための休業などの場合は、法律上は出勤日として取り扱う規程はありません。就業規則や労使間の合意などで決定することができます。

有給休暇付与日数の計算方法

有給休暇付与日数は、週所定労働時間が30時間以上または週所定労働日数が5日以上であれば、次に記載した有給休暇の付与日数(基本)を取得させる必要があります。
●有給休暇の付与日数(基本)
勤続勤務年数0.5年ー付与日数10日
勤続勤務年数1.5年ー付与日数11日
勤続勤務年数2.5年ー付与日数12日
勤続勤務年数3.5年ー付与日数14日
勤続勤務年数4.5年ー付与日数16日
勤続勤務年数5.5年ー付与日数18日
勤続勤務年数6.5年以上ー付与日数20日
このように週所定労働時間及び所定労働日数が基準を満たす労働者の場合は、採用から6カ月を経過した日に10日の有給休暇を付与し、その後、1年を経過するごとに継続勤務年数に応じた有給休暇日数を与えなければなりません。

次に、所定労働時間が30時間未満、及び週の所定労働日数が4日以下の労働者の場合ですが、1年間の所定労働日数と継続勤務年数に応じた日数を付与します。
●所定労働時間及び所定労働日数が基準以下の労働者の付与日数
◎週所定の労働日数4日または1年間の所定労働日数が169日〜216日の労働者
・勤続勤務年数0.5年ー付与日数7日
・勤続勤務年数1.5年ー付与日数8日
・勤続勤務年数2.5年ー付与日数9日
・勤続勤務年数3.5年ー付与日数10日
・勤続勤務年数4.5年ー付与日数12日
・勤続勤務年数5.5年ー付与日数13日
・勤続勤務年数6.5年以上ー付与日数15日

◎週所定の労働日数3日または1年間の所定労働日数が121日〜168日の労働者
・勤続勤務年数0.5年ー付与日数5日
・勤続勤務年数1.5年ー付与日数6日
・勤続勤務年数2.5年ー付与日数6日
・勤続勤務年数3.5年ー付与日数8日
・勤続勤務年数4.5年ー付与日数9日
・勤続勤務年数5.5年ー付与日数10日
・勤続勤務年数6.5年以上ー付与日数11日

◎週所定の労働日数2日または1年間の所定労働日数が73日〜120日の労働者
・勤続勤務年数0.5年ー付与日数3日
・勤続勤務年数1.5年ー付与日数4日
・勤続勤務年数2.5年ー付与日数4日
・勤続勤務年数3.5年ー付与日数5日
・勤続勤務年数4.5年ー付与日数6日
・勤続勤務年数5.5年ー付与日数6日
・勤続勤務年数6.5年以上ー付与日数7日

◎週所定の労働日数1日または1年間の所定労働日数が48日〜72日の労働者
・勤続勤務年数0.5年ー付与日数1日
・勤続勤務年数1.5年ー付与日数2日
・勤続勤務年数2.5年ー付与日数2日
・勤続勤務年数3.5年ー付与日数2日
・勤続勤務年数4.5年ー付与日数3日
・勤続勤務年数5.5年ー付与日数3日
・勤続勤務年数6.5年以上ー付与日数3日

正社員、パート・アルバイト、休業者など、立場別の有給休暇の付与日数

有給休暇を付与する日数や制度は正社員、パート・アルバイト、休業者など労働者の立場によって異なります。それぞれ説明していきましょう。

●正社員
一般的に週5日、1日8時間労働など会社が定める労働時間で働く正社員は、採用から6カ月後に10日の有給休暇を付与します。その後は、継続勤務年数に応じた有給休暇日数を付与します。勤続勤務年数が6年6カ月以降は、年間20日の付与日数となります。
契約社員や派遣社員、準社員なども週所定労働時間が30時間以上、または週所定労働日数が5日以上であれば、正社員と同様の有給休暇の付与日数(基本)を与える必要があります。また派遣社員の有給休暇の付与や管理については、派遣社員が雇用契約を結ぶ派遣会社が行います。

●パート・アルバイト
フルタイム勤務ではないパートやアルバイトも「有給休暇を付与する労働者の条件」を満たしていれば有給休暇を与えなければいけません。正社員の場合よりも少なく、労働日数に付与されます。有給休暇を付与するタイミングは正社員と同じ採用から6カ月後です。週1日勤務の労働者は半年後に1日、週2日勤務の労働者は3日、週3日勤務の労働者は5日、週4日勤務の労働者は7日の有給休暇を取得させる必要があります。
また週の所定労働日数が3日の労働者の場合は勤続勤務年数が5年6カ月以上、週の所定労働日数が4日の労働者の場合は勤続勤務年数が3年6カ月以上になると、有給休暇付与数が10日になります。この際、注意しなければいけないのは、労働基準法の「有給休暇日数が10日以上の全ての労働者に対して、毎年5日間、有給休暇を確実に取得させることが必要」といった義務が会社側に発生する点です。

●休業者
休業者とは、育児や産前産後、介護などで休業している労働者のことです。休業者は実際には勤務していませんが、出勤したものとして出勤率が算定されます。そのため、育児や産前産後、介護休業から復帰した労働者には、昨年1年間まったく出勤していなくても、全日出勤したとみなして有給休暇を付与することになります。

有給休暇日数の上限

有給休暇の付与日数の上限は、6年6カ月以上継続勤務した場合の年間20日間です。最大付与日数の20日間まで繰り越しが可能で、有効期限は2年で最大保有日数は40日となります。就業規則などで有効期限を長く設定しているなどのケースではない限り、2年経った分は消滅します。そのため社員には計画的に休暇を取得するよう促したり、また会社が有給休暇の残日数を正確に管理したりする必要があるでしょう。

有給休暇に関する注意点

有給休暇は労働基準法の第39条によって定義された労働者の権利です。そのため、正しく付与していない、規程通りに取得させていないなどがあった場合は法律違反となり罰則が科されるケースもあります。有給休暇に関する注意点をいくつか説明していきましょう。

●半日単位や時間単位での有給休暇
有給休暇は1日単位で取得させるのが原則です。時間単位の有給休暇を導入するためには労使協定を結ぶ必要があります。その他、年間5日分以内、5日間の有給休暇の取得義務には含まないなどの取り決めがあります。
一方、労働者が希望し、使用者が同意した場合であれば、労使協定が締結されていない場合でも、日単位取得の阻害とならない範囲で、半日単位で与えることが可能です。
また、労働者が1日単位での有給休暇を希望しているにも関わらず、繁忙期だからなどの理由で半日もしくは時間単位でしか取得を認めないといったことはできませんので注意しましょう。

●繰り越しと繰越保持日数の上限
労働者が有給休暇を消化できなかった場合、付与した日から2年以内であれば、消化できなかった日数分を翌年に繰り越す義務があります。2年以内に消化できなかった日数については消滅します。ただ就業規則で2年以上の繰り越し保持を規定することも可能です。

●有給休暇付与と取得義務の規定に違反した場合の罰則
労働基準法では「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられています。違反した場合は、30万円以下の罰金が課されます。また企業に認められるのは、有給休暇の取得が事業の正常な運営を妨げる場合に有給休暇の取得日の変更をする「時季変更権」のみです。それ以外の場合で、労働者が申請した日に有給休暇を付与しなかった場合は、労働基準法に基づき6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。

有給休暇取得率向上のメリット

有給休暇の取得率が向上すると、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

●労働者のモチベーションや生産性の向上
日々の業務による疲労を回復するだけでなく、自分の趣味やボランティア活動などプライベートな時間を充実させることで精神的なゆとりができ、仕事へのモチベーションも上がります。
定期的に有給休暇を取得させることで、労働者は心身ともにリフレッシュすることができ、仕事の効率が上がり生産性の向上、利益向上も期待できるでしょう。

●信頼関係の構築で会社への貢献意欲が向上
労働者が希望した日に休暇を取らせることは、労働の対価として賃金を支払うだけの関係ではなく、労働者と会社の信頼関係の構築につながります。上司に有給休暇を申請しやすい、同僚に気兼ねなく有給休暇を取得できるという環境は、会社と労働者、さらに労働者間の良好なコミュニケーションと信頼関係があるからこそです。
また有給休暇の取得を積極的に促すことで、労働者を思いやる気持ちが伝わりやすくなります。会社への信頼が高まれば仕事への意欲、会社に貢献する意欲も高まるでしょう。

●離職率の低下による優秀な人材の獲得
近年は働き方改革もあって、積極的に有給休暇の取得を促す会社が増えています。求職者の多くも有給休暇が取りやすい職場を望む傾向があり、有給休暇をしっかり取得できることをアピールすれば、離職率の低下につながります。
また離職率低下は働きやすいという企業イメージ向上にもなるため、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。

有給休暇を取得させるデメリット

有給休暇の取得率が向上すると、大きな企業ほど費用負担や労働者への業務負担が発生します。企業にはどのようなデメリットがあるのか詳しく説明していきましょう。

●会社の費用負担
仕事を休んでいる労働者に対して、企業は賃金を支払わなければならないため、費用の負担が必要です。
さらに中小企業など少ない労働者で業務を回している職場は、人手が足りなくなるため現場の労働者に残業が発生し、結果、残業代の支払いが増えてしまうというデメリットもあります。また、人手不足が常態化してしまうと有給休暇を取得できない労働者も出てくるでしょう。
労働基準法で定められている、年に5日の有給休暇取得を達成できなかった場合は、30万円以下の罰金が科される可能性もあります。

●職場の業務負担
同じタイミングで複数の労働者が有給休暇を取得することもあるでしょう。その場合、休んだ労働者の仕事をフォローする現場の業務負担が高くなります。
チームで仕事をしている職場は、労働者が1人休んだだけで、その日の業務内容を変更する必要があるでしょう。それによって進行状況が大幅に遅れて納期に間に合わない、不良品が発覚するなどといった可能性も考えられます。業務悪化が続けば取引先との信頼関係が崩れ、契約を打ち切られてしまうことにもなり兼ねません。

有給休暇取得の妨害事例

労働者の有給休暇を取得する権利を妨害した場合、企業もしくは上司は労働者に訴えられてしまう可能性があるので注意が必要です。その行為や発言はハラスメントと見なされてパワハラ裁判に至ったケースもあります。ここでは、実際に有給休暇を取得しようとした際に妨害されたという労働者の相談事例を紹介します。

●入社して3年以上経つため、有給休暇は最低でも14日はあると思います。2019年以降、国の方針で1年に5日以上、有給休暇を取らせなければならなくなったはずですが、会社の所長は遠回しに「有給休暇を年間で5日以上取るな」という意味の発言をします。これは法律違反、コンプライアンス違反にならないのでしょうか。

●事前に4日間の有給休暇を申請した際、店長からメールで「他の人は月1回のみの有給休暇なので、不公平だから1日だけにしてください」と拒否されました。

●有給休暇を申請すると「その日はダメだ」と上司から言われることがあります。また上司に休日出勤を頼まれた日は都合が悪かったので断ると、「お前はやる気がないのか!」と罵声を浴びせられた上に、周囲の職員に「休日出勤しないなんてありえない」などと言いふらされていました。

●年末の休みの扱いについて上司の名前で次のような掲示がありました。「従業員の皆様へ。年末12月23日から来年の1月4日までは、時季変更権を行使します。有給休暇を受理しませんので、ここに通知します」との内容でした。事前に従業員の有給を受理しないというのは、明らかに労働基準法違反だと思います。第39条5項にも違反しています。時季変更権を行使する場合、「いついつに代わりに(有給休暇を)取ってください」と通知するものですが、それもありませんでした。

●新型コロナウイルス感染症が流行り始めた頃は、コロナ蔓延を防ぐため、「風邪症状がある時は年次有給休暇とは別に、特別休暇として休むように」という通達が会社側からありました。体温の記録や診断明細書の提出などの簡単な手続きで特別休暇を取ることができました。
その後、感染が拡大してから特別休暇を使おうとしたところ、上司から「年次有給休暇を先に使うように」と言われたので理由を聞くと「病休が増えると上からの評価が悪くなるよ」と脅しのような発言がありました。コロナ蔓延を防ぐためという目的の制度なのに、おかしいのではないかと感じましたが、仕方なく自前の有給休暇を使ってきました。
しかし、最近は体調を崩すことが多くなり有給休暇も少なくなっていたので、「特別休暇を使いたい」と上司に伝えると「休む初日に抗原検査を必ず受けないといけない。陰性になった場合には、特別休暇は認められない。咳などの症状があっても通常の有給休暇扱いとする」と説明されました。制度の使い方は間違っていないようですが、上司の発言には問題があると思います。

有給休暇の取得制度への理解を深めることが重要に

働き方改革によって、労働基準法による有給休暇の制度は大きく変わりました。年間5日間の有給休暇を確実に取得させることが義務付けられるなど、働きやすい環境づくりを整備することで労働者のモチベーション向上や会社のイメージアップ、離職率の低下など労働者も企業も多くのメリットが得られます。
その一方で、労働者に有給休暇を取得させなかった場合は、企業に罰則が科せられるなど企業イメージに影響を与えるデメリットもあります。メリット・デメリットの情報を整理した上で、企業と労働者ともに義務化された有給休暇の取得制度への理解を深めることが重要となっています。

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