Vol.05 コンプライアンス

2024年4月 建設業・ドライバー・医師で時間外労働の上限規制の適用開始へ

2023年8月1日

労働基準法の改正により、大企業で2019年4月、中小企業でも2020年4月から、月45時間・年360時間という時間外労働の上限規制が設けられることになりました。

働き方改革の一環として行われたこの法改正ですが、建設業やドライバー、医師、一部地域の砂糖製造業は、その業務の特殊性や慣行を理由に、上限の適用が5年間猶予されています。そして、ついに来年2024年3月にその猶予期間が終了することから、今回は①法改正のポイント、②各業種の時間外労働規定、③違反した場合の罰則、についてまとめていきます。



法改正のポイント

法の改正前後ともに、法定労働時間が原則1日8時間、週40時間であり、毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないこと、それを超える場合には労働基準法36条に基づく労使協定、通称36(サブロク)協定を結ぶ必要があることに変わりはありません。しかし、改正前は36協定を結びさえすれば青天井に時間外労働を行わせることが可能でした。そこで改正後は、特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられています。

具体的には、
a. 原則として「月45時間・年360時間」
b.臨時的な特別な事情がある場合には、
「年720時間、休日労働を含めて月100時間未満かつ複数月(2~6カ月)平均80時間以内」が上限であり、原則である月45時間を超えることが出来るのは年間6カ月まで


というものです。

一方で、2024年4月1日から新たに上限規制が適用される建設業やドライバー業務、医師などはこの上限が一部特例つきで適用されることになっています。



建設業・ドライバー・医師などの時間外労働の規定

◻︎建設業

原則的に、上記①の上限規制がすべて適用されます。
しかし、災害時における復旧及び復興の事業には、「休日労働を含めて月100時間未満かつ複数月(2~6カ月)平均80時間以内」という規制は適用されません。

建設業における罰則付き残業規制の適用は2024年4月ですが、国土交通省はこれを待たずに「建設業働き方改革加速化プログラム」(2018)を策定しました。この中で、強制力はないものの、主な目標として週休2日の確保を中心とした長時間労働の抑制や、適切な工期の設定などを挙げています。また、労働基準法の改正により、2023年4月からはすべての企業において月の時間外労働が60時間を超える場合の割増賃金率が25%から50%に引き上げられ、建設業もその例外ではありません。

建設業の場合、従業員は家から直接現場に向かったり、勤務場所が分散していたりする場合も多く、他業種と比較して労働時間の管理にコストがかかる傾向にあります。また、工期の不当な短さや、予想外の天候などによる残業の発生が業界全体で常態化していることが問題視されています。実際に、2017年には東京オリンピック・パラリンピックに向けた新国立競技場の建設中に、当時23歳の男性が過労自殺するという痛ましい事案も報道されました。

2024年の罰則付き残業規制の適用を踏まえて、常に人手不足に悩み長時間労働をせざるを得ない現状を打開するためにも、建設業界全体で働き方改革に取り組む必要があるでしょう。

◻︎ドライバー

四輪以上の自動車の運転及び運転に付随する業務が大半を占める労働者を指し、事務員や運行管理者など、運送業に従事するものの運転が主務ではない労働者はこの対象ではありません。具体的には、トラック、バス、ハイヤー・タクシー等の運転手を指します。

ドライバーは、36協定を結んだ場合、年間の時間外労働の上限が「960時間」となるほか、上記の「休日労働を含めて月100時間未満かつ複数月(2~6カ月)平均80時間以内」および「原則である月45時間を超えることが出来るのは年間6カ月まで」という規制は適用されません。

一方で、トラック、バス、ハイヤー・タクシー等の運転手に関しては、厚生労働大臣より「改善基準告示」が別途に示されています。これは「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」のことを指し、労働条件の向上を図るため、拘束時間(労働時間+休憩時間)の上限、休息期間(終業時間から次の始業時刻までの時間)などの基準が定められています。1997年以降改正が行われていなかったこの改善基準告示ですが、2024年の時間外労働の上限規制の適用に合わせて見直しが行われ、同様に2024年4月より施行されます。以下、各車種における変更の要点をまとめます。(一部例外や補足事項等、より詳細な情報は厚生労働省ポータルサイトをご確認ください)

◼︎トラック

1年の拘束時間3,516時間→原則3,300時間
1カ月の拘束時間原則293時間/最大320時間→原則284時間/最大310時間
1日の休息期間継続8時間→継続11時間を基本とし、9時間下限


◼︎バス

1年の拘束時間3,380時間→原則3,300時間
1日の休息期間継続8時間→継続11時間を基本とし、9時間下限

また、「4週平均1週間の拘束時間」の測定単位が「1カ月」に変更され、

「4週平均1週間の拘束時間」
原則65時間/最大71.5時間(月換算:原則281時間/最大)309時間)
「1カ月の拘束時間」
原則281時間/最大294時間


◼︎タクシー

1カ月の拘束時間<日勤> 299時間→288時間
<隔勤> 原則262時間/最大270時間→変化なし
1日の休息期間<日勤> 継続8時間→継続11時間を基本とし、9時間下限
<隔勤> 継続20時間→継続24時間を基本とし、22時間下限


これらは法律ではなく厚生労働大臣告示であるため、罰則の規定はありませんが、違反が認められた場合には労働基準監督署からの指導が入ることになります。

◻︎医業に従事する医師

「医業に従事する医師」とは病院、診療所、介護老人保健施設または介護医療院に勤務する医師を指します。(産業医、検診センターの医師などは一般の業種の労働者と同様の基準が適用されます)
医業に従事する医師は、原則として、休日を含めた時間外労働時間は「年960時間」が上限となっています。
しかし、下記のやむを得ない理由で医療機関が勤務医にこれを上回る労働を行わせる必要がある場合には、その理由に応じて都道府県知事から指定を受けることで上限時間が延長されます。

指定の種類長時間労働が必要な理由年の上限時間
A水準原則(指定取得不要)960時間
B水準地域医療の確保通算で1,860時間
連携B水準医師を副業・兼業として他院に派遣することでの地域医療の確保1,860時間(各院では960時間)
C-1水準臨床研修・専門研修医の研修1,860時間
C-2水準長時間修練が必要な技能の習得1,860時間

加えて、「休日労働を含めて月100時間未満かつ複数月(2~6カ月)平均80時間以内」および「原則である月45時間を超えることが出来るのは年間6カ月まで」という規制は適用されません。

しかし、他の業種と異なり医師に関しては医療法に基づいた「勤務間インターバル制度」が設けられています。(以下2種類)

1. 始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間を設けるもの
 (通常の日勤および宿日直許可のある宿日直に従事させる場合)
2. 始業から46時間以内に18時間の連続した休息時間を設けるもの
 (宿日直許可のない宿日直に従事させる場合)
  (※C-1水準が適用される臨床研修医の場合、48時間以内に24時間)

これらの休息時間中にやむを得ない理由により発生した労働に従事した場合は、その労働時間に相当する時間の「代償休息」を事後的に付与する必要があります。また、1か月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる場合には面接指導を行い、必要な場合には対象医師の健康確保のために労働時間の短縮などの適切な措置を講じることが義務付けられています。

◻︎鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業

この事業では、①に記載の時間外労働の上限規制が原則通りに適用されます。



違反への罰則と、すでに導入されている職種での摘発事例

36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合には、労働基準法第32条違反となり、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が命じられます。

また、時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間以上となった場合や、複数月平均のいずれかが80時間を超えた場合は、労働基準法第36条第6項違反となり、同じく「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が命じられます。

実際に2021年8月には、香川県の中小食品製造業者が、中国人技能実習生10人を月100時間の上限規制を超えて働かせたとして、労働基準法第36条違反の疑いで摘発・書類送検され、社名も公表されました。



最後に

長時間労働を是正することは、従業員の心身の健康や、仕事と家庭の両立などの助けになるだけでなく、労働生産性の向上や、離職率の低下も期待できます。

雇用者・被雇用者双方のために、自社の時間外労働の管理を徹底し、来年に迫った時間外労働の上限規制に備える必要があるでしょう。



ダイヤル・サービスの取り組み

当社が様々な企業様から受託をしている外部相談/通報窓口サービス(ホットラインサービス)にも、長時間労働に関する相談や通報が入ってきています。その多くは会社の上層部や経営には届きにくい「時間外労働を過少に申請させられる」といった法令違反やコンプライアンスに関するもの、また「時間外労働による心身への負担」といったメンタルヘルスや健康に関する相談が入ってきます。

なかなか企業の中の窓口には相談するにはハードルが高く、誰にも相談できずに離職や大きな問題になって発展してしまうようなこともあります。外部窓口を設置することで、問題の早期発見や、離職の防止、従業員のケアを行うことができます。昨今では本記事でも対象となっている建設業・運送業・医師(医療法人)様からのご導入が増えております。是非一度、この記事をお読みになった企業の方は当社の外部相談/通報窓口サービス(ホットラインサービス)のご利用をご検討ください。

「残業」と「時間外労働」の違い|column

・残業…会社で定めた所定の労働時間を超えて働くこと。
・時間外労働…労働基準法で定められた「1日8時間・週40時間」を超えて働くこと。

始業9:00、休憩12:00~13:00、終業17:30の会社で18:00まで働いた場合、一般的な「残業時間」は30分となりますが、「時間外労働」はしていません。総労働時間が8時間だからです。

参考サイト

厚生労働省|時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省HP(参照2023-7-19)

厚生労働省|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省HP(参照2023-7-19)

厚生労働省|医師の働き方改革2024年4月までの手続きガイド|いきサポHP(参照2023-7-20)

厚生労働省|医師の働き方改革に関するFAQ|厚生労働省HP(参照2023-7-20)

厚生労働省|医師の働き方改革の制度について|医師の働き方改革 C2審査・申請ナビ(参照2023-7-20)

日本医師会|医師の働き方改革と地域医療|DOCTOR-ASE(参照2023-7-20)

労働新聞社|実習生10人に月100時間超 上限規制で初の送検 観音寺労基署|労働新聞HP(参照2023-7-20)

京都労働局 労働基準部 監督課|働き方改革に関する取組について|厚生労働省HP(参照2023-7-20)

京都新聞|「身も心も限界」23歳男性が過労自殺 新国立競技場の急ピッチ建設で「残業190時間」|京都新聞HP(参照2023-7-24)

国土交通省|建設業働き方改革加速化プログラム|国土交通省HP(参照2023-7-24)

国土交通省|適正な工期設定等のためのガイドラインについて|国土交通省HP(参照2023-7-24)

厚生労働省|トラック運転者の改善基準告示|自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト(参照2023-7-24)

厚生労働省|改善基準告示(令和6年4月1日適用)に関するQ&A|厚生労働省HP(参照2023-7-24)

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