36協定とは? 罰則・特別条項・新様式をわかりやすく解説
2023年7月6日36(サブロク)協定を締結・届け出をしていない状態で、法定労働時間を超えた労働や休日労働をさせているケースが見受けられます。「締結・届け出はしていないけれど、残業代を支払っている。休日に出勤した従業員には代休を与えているので問題ない。」と思っている人事・労務担当者もいるようですが、これは法令上問題があり、締結・届け出をしていない場合は罰則を受ける可能性があることはご存知でしょうか?
今回は、36協定の概要や書式、締結方法、違反した場合の罰則などについて、わかりやすく解説していきます。最後には弁護士のワンポイントアドバイスもあるので、参考になさってください。
36協定とは
36協定の正式名称は、「時間外労働・休日労働に関する協定」といいます。この協定は、労働基準法で定められている法定労働時間(原則として、1日8時間、週40時間以内)を超えた労働や休日労働(この「休日」とは、週に1日または4週に4日与える必要がある休日(法定休日)を指します)をさせる場合に、企業と従業員(労働者)の代表者が締結する労使協定のことです。労働基準法第36条に定められているため、通称「36協定」と呼ばれています。これは正社員だけでなく、時間外・休日労働が発生するすべての従業員が対象で、企業の規模も関係ありません。
言い換えると、36協定の締結・届け出がない場合、企業は従業員に法定労働時間を超えた労働や休日労働をさせることはできないということになります。
なお、管理監督者や、「高度プロフェッショナル制度」の対象者等、一定の者は36協定の対象外となります。
時間外労働とは
時間外労働とは、法定労働時間を超えて労働することです。1日8時間、週40時間以上労働させた場合は、時間外労働となります。
所定労働時間(※)が7時間の企業で7時間30分働くと、残業は30分と捉えるのが常識と考えられがちですが、法定労働時間の上限である8時間を下回っているため、法律上の残業代は発生しません。ただし、残業の発生基準を、「所定労働時間を超える時間」と「法廷労働時間を超える時間」のいずれとするかは、労使の定めによって決まります。従業員は、企業が定める所定労働時間を超えたら残業代が発生するという認識を持っているケースが多いので、どちらが基準になっているのかは、しっかり周知するようにしましょう。
※所定労働時間:企業側が定めた労働時間のこと。始業から就業までの時間から休憩時間を引いた時間がこれにあたる。たとえば、始業が10時で終業が18時、休憩時間が12時~13時(1時間)の企業であれば、所定労働時間は7時間となる。なお、所定労働時間は、法定労働時間(原則として、1日8時間、週40時間以内)を超えて設定することはできない。
36協定を締結する際には、業務の種類別に下記を明確にしたり、決めておいたりする必要があります。
1 法定時間外労働や休日労働をさせる具体的な事由
なぜ、法定時間外労働や休日労働をさせる必要があるのかを明確にします。
例:経理であれば、月末の決算事務、検査であれば臨時の受注、納期の変更など。
2 法定時間外労働の場合、延長することができる時間数(日、1カ月、1年それぞれ)
法定労働時間を超えた労働や休日出勤が可能とはしていますが、無制限に設定できるものではありません。厚生労働大臣告示において、1カ月45時間、1年360時間等と、「限度時間」が定められているため、その時間内に、日、1カ月、1年それぞれで設定する必要があります。なお、限度時間は設けられているものの、必要最小限にとどめることにし、業務内容も考慮するようにします。また、協定した範囲内で労働させた場合でも、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を負います。労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることは、認識しておくようにしましょう。
「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達)において、下記のような記載があります。
✓ 1週間当たり40時間を超える労働時間が月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まる
✓ 1週間当たり40時間を超える労働時間が月100時間または2~8カ月平均で80時間を超える場合には、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強い
3 休日出勤の場合、労働させることができる休日数と始業及び終業時刻
1カ月の休日出勤日と始業及び終業時刻を明確にします。
4 有効期間
1年とするのが通例で、適用期間ごとに36協定を締結します。
これらについて労使間で合意したら、「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)に記載し、所轄の労働基準監督署へ届け出をします。
「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)の変更点
2021年4月1日から、「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)が新様式に変更しました。ここではその変更点を見ていきましょう。
●「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)における押印・署名の廃止
記名の必要はありますが、使用者の押印及び署名が不要となりました。手書きで氏名を書く(自署)のが署名で、手書き以外の方法で氏名を記載するのが記名です。つまり変更後は、ゴム印やパソコン入力などで使用者の氏名を記載することができるようになりました。
●36協定の協定当事者に関するチェックボックスの新設
36協定を適正に締結するために、労働者代表(事業場における過半数労働組合または過半数代表者)についてのチェックボックスが新設されました。
なお、万が一旧様式に記載してしまっても、「旧様式にチェックボックスの記載を追記する」「チェックボックスを別紙に転記し、それを添付して届け出る」という方法も可能です。
36協定を締結する相手
36協定を締結する相手は、労働者の代表とされています。労働者の代表とは、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)、または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)のこと。労働者とは、正社員だけではなく、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなども対象となります。よって、ここでいう労働組合は、企業に従事しているすべての労働者の過半数で組織する組合であることが条件です。また、過半数代表者は、36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明示し、投票や挙手など民主的な方法によって選出する必要があります。
なお、いずれの場合も管理監督者でないことが必須です。管理監督者は、監督または管理の地位にある人を指し、具体的には、工場長、部門長、支店長などが挙げられます。これらの立場にある人は、いくら民主的な方法によって労働者の信任が得られても、労働者の代表にはなれません。
36協定に違反した場合
36協定の締結・届け出をせず、法定労働時間を超えた労働や休日労働をさせると、労働基準法違反となります。労働基準法第119条第1号に基づき、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される可能性があるので注意が必要です。
なお、罰則の対象となるのは、企業と経営者、そして監督または管理の地位にある工場長や部門長、支店長などです。
特別条項付き36協定とは
特別条項を締結すれば、年間6カ月まで、限度時間を超えて労働させることが可能となっています。例えば、繁忙期や緊急時などは、36協定の範囲を超えてしまう可能性がある業務もあります。その場合は、「特別条項付き36協定」を締結すれば、例外として、年720時間以内、2〜6カ月の法定時間外労働及び休日労働の平均がすべて80時間以内、単月の時間外労働及び休日労働が100時間未満(休日労働を含む)というように、上限が変更できます。
36協定の適用が猶予・除外となる事業や業務
働き方改革の一環として改正された労働基準法では、従来、厚生労働大臣の告示によって定められていた時間外労働の上限が、法律によって規定されました。一方、長時間労働の背景に特性や取引慣行の課題がある下記のような事業や業務は、時間外労働の上限規制の適用が2024年4月まで猶予され、一部特例付きで適用されます。
<適用猶予事業・業務>
事業・業務 | 猶予期間終了後の取扱い(2024年4月以降) |
工作物の建設の事業 | ●災害時の復旧及び復興の事業を除き、上限規制がすべて適用 ●災害時の復旧及び復興の事業には、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制は適用されない※いずれも時間外・休日労働の合計 |
自動車運転の業務 | ●特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限は年960時間 ●時間外・休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制が適用されない ●時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6カ月までとする規制は適用されない ※別途、運転時間や勤務間インターバルについて定めた「改善基準告示」を遵守する必要がある |
医業に従事する医師 | ●特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限は最大1,860時間 ●時間外・休日労働の合計が月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制が適用されない ●時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されない ●医療法等に追加的健康確保措置に関する定めがある ●勤務医が確実に休息を取ることができるよう、退勤から翌日の出勤までに原則9時間を空けるルール(勤務間インターバル制度)が始まる ●1カ月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる場合は、産業医などによる面接指導を行う必要がある |
鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業 | ●上限規制がすべて適用 ※猶予期間中も、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制以外は適用される |
※厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」より一部引用、編集
36協定届け出の流れ
ここでは、36協定締結後から届け出までの流れを見ていきましょう。
1 36協定を締結
労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)、または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と合意し、36協定を締結します。
2 「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)に締結内容を記入
締結した内容を、厚生労働省のホームページなどからダウンロードできる「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)に記入します。特別条項付きや猶予・除外となる事業や業務でない場合は、様式第9号を選んでください。
厚生労働省 時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)のダウンロードサイト
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/36_kyoutei.html
3 「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)を所轄の労働基準監督署へ届け出
所轄の労働基準監督署の窓口に持参、もしくは郵送で提出します。郵送で控えが必要な場合は、原本と控え(写)、返信用の切手及び封筒(封筒に切手を貼り付け、返送先を記入したもの)を入れてください。なお、内容に問題がなければ到着した日付で受理されます。
アカウントを取得し、アプリをインストールすることで利用できる「e-Gov」からの電子申請もできますので、そちらもチェックしてみてください。
届け出が終わって受理されたら、従業員に届け出が終わったことや36協定の内容を、メールや掲示板などで改めて周知しましょう。
決まりはないものの、労使での締結は年1回が通例となっています。しかし、業務内容に変化がないと、毎年見直しをせず、同じ内容で締結している企業も多いようです。
内容が同じという点に問題はありませんが、締結時には毎回内容が実情にそっているかを確認し、変更する必要があれば対応するようにします。36協定の締結が惰性にならないように注意しましょう。
また、36協定は、原則として、時間外労働が発生する可能性のある事業所ごとに届け出が必要です(本社が一括して届け出をするためには、協定事項のうち、事業の種類・事業の名称・事業の所在地(電話番号)・労働者数以外の事項が同一のものに限られます。なお、電子申請においては、要件が緩和されています。)。
36協定に記入する内容
「時間外労働・休日労働に関する協定届」(36協定届)にそって記入していくことになります。その内容は以下の通りです。
なお、厚生労働省 時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)のダウンロードサイト(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/36_kyoutei.html)には、記入例がアップされています。
注意点なども記されているので、確認しながら記入すると安心でしょう。
□労働保険番号
□法人番号
□事業の種類
□事業の名称
□事業の所在地(電話番号)
□協定の有効期間
□時間外労働をさせる必要のある具体的事由
□業務の種類
□労働者数(18歳以上の者)
□所定労働時間(1日)(任意)
□延長することができる時間数(1日、1箇月、1年)
※休日労働が必要な場合は、具体的事由、業務の種類、労働者数(18歳以上の者)、所定休日(任意)、労働させることができる法定休日の日数、労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻を記入
□「上記で定める時間数にかかわらず、時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1箇月について100時間未満でなければならず、かつ2箇月から6箇月までを平均して80時間を超過しないこと。」のチェックボックスへチェック
□労働者代表の職名、氏名
□使用者の職名、氏名
□労働者代表についてのチェックボックスへチェック
36協定で留意すべき事項
厚生労働省では、時間外労働や休日労働を適正なものにするために、留意すべき事項に関して、新たに指針を策定しています。
労働基準法によって限度時間は定められていますが、業務内容や実情にそった設定をするようにし、業務に対して必要最小限にとどめることがポイントです。また、長時間労働や休憩なしの業務は、従業員が疲弊してしまうだけでなく、過労死のリスクを高めると言われています。
こういったことを回避するためにも、安全配慮義務を負うことや健康・福祉の確保も必要としています。
具体的には、(1)医師による面接指導、(2)深夜業の回数制限、(3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)、(4)代償休日・特別な休暇の付与、(5)健康診断、(6)連続休暇の取得、(7)心とからだの相談窓口の設置、(8)配置転換、(9)産業医等による助言・指導や保健指導などが挙げられています。
企業に合った36協定を
企業が時間外労働や休日勤務をさせる場合には、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要となる36協定。協定の内容は最小限の条件にし、従業員へ過度の負担がないようにするというのが重要なポイントです。
労使で締結した36協定を遵守することは、従業員の健康を守るということにもつながります。36協定の重要さを改めて感じていただき、すでに締結している場合でもその内容が現状に合っているかどうかを再確認するといいでしょう。
採用難が叫ばれている昨今、人材不足により残業(時間外労働)が増加しがちなのではないかと思います。厚生労働省の過去の統計(平成25年)によれば、36協定を締結していない事業場の割合は44.8%であり、その理由を見ると、「時間外労働・休日労働がない」として36協定を締結していない企業が43%あったほか、「時間外労働・休日に関する労使協定の存在を知らなかった」企業が35.2%も存在します。上記のとおり、36協定の締結・届け出をせずに、法定労働時間を超える労働や休日労働をさせると刑事罰が科される可能性があるため、この記事を読んで下さった皆様には、今一度、自社の36協定の締結・届け出の状況を点検していただければと思います。
また、実務上、36協定の締結・届け出を行っていない、あるいは、本来特別条項付きの36協定の締結・届け出が必要であるにもかかわらずこれを行っていない企業は、労働時間管理も十分でないことが多いように見受けられます。本来支払うべき時間外労働・休日労働の割増賃金が適切に支払われていないと、従業員からまとまった期間分を一度に請求される可能性があるほか、M&Aの際に問題が顕在化し、取引の実行前までにこうした不払いを解消するように条件付けられることもあります。適時適切に支払いをしていれば、一度に大きな負担をせずに済むものですので、36協定の締結・届け出を的確に行うとともに、労働時間管理をしっかりと行い、割増賃金を適切に支払うことが肝要です。こうした対応ができれば、従業員から会社に対する信頼も向上するでしょう。
他方、不必要な割増賃金の支払いを避けるためには、上司の管理能力も重要です。その日のうちに終わらせる必要がない業務については、残業をさせずに、翌日以降の所定労働時間内に対応させるということも考えられます。業務内容や状況に応じて、適時適切に指示することが求められます。
なお、36協定届が新様式になったことは上記のとおりですが、「e-Gov」を使って必要項目を入力すると、電子署名及び電子証明書の添付が不要です。また、従来できなかった事業場毎に労働者代表が異なる場合の「本社での一括届け出」も、「e-Gov」による電子申請ならば可能です。上記のとおり、36協定は事業場毎に締結する必要がありますが、電子申請により労働基準監督署への届け出が容易になっておりますので、事業場が複数あって労働者代表が異なる場合には、一括届け出に挑戦してみてはいかがでしょうか。
[監修者情報]
監修者:冨松 宏之
資格:弁護士、弁理士
自己紹介:
堀総合法律事務所パートナー弁護士・弁理士。予防法務から紛争処理に至る企業法務を核として、国内外の案件を担当する。上場企業等の社外取締役・監査等委員としてガバナンス・コンプライアンスを監督し、社外通報窓口も担当。ハラスメント等の調査に関する第三者委員会の委員も務め、顧問企業等の健全な成長・発展のために尽力する。
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