【シリーズ・内部通報制度】 内部通報制度と司法取引制度(1)

「内部通報制度と司法取引制度」

  日本版司法取引開始! 企業の対応は?!             


 

1 はじめに

既に多くの企業で内部通報制度が導入され,今ではその活用方法に議論が移っています。内部通報制度は,自社内で不正等に関する情報をつかむことで不正等を早期発見し,又は未然防止につなげる仕組みであり,自社に情報提供を求める点が,外部に情報提供を行う内部告発との違いです。

ところで,平成30年6月,日本版司法取引とも言われる合意制度が始まりました。報道によれば,合意制度が初適用された事例もあるようです。合意制度は,被疑者らが検察官に「他人の刑事事件」の解明に協力することで自分の刑事処分を減免してもらうことを合意する制度です。企業の役員,社員から見れば,一つの内部告発手段にもなり得るこの合意制度の導入により,企業の内部通報制度に影響があるのでしょうか。この点を合意制度の特徴から論じてみたいと思います。

 

2 合意制度の特徴

 (1) 企業(法人)も合意制度の主体足り得ること

合意制度は法令が定めた特定の犯罪が対象となりますが,対象犯罪は多く,例えば法人が(も)処罰の対象になる粉飾決算(金融商品取引法違反),談合(独占禁止法違反),製品の不当表示(偽装),海外公務員贈賄(不正競争防止法違反),金融検査忌避(銀行法違反),知的財産の侵害(商標法違反等),脱税(法人税法違反)なども対象犯罪です。

そして,これらの犯罪は,実際には企業の役員,社員らが実行するわけですが,個人も実行者として別途,刑事処分の対象となる結果,法律上は,企業にとって,役員,社員の犯罪は「他人」の刑事事件に当たり,また,役員,社員にとって,企業の犯罪は「他人」の刑事事件に当たるのです。

ですから,役員,社員は,他人である自分の会社の犯罪の解明に協力することで自分の刑事処分を減免してもらうのを合意することができるのと同様,企業も,他人である自社の役員,社員の犯罪の解明に協力することで,企業の刑事処分を減免してもらうことを合意するのも可能なわけです。

 

 (2) 合意制度の適用は相当程度の捜査協力が求められること

最近,合意制度の当面の運用に関する検察の考え方が公表されました(「合意制度の当面の運用に関する検察の考え方」(法律のひろば2018年4月号(71巻4号)・48ページ))。

これによりますと,「検察官は,合意するか否かの判断に当たり,合意をした場合に本人が行う協力行為により得られる証拠(供述等)の重要性や信用性,本人が合意を真摯に履行する意思を有しているかなどを見極めることが必要である。そのため,協議においては,本人から合意した場合に行う協力行為の内容を十分に聴取するとともに,協議における本人の供述について裏付捜査を行い,その信用性を徹底して吟味すべきである。」とされています。

この考え方は,合意制度を適用して刑事処分の減免を合意するためには,単に本人が知っていることを話せば足りるのではなく,メールや通話履歴,スケジュールデータ,取引の証票類,社内文書,決裁資料といった多くの証拠によって十分な裏付けがなされ,本人の協力行為が犯罪の実態を明らかにするものであることの高度の信用性が認められる必要があるという趣旨だと考えられます。

 

3 合意制度の導入を内部通報制度の活性化につなげる

今までは,例えば内部通報をきっかけに社内調査を行い,法令違反があれば捜査機関に申告し,捜査協力した挙句に企業が処罰されていましたが,上記のとおり,今後は,企業が捜査機関に捜査協力を約束して合意制度が適用されれば,企業の刑事処分の減免が約束されるため,合意制度は企業にとっても大きなメリットとなるものです。

そして,上記のとおり,合意制度の適用を受けるためには犯罪の実態を,信用性をもって明らかにする必要がありますから,不正を早期に発見し,徹底した社内調査を実施して自ら不正の内容を解明するという従前からの取組みは,合意制度が導入された今,より一層,重要になってきたといえるでしょう。換言すれば,合意制度の導入は,企業自身による不正の早期発見及び徹底した社内調査を行うための良い動機付けになると捉えることができるということです。

そのような中にあって,内部通報制度は,自社の不正を早期に発見するための手段ですから,万が一の時に合意制度の適用の申入れにつながる有効な手段であって,合意制度と競合したり対立したりするものでは全くありません。

したがって,今後は,合意制度の適用の申入れもあり得ることを前提に,不正の端緒を早期につかむ手段としての内部通報制度をどのように活用すべきかが今一度,議論,検証される必要があります。次回はその辺りに焦点を当てて考察したいと思います。

 

以上

 


【筆者プロフィール】

のぞみ総合法律事務所

弁護士 吉野 弦太氏

 

平成10年,司法試験合格・中央大学卒業。52期司法修習を経て平成12年に検事任官。長年,特捜部等にて企業犯罪捜査に従事。また法務省にて医療労働分野で国側訴訟代理を務める。その後,指導官として証券取引等監視委員会に出向し,多くのインサイダー取引や企業開示案件の調査を指揮。平成28年に弁護士登録。内部通報等による第一報から社内調査を経て最後の出口(事業継続是非の経営判断助言,広報対応,民事・刑事での責任追及等)に至るまでトータルでのサポートを提供。「法務を強くする」をモットーに社内調査の準備の仕方,ヒアリングの手法,書面作成要領など細部にわたりノウハウを提供する。