必要な指導を行うために

「部下に強く指導できないんです……パワハラと訴えられるかもしれないですし……パワハラという疑いをかけられるくらいなら、部下の怠慢も放っておいて目をつぶったほうが安全ですし……」
というご相談を受けることがあります。 こうなってしまっては、社員を教育することもできないでしょう。 “パワーハラスメント(以下パワハラ)”という言葉が独り歩きをすると、このような理不尽な状況が生まれることがあります。

 

例えば、ある上司が部下を「なにやってんだ!」と怒鳴ったとします。 もし、その部下が業務上やるべきことをしていない(アポイントに遅刻した、顧客に失礼な対応をしたなど)のであれば、怒鳴ることがただちにパワハラとはいえないでしょう。あるいは、工場などで部下が危険な場所に立ち入ろうとしているときに大声で怒鳴ったのならば、それは部下の命を守るための行為であって、パワハラと捉えられることはないでしょう。

 

指導が業務の適正な範囲内であるかどうかの線引きをすることは難しいといわれています。なぜなら、人の発する言葉の意味は、出来事の状況と文脈によって変わってくるからです。パワハラか業務上適正な指導の範囲か迷われることもあるでしょうが、指導・教育をする際には次の点に気をつけてみてください。

(1) 相手を追い詰めるような否定的メッセージを出して、自信を喪失させていないか

(2) キャリアや役割、能力まで否定するような言動を行っていないか
(3) 人格や人権など、その人の人間としての存在自体を否定するような表現をしていないか

 

この場合は、最初に抱いた「モヤモヤ感」と向き合う必要があります。 まずは、その感覚に対して心を「ありのまま」の状態にします。自分の感覚にどういう感情がぴったり当てはまるのか考えてみましょう。怒り、憤り、悔しさ、悲しみ、寂しさ、不愉快など、どのような感情でも、無理せず素直に自然と沸きあがる感情を受け止めてください。 「モヤモヤ」していたものに少しずつに輪郭が生じてくるでしょう。

 

このように、感情に「名前」をつけるという作業を何度か繰り返し、自分の感情を探り、向き合っていきます。掃除などと一緒で、収めどころのないものの一時的な置き場所を作って整理整頓するイメージです。

 

また、同じ言葉でも「誰が」「誰に」言ったのかによって、そこに含まれる意味合いや受け取り方が異なります。 上司が「場を和ませよう」とか「親しみを込めて」、「期待しているからこそ」言ったつもりでも、部下が「尊厳を傷つけられた」、「人格否定された」と感じることは珍しくありません。この場合、人となりや関係性を見誤っている可能性があります。普段からコミュニケーションを取り、相手の性格やタイプを理解するよう努めましょう。 さらに、相手が困った、嫌な素振りをみせたら、見逃さずに声をかけること。どんな言動に傷つくのか知り、率直に謝ることでよりよい関係を築くことができます。

 

適切な指導を行うことをためらったり、しづらく感じたりするような職場にしないためには、「パワハラ」の定義を知ると同時に、コミュニケーションを取ることが大切といえるでしょう。