ハラスメントにかかわる問題ダイヤル・サービスのハラスメント相談窓口にかかってきた電話の中で「これってセクハラにあたらないでしょうか」と女性相談者が口を開くことがあります。話を聞くと、思いやりのある上司のもとで周囲とのあつれきもなく仕事をしていました。しかし、相談者は「責任のある仕事を任せてもらえない」と不安を口にします。例えば、人事考課面談で上司にこう言われます。「いつも笑顔で明るく職場の雰囲気を保ってくれてありがとう」と。「仕事の成果ではなく、穏やかな職場の潤滑油としての立場を期待されているような気がして釈然としません」と話します。上司としては、仕事の成果や能力を評価したうえで、さらに「褒めた」つもりかもしれません。しかし、相談者は「女性だから能力よりも愛想よくしていることを求められた」と感じました。責任を伴う精神的な負担感の多い業務を女性でなく男性に任せようとするのは、上司の悪意や敵意ではなく、優しさや配慮だと感じる人もいるでしょう。セクハラの意図があると感じる人はむしろ稀かもしれません。ですが、これはジェンダーバイアスのひとつである「慈悲的差別」、「好意的性差別」と呼ばれるものです。女性や子ども、老人や若年層を自分より弱い立場にあるとみて、不必要な配慮や気遣いをすることを指します。職場では「女性だから」「時短勤務だから」「育児中だから」「障がい者枠雇用だから」という枕詞とともによく使われるます。育児中で時短勤務であっても、難しい仕事に挑戦し結果を出す人はいます。部署の仕事を効率よくこなし、時間内に終わらせて成果を上げる人もいます。しかし、慈悲的差別が行われると、仕事に挑戦することすらできません。それが悪意ではなく、「思いやり」という認識のもとで行われることが問題なのです。根底にあるのは、多くの場合「上司」「先輩」「男性」がその立場にあたりますが、自分たちは優位であるというアンコンシャスバイアス、無意識の価値観や思い込みです。そのために相手の立場を思いやって簡単な仕事を任せ、責任のある大きな仕事はさせないという結果を招きます。慈悲的差別を受け続けると、配慮されたほうの人の自尊心が低下し、仕事への意欲が失われるとも言われています。悪意のあるパワハラ・セクハラと同じように多くの人材の損失を生むのです。アンコンシャスバイアスとは、無意識の偏見です。皆さん、ご自身の中に「無意識に相手に求めていること」がないか、考えてみてください。相手への配慮だと思っている何気ない一言が部下や同僚のやる気をそぎ、部署全体の生産性を低下させているかもしれません。2024年2月22日配信第185号200thAnniversaryMagazine30配慮とハラスメントは紙一重
元のページ ../index.html#32