ハラスメントにかかわる問題東京2020オリンピック・パラリンピックが終了しました。戦いを終えたメダリストが某市長の元を表敬訪問したところ、市長が金メダルをがぶり。選手が努力して獲得したものが、他人の口の中に入るという事態が起こりました。選手は笑顔で振る舞っていましたが、いったいどんな気持ちだったでしょうか。私たち相談員もハラスメント相談窓口で電話を受けているときに、何とも言えない気持ちにさせられることがあります。攻撃的なことを言われたわけではないけれど、心の中に入ってこられたような、そんな気持ちです。それは、妙に距離感が近く、親しげに、同情を誘うような口調で、相談員のプライベートなことまで聞いてくるような…。例えば、自分の部屋に勝手に他人が入ってくる場面を想像してみてください。感じ方は人それぞれかもしれませんが、自分の人格を無視されたような、侮辱されたような、支配されたような、そんな気持ちです。電話相談の場面でも、自分と他人の境界を乗り越えて心の中に入り込まれるような気持ちになる相談者に出会うことがあるのです。もちろん、相談員は訓練を受けているので心の距離を取りながら対応をしています。ですが、いわゆる一般の職場などでは心の境界に気を付けないと、ハラスメントに発展する可能性があります。例えば、ハラスメント相談では次のような訴えを耳にすることがあります。「彼は仕事のことで悩んでいたんです。ですから気晴らしに飲みに連れて行ってやったんです。そうしたらアルハラだって言われてしまって…。こんなひどい話はないと思いませんか?」おそらく、相談者としては善意の行動だったと思います。相手のことを思った利他的な動機に基づいての行動でしょう。しかし相手には、自分と他人の境界を乗り越えて心の部屋に押し入ってこられたようなプレッシャーを与えていたのかもしれません。金メダルをかじられた選手も、心の中でこんなしんどさを感じていたのではないかと心配になります。相手の心の内側を知るのは容易ではありません。笑顔で話しているのに、心の中では負担に感じていたということもあり得ます。そう考えると、私たちは人の心の境界を乗り越えないために、立場や場面を踏まえて行動をすることが求められていると言えます。特に、上司や先輩など、上に立つ立場の人は、その立場だけで発言に力が加わるものだということを自覚しましょう。職場という場面では、コンプライアンスを踏まえた行動が大前提です。逆にもしも自分が心に入り込まれているという負担を感じたら、嫌だ、不快だと感じていることを、それとなく意思表示するよう心掛けてみてください。言葉にして相手に伝えることが難しい場合は、相手よりも上の立場の人に相談してみるのも意思表示の方法です。それでも相手が気づいてくれない場合は、自分の心を守るために、物理的な距離を置く、離れることが有効な場合もあります。自分と他人との境界線を意識して、気持ちよい人間関係を作りたいものですね。2021年8月25日配信第155号200thAnniversaryMagazine28心の境界線を意識する
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