第23回CSRセミナー「海外において高まる贈収賄リスク」

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第23回 CSRセミナー
「海外において高まる贈収賄リスク」

「贈収賄をめぐる近年の動向と対応」

梅田徹氏 講師略歴
麗澤大学 企業倫理研究 センター長
梅田 徹 氏

外国公務員贈賄防止の問題の背景

 外国の公務員に賄賂を贈る利益供与が問題になったのは、1976年のロッキード事件です。この事件によって外国の公務員に賄賂を贈ることはいけないという気運がアメリカ国内でおこり、1977年に贈賄行為を禁止する法律(FCPA)が最初にできました。その当時、外国公務員に対する贈賄行為を禁止する法律を作った国はアメリカだけでした。他の国に規制がないとアメリカ企業の競争力が落ちるという声が上がり、アメリカはOECD諸国に対して同じような法律を作ることを求めました。
 その結果1997年に、「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」が採択されます。1999年の2月に発効し、現在までに39カ国が批准しています。この段階では、OECD諸国のあいだには贈賄罪に適用される刑罰、罰金額、公訴時効期間に非常に差がありました。これでは一律に規制できない、どの国も同じ規制をしないと意味がないという共通理解があり、フォローアップ措置がOECDのあいだで合意されました。
 日本国内でも、条約が発効した1999年の前年度に「不正競争防止法の改正法」が公布され、その中に外国公務員贈賄禁止規定が挿入されました。罰則規定も入り、日本の法律で初めて、外国の公務員に賄賂を渡すということが禁止されたのです。

米国「海外腐敗行為防止法」(FCPA)

 アメリカのFCPAは、「贈賄禁止条項」(司法省管轄)と「会計処理条項」(証券取引委員会管轄)、この2つが中核を成しています。従ってアメリカは、規制、摘発機関として、司法省と証券取引委員会が外国における贈賄問題に関与します。ポイントはアメリカで証券を発行している企業が対象になるということですが、「我が社はアメリカで証券を発行していないから安心だ」ということはなく、賄賂の相談や共謀の作業がアメリカ国内で行われたということで、摘発される場合もあるので注意が必要です。実際にこうした理由で摘発された日本企業があります。また、「善意の費用負担」やファシリテーション・ペイメントについては、抗弁、免責が認められると書かれています。
 FCPAの執行状況は年10数件以上。多い年には30件を超える摘発件数です。アメリカは非常に積極的に摘発しているということがおわかりいただけると思います。法律は属地主義が基本ですが、アメリカの領域外で贈賄行為をしたときにも、FCPAを根拠にして摘発する域外適用という状況もあります。
 日本企業が摘発された例として、ブリヂストン、JGC、丸紅の事件があります。どの社も贈賄スキームの相談がアメリカ国内で行われたということが摘発の根拠になっています。日本企業について言えば、日本の不正競争防止法のもとで摘発されたよりも、むしろアメリカのFCPAのもとで摘発された企業の方が多いのです。アメリカの摘発姿勢を考えますと、これからも積極的に摘発は行われていくでしょう。

英国「贈収賄法」( Bribery Act2010)

 各国の摘発状況から見て、イギリスはまだ積極的とは言えない状況にあります。しかし、イギリスは昨年あたりから注目されるようになりました。
 それは新しい法律ができたことと関係します。それ以前も20世紀のはじめにできた法律をもとに、外国公務員への贈賄行為を摘発していました。しかし、新たにグローバル化に対応するため、2010年に「贈収賄法」を制定しました。これが2011年7月から施行されています。特徴は国内の贈収賄罪も外国の贈収賄罪も1つの法律のもとで規制するということ。日本では贈収賄は刑法の中に贈賄罪、収賄罪がありますが、イギリスの場合は、贈収賄だけ1つの法律として全部独立させたところに特徴があります。
 Section6では、外国公務員の贈賄禁止が規定されています。Section7では、企業が従業員の贈賄行為を防止しなかった場合責任を問われるという規定があります。逆に言えば、企業が適切な防止措置をとっていた場合は免責されるということです。
 「善意の費用負担」については、これは確立されたビジネスのやり方である、善意の費用負担を犯罪化、刑事罰化するのはこの法律の主旨ではない、と書いてあります。善意の費用負担は処罰の対象にならないわけですが、後半部分で、それでも賄賂になりうる可能性があるとも書いてあります。もうひとつのポイントは公益性の判断です。実際に当局が摘発するべきかどうかはPublic interest「公益性」の判断によると書いてあります。
 ポイントは、アメリカ、イギリス、いずれの法律も日本の企業が摘発される可能性があるということです。日本の不正競争防止法上の摘発姿勢は非常に弱く、今までに2件しか摘発されていません。日本の不正競争防止法のことを懸念するよりも、むしろアメリカのFCPA、イギリスの法律のことを心配すべきだということになるでしょう。

東南アジアにおけるファシリテーション・ペイメントの扱い

  ファシリテーション・ペイメントは、OECDの条約の中では、規制の対象外です。これを受けアメリカのFCPAの改正では抗弁条項が追加されました。日本の不正競争防止法にはファシリテーション・ペイメントについて規定はありません。ただし、経済産業省発行「外国公務員贈賄防止指針」によると、「不正競争防止法では小額のファシリテーション・ペイメントに関する規定を置いておらず、小額であるということを理由としては処罰を免れることはできない」とあります。この状況を前提として、日本の企業がどういう対策を取っているのか、特に東南アジアでどういう状況になっているのかを調査しました。
 その結果、ファシリテーション・ペイメントの経験が「ある」ことを会社として把握しているのが約70%。「ない」と答えた企業が25%。ベトナムではそういう事実があったという回答がほとんどです。インドネシアがその次に多く、マレーシアが一番低い。現地公務員による金銭の支払いの要求が起こりやすいのは、税関または税務署、入国管理機関、労働監督局、運転免許センター等です。支払い相場のダブルスタンダードがあり、外国人と現地人とでは外国人の方がより多く請求されていました。外国公務員への贈賄行為を禁止する社内の行動規範コンプライアンスを規定している企業は多いのに、ファシリテーション・ペイメントについてのルールを持っている企業はまだまだ少ないということもわかりました。
 教訓として何を読み取るかということですが、調査をやった主体としては3つの観点が考えられます。立法政策的観点、経営的観点、社会経済的観点です。立法政策的にはFCPAにあるように例外規定を設けることが支持される、そういうひとつの証拠になる。経営的、企業経営的には、進出企業は自国の法規制を認識すべきですし、また、認識している企業については、ファシリテーション・ペイメントについて何らかの対策を講じるべきです。社会経済的な観点としては、ファシリテーション・ペイメントは、現地途上国社会の腐敗の一側面であり、これは外国人のビジネスマンだけが求められるのではなく、警察官に止められて払ったり、免許センターに行って少し包んで渡したりといったことは現地の人たちも行っているのです。つまり、現地の途上国社会の腐敗そのものをなくしていかないとならず、外国公務員贈賄防止の規制だけでなくなるものではないということです。

途上国の腐敗状況の見通し

 最後に国の腐敗の問題。ひとつの枠組みとして「国連の腐敗防止条約」という条約があります。UNCAC(アンカック)といいます。国連の腐敗防止条約が2003年採択、2005年発効。2006年には日本の国会批准承認案を可決しました。ですが、日本は批准していません。なぜ批准しないのでしょうか。「犯罪の国際化および組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」の中に共謀罪が入っているため、共謀罪に対する反対があり、この法律案が通らないのです。既に150カ国以上が批准し、条約にもとづいて外国公務員贈賄防止法ができました。腐敗防止条約はいろいろな国に受け入れられ、評価されていますが、先進国では日本とドイツが未批准です。
 この条約ができて、今後どう変わっていくのでしょうか。OECD条約については、フォローアップという手続きがありました。このようなシステムは腐敗防止条約においてもどうしても必要だということで合意されました。2010年にレビューメカニズムが合意されたのです。しかし実効的なものとはほど遠いのが現状です。
 長期的には腐敗との闘いは強化され、それぞれの途上国のガバナンスも少しずつ強化されていくと思います。しかしOECD条約のようにいっぺんに強化されるわけではないということです。日本企業としては明らかな贈賄行為、多額の贈賄は明白に禁止する措置を徹底させなければいけません。なぜかというと、現地の法律と日本の法律で二重に摘発される危険性があるからです。ファシリテーション・ペイメントも少なくする努力はそれぞれの企業でやるべきです。どうしても抵抗できない、払わざるをえなかった場合は、それなりの理由付けと記録を残しておくことが大事です。ぜひともファシリテーション・ペイメントについての扱いについては検討いただきたいということです。

 以上で、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。