第20回CSRセミナー「職場におけるハラスメント防止に向けて」

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第20回 ダイヤル・サービス CSRオープンセミナー
「危機管理の観点からのハラスメント防止対策」
〜増え続けるハラスメントへの具体的な対応〜

「職場におけるハラスメント防止に向けて」

セクシュアル・ハラスメントとパワー・ハラスメントの現状と対策

山田 秀雄氏 講師略歴
山田・尾崎法律事務所
代表弁護士 山田 秀雄氏

近時のハラスメント事件の特徴

 職場におけるハラスメントといえば、以前はセクシャル・ハラスメントが中心でしたが、現在はパワー・ハラスメントの問題が増えてきました。パワハラとそれに関連するメンタルヘルスの問題は、今、どこの企業もシリアスな問題として抱えています。
 実は、パワハラの問題はセクハラ問題よりも難しいと感じています。それはセクハラ問題で発生する性的な言動は「業務」であることはまずないのですが、パワハラの場合は業務命令であったり、仕事を一生懸命やったりする過程で発生してしまう、ということがあり、どこで線引きするかは難しい問題です。自分がやってきたことと同じやり方で部下を熱血指導する上司がパワハラで訴えられるというケースが非常に多くなっています。

職場におけるパワー・ハラスメントの対応

 では、企業としてどう対応したらいいのか、正直なところ私もまだ明確な解答があるわけではありません。ですが現象としてパワハラによる訴訟問題は会社にとってリスクマネジメントの問題になってきていますので、対応しないわけにはまいりません。部下の指導について、自分がされたこと、してきたことと同じようなやり方をすれば必ず問題が起きてきます。新聞等に載るようなパワハラの事例は、労災の適用があるかどうかを問うような自殺に至ったひどいケースですが、実際の相談例は、裁判まではいかないようなケースがほとんどです。「パワハラを受けたので配置転換をしてほしい」とか、「この上司を懲戒免職にしてほしい」といった相談があった時にどう対応したらよいか、という相談が今、大変多くなっています。暴力を振るうようなケースであれば明白なのですが、「厳しい指導をされたことが自分の中でトラウマになり、就業に耐えられなくなった。これはパワハラではないか。診断書もある」という場合に、会社としてそれにどう対応したらよいか、と相談を受けても、「これはパワハラです」と簡単には言えません。リスクマネジメントという点から言えば、裁判にまで発展する前に、企業として何らかの対応を取ることが重要だと考えてよいと思います。
 2010年に人事院が初めて「パワー・ハラスメントを起こさないために注意すべき言動例」という通達を出しました。公務員という日本で最も就業者が多い公務役場でパワハラについて注意すべき言動例が具体的に示されたということは、次は法制化もありうるというステップとして考えてよいと思います。人事院がこういう問題に取り組みだしたということは、パワハラの問題はこれから企業法務の中の一分野として重要な位置づけを持ようになるだろうということです。

職場におけるセクシャル・ハラスメントの対応

 1992年の福岡のセクハラ判決は、日本のセクハラのリーディングケースと言われています。画期的なのはセクハラを正面から認めたこと、それ以上に企業責任を認めたことです。その後に起こったセクハラ訴訟の多くは、加害者男性だけではなく企業や大学、官庁も一緒に訴えられるというケースが増えています。
 従来の強制わいせつ型から最近増えているのは、疑似恋愛型セクハラ、あるいはプチセクハラというようなケースです。こういうケースでも会社も訴えられることが非常に増えています。2006年北米トヨタ社のセクハラ事件では、社長および会社に対する責任追及があり、社長の辞任と約215億円の訴訟請求がなされました。リスクマネジメントの観点から見たときに、どこに失敗があったかと言えば会社の初期対応が悪かったということです。ハラスメント対策の要諦のひとつに、公正、迅速、公平があります。公正、公平とは、その行為を見て判断するということです。ところがどこの企業でも陥りがちなのは行為者主義になってしまうことです。有能で実績があったり、会社の社長であったりすると、行為者を守ろうとする傾向があります。そのために非常にゆるやかな処分となり、その極端な例が北米トヨタ社のケースです。

   セクハラには法的側面と、会社の就業規則上において懲戒対象となりうるかどうかという二つの側面があります。法的にはセーフであっても、懲戒対象としてはアウトになるダブルスタンダードがあるということです。予防対策としては、何といってもトップと管理職が意識改革をすることです。社内の実態調査をし、プチセクハラなどはコミュニケーションギャップが原因で発生していることも多いので、社内でいろいろな事例をディスカッションするとよい場合もあります。さらにセミナー、DVDによる啓発、セクハラ相談室、ホットライン、禁止規定の設置です。こういった予防対策は事後的な対策よりも重要です。転ばぬ先の杖を持つ方が、起きてしまってから対応するよりもメリットは大きいのです。

ハラスメント対策のポイント

 いずれのハラスメント問題でも重要なことは、相手方の意に反して何らかの一定の行為をさせるという職場の環境問題であるいうことです。また、個人の人格を傷つける問題であると同時に、企業の危険管理、リスクマネジメントの問題として位置づけなければいけません。ハラスメントをなくすような危険管理の発想を持たないと、企業責任が問われますから注意してください。経済的損失は非常に大きいです。さらにセクハラの問題で言うと、女性のやる気やモラルダウンということも指摘されています。結果として生産性にも影響します。被害者、加害者が会社を辞めてしまうというケースも多く、うつ病や家庭不和の原因になるケースは男性に多いです。ハラスメントを認識したら、話し合いで解決するためには初期対応時に迅速かつ誠実に謝罪をしなければいけません。それが最大のリスクマネジメントです。

ハラスメント対策の基本姿勢と考え方

 基本姿勢の中で一番重要なことは、ものの感じ方、受け止め方には個人差があり、その個人差をどう評価する物差しを持つかということです。人の多様性をマネジメントしていく「ダイバーシティマネジメント」という考え方が、今重要なキーワードになっています。不快に感じるか否かには、個人差があります。ハギングしてもそれが全然嫌ではない人もいれば、鳥肌が立つ人もいるかもしれない、それを一律にルール化することはできません。
 サッカーの審判とオブストラクション、ファウルについて話したことがあります。審判は広いフィールドでファウルかどうかの判断をどうやっているのかという問いに、「遠くから見ているので、速いスピードで走っている選手がファウルをしたかどうかはわからないことが多い。でも危険そうな時はとりあえず笛を吹き、それからイエローかレッドか何もつかないか考える」と答えたのです。その話を聞いて、これはセクハラと同じかもしれないと思いました。男と女の問題で合意があったかどうかといった問題は、外側からの証拠で調べるのは大変なことです。ですが危険そうな行為にはとりあえず笛吹き、行為がよりリスキーであったら、イエローになったり、レッドになったりするということです。

ハラスメント発生時の対策

 先ほど申したように初期対応が非常に重要です。初期対応のポイントは、公平、公正、迅速。この迅速という点を日本人は忘れがちです。対応を遅らせて問題を風化させようとすることも一種の隠蔽ととられます。証拠も記憶も鮮明なうちに結論を出さないと、遅きに失したと言われるでしょう。そして丁寧にヒヤリングすることです。但し、判断は難しいので判断者にはならないことです。特に双方の言い分が食い違う場合、ハラスメントの専門家でない方たちが判断しようとすると、有能な人材を守ろうとする弊に陥りやすいので要注意です。そういう時は専門家と連携しましょう。そうすることで企業としてやるべきことはやったという証拠を残すことが重要です。つまり「企業としては労働環境調整義務を尽くし、専門家にも相談し、その意見書に基づいて判断しました」と言えば、使用者責任は問われないのです。
 日本の企業がここまで成長してこられたのは、厳しい指導、指揮のもとに一定の成果を上げてきたからという点は否定できません。それを全否定してしまうようなハラスメントの理屈というのは、委縮効果しかありませんから、私はあまり賛成できません。ですが、本当にひどいパワハラ、セクハラというのはやはり駆逐するべきですし、ともすると住み分けをきっちりしていく時期、時代に入ってきているのではないかと思います。