第16回CSRセミナー「内部統制時代の海外子会社マネジメントとリスク管理」

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第16回 ダイヤル・サービス CSRオープンセミナー
「内部統制時代の海外子会社マネジメントとリスク管理」

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今日はリスクマネジメントと内部監査、経営の現地化についてお話しします。
内部統制や内部監査ということで言えば、ポイントは3つ。1つは内部統制も2年目、3年目に入ると「魂を入れる」かどうかというあたりがポイントになっ ているのではないでしょうか。日系企業に共通する点は「形だけ」ということ。この点をどう考えていくかでしょう。次に内部統制に企業ごとの個性やキャラク ターがだいぶ出てきたということ。3つ目は、米国流とか欧米流を焼きなおした内部統制・企業管理のやり方をしている企業については、日本の会社としてのア レンジをどうするのか、そのあたりが今問われていると考えます。

講師略歴
新日本有限責任監査法人 監査第一部 公認会計士 秋元宏樹氏

海外・新興国におけるリスクとは

 最近「不正」というものが、トピックになってきていますが、不正とかエラーが生じる環境を放置しておくのはどういうことでしょう? 日系企業に一番多いのは、コスト削減と性善説で、リスクを放置していること。本当にそれでいいのでしょうか? 一番大事なのは、企業理念です。強力な企業 理念の存在。末端までの浸透。最終的にはここなのかなという気がします。
最大のリスクは何ですか?と言われれば、企業が存続できないリスク、要は倒産するということです。それを一番高いリスクと考えて話を進めていきます。

リスクにも程度があり、比較的緩やかなのがコンプライアンスとかレピュテーション。一方、背任とか横領とか贈収賄、虚偽記載などの不正は、非常にリスクの高い項目になります。不正の分類をざっとご紹介します。
① 不正支出 ②ラーセニー・スキミング ③消耗品や固定資産の流用、横流しなど ④棚卸資産の流用、横流し ⑤汚職・不正報告

不正のトライアングルとは、「動機・プレッシャー」、「機会」、「正当化」の3つから構成されています。
「動機、プレッシャー」とは、売り上げの目標が厳しいとか、借金を抱えているということが動機になります。
「機会」は、コミュニケーション不足。日系企業には機会がかなり多いようです。内部管理が不十分、もたれあい、特定利害関係人と関係を温存しているケー ス。日系企業に特有なのは、その機会を放置しているということ。物を盗んでいってくださいといわんがごとき状況を放置しているのは日系企業に多く、特に新 興国の現地法人に共通する状況です。
「正当化」とは、「なんとかなりますよ」、「管理しないあなたが悪い」、「なんで前任者が処罰されないで私だけ処罰されるのか」などと、現地法人の方が自己主張をしたり言いわけをしたりします。

中国、東南アジアでは「この国では普通のことだ」と強く主張されることもよくあります。不正の摘発は必要なことではありますが、摘発の仕方や処分の仕 方、公平性を考えないと、かえって問題を悪化させることにもなりかねません。日系企業では、「前任者からの申し送り事項」、「私はやりたくないが、前任者 がやれと言ったからやった」、「監査もパスしているから問題ない」などという釈明もよく耳にします。

いわゆるポカ、軽いエラー、軽い不正みたいなものから違法行為まで、不正やエラーには幅があり、それに対応する会社の処分にも幅があります。不正支出と か備品横領も確かに不正ではありますが、経営者による横領とか不法行為の方がもっと大きいという認識をする必要があります。この経営管理者の不正と組織ぐ るみの不正は、内部通報や外部通報で発覚するケースが多く、内部監査ではなかなか指摘されにくい性格があります。

結局、人にまつわるリスクであり、利益目標のプレッシャーなどがエラーを生み出す温床となるケースがあります。横流しが発覚して懲戒免職されるのであれ ば誰もしませんが、新興国では備品や在庫の横流はそれほど珍しいことではなく、日本に比べれば発覚することも少ないために、リスクが相対的に高いというこ とは頭に入れておく必要があるでしょう。

海外子会社とのコミュニケーション

最近よくあるのは、製造現場の製造指導員として、工場のワーカーさんを新興国に派遣するということ。おばちゃんであることもあります。おばちゃんですから 当然言葉は通じないのですが、その熱意とバイタリティによって意思そのものはほぼ完ぺきに伝わっています。製造のセオリー、手順、品質管理というコアな部 分など、伝えたいことは全て伝わっているのはなぜかといえば、コミュニケーションは目的ではなくて手段であるからです。このことから、きっちりと意思を伝 えることさえできれば、経営なり業務管理というのは可能であるということがいえるのではないでしょうか。

現地法人の社長さんは日本から駐在で行っているケースが多いのですが、その人の人間性にかかっているのです。その方が信頼できなければ、情報はあがってこないでしょうし、その方がコミュニケーションをうまくできなければ、不正やリスク管理はうまくいかないでしょう。
内部通報制度を利用すれば、社長さんを飛ばして本社に情報があがってくることにはなりますが、それが現地の人間関係やコミュニケーションにおいてベストであるのかは別であるように思います。

コミュニケーション技術というのは年々向上している一方で、対面的なコミュニケーションは逆に非常に減少しています。これは国内も国外も一緒です。出張 の削減、飲みニケーションの減少もあり、対面的なコミュニケーションがうまくいかなくなってきているという現実があります。
ひとつは、日本人の中で世代ごとに壁ができていること。アラフィフとかアラ還の世代の方は過去の体験にこだわり、一方20代は、空気を読むのが非常に苦手。その中で海外、新興国に出た場合、日本流が通用しますかと言ったら、まず通用しないでしょう。
もうひとつ、コミュニケーション能力が落ちてしまっているという現実があります。日本語ですら意思がうまく通じず、その上日本流のコミュニケーションは 非常にあいまいです。日本の中でのコミュニケーションも問題になっていて、外に行っても通用しないという状況にある中で、海外子会社を管理するとなると、 もうほとんど異種格闘技に近いものがあるということが言えるのではないでしょうか。

管理職にネガティブな情報があがってくるかどうか。このあたりは信頼性や人間性に比例してきますから、ネガティブな情報が上がってこない管理職はリス キーであるといえます。経営がうまくいっているから上がってこないケースもありますが、信頼できないからネガティブ情報はあげないケースも結構あります。

一方、直訴、密告、内部通告などの形で、経営者や現地の管理職に突然あがってくるケースがあり、その場合の危機管理的な対応が鍵を握っています。ただこ れは非常に難易度が高く、しかるべき部門に連絡が行けばまだいい方で、現地社長の独断で対処した場合に、その対応の仕方を間違ってしまうと現地法人に混乱 を招くことにもなりかねません。このあたりの対応はマニュアル的なものも含めて準備しておく必要があると思います。

海外子会社で問題が起こる環境

①管理者の素質 公私混同型とか破滅型というタイプは減ってきたが、一昔前はこの2つは結構多く、新興国ではまだ多い。

②計画管理・情報管理 過大な目標のプレッシャーが、不正や経営管理の問題の背景になりうる。未達成の場合の原因分析がないケースもよくあるので、管理方法を統一し、フォローする必要がある。

③親会社の問題 親会社に人がおらず現地を放任。決算報告や内部統制、コンプライアンスは増えてきているので、現地法人側では手が回らない状況にもかかわらずサポートがない。第一線級の人材をアジア地域、新興国に投入していない。タフな人間でないと対応できない。

④権限と能力 現地担当者が何も知らされていないケース。阻害されていることもある。意思決定は日本人が勝手に決めたことだから、という空気ができてしまっているケースもある。

⑤現地担当者の実務の能力 現地の担当者、中国人、東南アジアの実務担当者の能力が高くないと、親会社の要求する水準に応えられない。

⑥コンプライアンス、法令遵守の意識 これがない人を雇ってしまうと後々問題になる。ローカルルールで管理されて修正がきかなくなるということが出てくる。

海外子会社の管理感度

裸の王様にならないためには、なにか秘策があるわけではなくて、オーソドックスな基本的なことをまずやるということです。特に新興国マネジメントでいえることは、朝令暮改は構わないということ。情報は取りに行くことです。

マメジメント体制はヒトとカネがあるところと、ヒトとカネのないところに二極化しています。海外、特に新興国まで行ってしまうと、二極化の状況が顕著に 出てしまいます。内部統制、内部管理以前の問題として、せめて取締役会ぐらいは開催してくださいなどというケースもあります。そのような企業は、決して性 善説的な経営方針を掲げているわけではなく、その逆の経営方針を掲げているケースが意外と多いようです。コストの削減とか報告には熱心なのですが、官僚的 で、言われたことしかやらない文化がある場合は、リスクが高いといえるでしょう。

また、新興国ならではのありえないリスクを想定していないこともよく見かけます。このありえない、というのは親会社サイド、日本、欧米で管理をする方から想像すると、こんなリスクって普通は生じないだろう、というようなリスクのことです。
文化、慣習、言語、治安などに言えますが、新興国ではオフィスの机の上に置いてあるものが昼休みのうちになくなるなんてことは、よくあること。認識の甘さは命取りになりかねません。

さらに、言葉が通じることと、意思が通じることは別だということ。メールを送った、通達を出した、だからわかってるでしょうとは言い切れません。現場の末端レベルまで伝えるには、やはり意思と熱意、忍耐力、根性が非常に必要です。

日系企業に最近増えてきて心配なのは、マネジメントが引きこもりとか、お客様マネジメントであること。駐在員は2年とか3年で本社に戻ってしまうわけですから、付き合う価値がないと評価されてしまうと、現地の人に適当にあしらわれてしまうことがあります。
また、引きこもりは若い世代に増えてきています。外国人とのコミュニケーションの違い、言葉ができないからコミュニケーションできないという方もいらっしゃるようなので、このあたりの対応というのが必要かと思います。

現地の事情をまったく考慮せず、大会社で一律に企業をグループ管理して、現地の特殊性、実情を考慮していないこともよくあります。現地の法律、慣習に適合してないルールや制度を設けても、運用されないので適宜アレンジする必要があると思います。
新興国によくあるのは、現地ではそんなに高いレベルの管理を必要としていない、日本ではコンプライアンスといわれていても現地ではそこまでやらなくてもいいというケースです。そのような場合は最初から思い切って割愛する親会社の対応が必要なのではないでしょうか。

最後は、言語対応が不十分なことがあげられます。日本人が現地語を使えるというのがベストではありますが、管理の仕組みは現地語または英語のレベルまで 落としこんであげないといけません。日本語で通達を出したから大丈夫というのは、今の時代なかなか難しいでしょう。真面目にやればやるほど情報は上がって きますし、現地語が話せればいろいろと情報が入ってきますが、知った方が幸せなのかといえば、それはそれで複雑な問題でもあります。ハイレベルな悩みでは ありますが、知れば知っただけの責任が問われるということになるからです。

最初にもご説明しましたが、マニュアルに魂が全く入ってない、コピーしたり、言いなりで作ったり、とりあえず何かないと困るからと作成したものの、そのあとマニュアルを誰も見ていないというケースが結構あります。
これらの問題に対処するためには、業務の棚卸し、文書化の必要があります。内部統制をとにかく導入しないといけないという流れの中で、業務の棚卸しが充分できてない会社は結構あります。

現地法規との整合性とか、グループ規程との整合性を求められていると思います。グループ規程にそぐわない規程を作るというのは、今の連結のマネジメントではよくないこととされていますので、この辺を現地側で出来るかどうかも重要でしょう。
そうすると管理手続きのビルトインを考えますが、ERPを導入した場合これが自動的に入ってしまいますから、そういう意味で内部管理を充実させるためにERPを入れる、情報システムを入れ替えるというのは一つの解決策ではあると思います。
定期的な業務のローテーション、外部との定期的な取引の照合、現物確認も必要です。支払い関係の相見積もりもなど、基本的なことをどこまで自動化して織り込めるかというのがポイントではないでしょうか。
内部統制は、導入のところでも現地側でやらなければいけない作業が出てきます。日系企業は外部コストを抑制する傾向が高いため、現地の管理職がノウハウ を蓄積して残ってくれないと、現地で内部統制を構築してもあまり意味のあることとは思えません。現地にどこまで任せられるか、しくみ作り、研修のやり方等 を考えないといけません。

1番大事なことは目標です。どこまでやったらいいのか。2番目に、何をやるべきかを明示すること。ポイントは業務手続の改善です。明文化されていない手 続きの文書化、ローカルルールの廃止を検証していく必要があるでしょう。また、資料の保存状況をきっちりしていく必要があるという気がします。

また、今までは経営の現地化ということが言われていましたが、これからは内部統制の評価とか、内部監査の現地化です。現状はいわゆるメガコングロマリットといわれる企業ぐらいしか達成できていませんが、将来的には内部監査の現地化をしていかなければいけません。

不正防止のチェックリストとして、一般的な項目をいくつかピックアップしましたが、一般的な日系企業でなかなか及第点が取れないのは、内部監査部門のモニタリングや内部通報制度の整備です。
発見のチェックリストでは、内部監査部門のモニタリングに重点が置かれますが、特にポイントとなってくるのが統合監査です。不正、統制逸脱のパターンを 熟知する必要もあるでしょう。また、内部通報制度の効果的な運用が必要。多言語対応と常時アクセスの可能性が求められています。不正発覚は通報と、内部監 査、これで7割を占めると言われており、半数以上が通報で発覚しています。残念ながら、監査よりも通報という現実があるため、内部通報と外部通報を重要な 手段として位置づける必要があります。

もう1つ、コンピューター関係の話でERPやモニタリングのシステムを導入した場合、データ分析やメールシステムなど社内の情報システムでモニタリング が可能となるため、不正の機会は減ってくると思います。ただシステムを導入するための予算を取れるかが難しいところかと思います。

最後に私が申し上げたいのは次の2点です。
不正やエラーは、内部統制の運用で多くは抑制可能だと言われています。モニタリングや教育、内部制度、通報制度を整備して運用していただくだけで効果は変わってきます。
もう一つ、退職時の業務継続において業務と統制を棚卸しすること。これが1番簡単なやり方です。
以上、駆け足でまとめさせていただきました。