第2回メンタルヘルスセミナー「メンタルヘルスと事業者責任」

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第2回 ダイヤル・サービス メンタルヘルス オープンセミナー 「メンタルヘルスと事業主責任」
~社会保険労務士・税理士 営業支援セミナー~

「メンタルヘルスと事業者責任」

~社会保険労務士・税理士 営業支援セミナー~

講師略歴 大阪ガス株式会社 人事部健康開発センター 統括産業医 岡田邦夫先生

心身の病の増加と企業の対応

 企業は従業員のメンタルヘルスにどのような対応をしているのでしょうか。最近、企業から「心身の不調で3ヵ月も休んでいる従業員がいる。解雇はできないし、会社として困っている」というような相談が寄せられます。しかし、基本的には「予防」しか企業の対応策はなく、労働契約法により、なかなか解雇もできません。もし解雇して訴訟が起こり、解雇無効の判決がでれば、それまでの給料を支払わなければなりません。企業はそのことに気づかず、対応や準備もしていないというのが実情なのです。

 従業員の健康問題として、もうひとつあげられるのが「働き過ぎ」によるものです。長時間労働や過重労働によって亡くなる人が増え、これが労災として認定されます。そうなれば企業は責任を負わなければなりません。

企業が支払う賠償額

 問題なのは、裁判となった場合です。大阪の中小企業のケースでは、ある従業員が12日間で61時間過重労働をして、小脳出血で倒れました。裁判では将来の介護費用を含め「2億円払いなさい」という判決がでたのです。中小企業にとって大変な金額です。もともと本人に先天的な脳動静脈奇形があったのですが、裁判所は、先天性の病気などが予見できなくても、過重労働に問題がある。よってその結果生じたものは、すべて作業関連疾患である、という主旨の判決を下しました。つまり、企業側が長時間労働に何ら措置も講じなかったことに非があるというわけです。当然、その責任は企業、つまり指揮命令を持った者にかかってきます。

 そうなると、キーパーソンとなるのが中間管理職です。企業が「中間管理職が従業員に命じたからだ」と主張すれば、基本的には企業とその中間管理職で責任を折半することにもなりかねません。従業員が自殺した広告会社のケースでは、会社と課長が長時間労働において不法行為責任を問われました。だからといって、控訴や上告することが企業にとってよいとはいえません。裁判が長期化すれば弁護士費用や、敗訴した場合は相手の弁護士の費用をふくめて多額の賠償金が請求されるからです。

 心身の不調は、身体の病気が最初に起こることが多く、その後メンタルの不調が続きます。今後メンタルヘルス不調の訴えに、多額な賠償額が裁定されることは間違いないでしょう。従業員の心の病気に事業主が責任をとらなければならない時代になったのです。

メンタルヘルスにかかわる労災補償の増加

 メンタルヘルスに関わる労災の認定件数は大きく増え、過去最高になりました。精神障害については、269件が認定され、自殺もしくは自殺未遂も45件から66件と増加しています。アメリカのDSM(米国診断基準)によれば、約15人に1人がうつ病を経験しているという発表もされています。

 こういった世情を背景に、従業員の心身問題をトータルにコーディネイトできる人材が、中小企業のオーナーを中心に求められています。「ある社員がずっと休んでいるのだが、どうしたらいいか」「心の病気だと、何ヵ月ぐらい休むのだろうか」「6ヵ月も休まれたら、会社はどうしようもない」というような事業主からの相談に応じるためです。そうなると、中小企業のメンタルヘルスのキーパーソンは今後、社会保険労務士が中心になっていくと思われます。

事業主が負う健康管理責任

 なぜ事業主が従業員の健康管理をしなくてはならないでしょうか。それは何か問題があれば法的な罰則が事業主に課せられるからです。労働局は司法警察権を持っています。つまり事業主に対し、賃金不払いや健康管理などに問題があったら逮捕できるということです。

 労働安全衛生法には「自分の部下がどんな健康状態であるかを知り、その健康状態に応じて作業を命じなければいけない」を主旨とする条文があります。また部下の健康状態を知るために、「健康診断を行わなければならない」と文言があり、それを怠れば50万以下の罰金刑が定められています。「病者の就業禁止規定」では、明らかに病気であることを知っていながら働かせた場合、命じた者に懲役6ヵ月、その使用者に対して50万以下の罰金という「両罰規定」を定めています。

 しかし労働者と事業主が良い関係にあれば、そういうことはまず起こりません。十分なコミュニケーションをとっている会社は、メンタルヘルスの不調も起こらないし、訴訟も起こらないからです。

企業に必要なのは従業員の健康づくり

 ライフスタイルによって起こる病気は、生活習慣病であり、事業者に責任はありません。しかし、生活習慣病を有する従業員が急に合併症を発症したため、高い場所で窓を拭いている時に転落死しなど、会社が安全対策をとっていなかったら、つまり就業上の措置を講じていなければ労災ならびに民事訴訟における賠償責任が追求されることになります。

 国際労働機関(ILO)では、作業条件や作業環境の状態によって、発症率が高まったり、悪化したりする疾患を「作業関連疾患」と定義しています。たとえば、従業員が脳出血を起こし、前月に80時間以上の時間外労働があれば、過重労働ないし長時間労働が原因とみなされる可能性が極めて高いと言えるのです。

 従業員の健康づくりは、企業にとって大切です。日頃からストレスや不調を感じている社員がうつ病になった場合、過重労働などがあれば業務が原因とみなされます。そのために従業員の健康管理には気をつけ、風通しの良い職場環境を作ることが大切です。

事業主の安全配慮義務

「事業者は従業員の心身の健康が業務によって害されないように守る義務がある」というのが、「安全配慮義務」の基本的な考え方です。そのためには「働く人たちの周囲にある危険を予知する」、「予知した危険が生じないように事前に対策を実施する」という2つを行わなければなりません。たとえば、従業員が月100時間を超える残業を3ヵ月以上続けていれば、危険な状態です。それを事業主が何もしなかった場合、「予知していたにも拘らず、それを回避するための安全配慮義務を果たさなかった」ことになってしまいます。

 また、部下から「風邪をひいて熱が39度5分ありますが、やらなければならない仕事があります」と言われ、そのまま働かせたらどうなるでしょう。ほっておけば脱水によって心臓などに負担がかかり、死にいたる場合もあります。「社会通念上、そのような状態の社員を働かせるのは、社会通念を逸脱した指揮命令である」と言われたら、会社側に責任が問われます。まずは仕事をさせず、医師の判断にまかせることが先決です。実際、福岡高裁では、「法律を遵守したからといって、安全配慮義務を尽くしたことにはならない」という主旨の判決が下りています。

 心身に病気がある従業員には、労働時間や休憩時間等に対する配慮が必要です。過重労働をさせてはいけません。事業者には「労働者の健康状態を把握管理する義務」、心身の状態に応じて残業を禁じたり、深夜義務を禁じたりする「適正労働配置義務」があるのです。

うつ病や自殺などにたいして、企業が問われる予見性

 睡眠時間が5、6時間を割ると、脳卒中や心筋梗塞が起こりやすくなります。それにともない、行政は法律を改正し、通達などによって企業にその対策を求めた結果、企業は「過重労働対策」を始めました。しかし最近では、メンタルヘルスにも支障をきたすことが明らかになりました。企業では残業が100時間を越えると、医師による面接指導が義務になっています。50人未満の事業所も同様です。

 軽症のうつ病の場合、休むことや就業を制限することが大切です。1ヵ月ぐらい勤務を制限すればたいていは良くなりますが、悪くなると3ヵ月以上休まなければなりません。会社としても大きな痛手になりますから、予防が大事なのです。

 自殺するケースでは、あとから「いつも元気だったので、部下が自殺するとは思わなかった」と言っても裁判では通用しません。上司が、自殺した部下の心身状態の悪化を認識しているいないにかかわらず、その予見性が問われるのです。

うつ病をチェックする

 以下は、うつが疑われるときのチェック項目です。項目1または2のどちらか1つを含み、合計5つ以上の症状があれば、明らかにうつ病といえます。もし、うつの疑いがあるなら、そのまま放置せずに専門機関を紹介してください。

1. この2週間、いつもゆううつな感じがしたり、気持ちが沈んだりしている。
2. この2週間、いろいろなことに興味がなくなったり、楽しめなくなったりしている。
3. 食欲が減少、または増加した。意図しないのに体重が減少、または増加した。
4. 話し方や動作が緩慢になり、イライラして、落ち着きがなく、静かに座っていられない。
5. 毎晩、寝つきが悪かったり、夜中や早朝に目が覚めたり、逆に遅くまで寝ている。
6. いつも疲れを感じたり、気力がないと感じたりする。
7. いつも自分に価値がないと感じたり、また罪の意識を感じたりする。
8. いつも、集中できなかったり、すぐに決断できなかったりする。
9. 自分を傷つけたり、自殺や死んでいればよかったと繰り返し考える。

復職後の対応がうつ病を悪化させたケース

復職については、「通常の仕事ができなくても、2~3ヵ月で復帰可能なら復職準備期間を提供し、教育的措置をとることが信義則上求められる」という判決がでています。

 うつ病で休んでいた中学校の先生が復職し、校長命令で職場を異動したため病気が悪化したと訴えたケースがありました。裁判官は「校長は、うつ病について判断できる立場ではなく、不法行為にあたる。慰謝料を払いなさい」という主旨の判決を出しました。本来なら異動権は上司が持ち、部下を異動させることは可能です。しかし、このような場合、病気が悪化するかどうかを主治医や産業医の先生に聞かなければなりません。

人に合わせて仕事を調整することが、うつ予防になる

 要は「仕事」と「人」の関係をどう見るかです。人を仕事に合わせるのではなく、人に合わせて、環境などを調整することが重要になります。もちろん完璧にはできないでしょうが、どこまで踏み込んでやれるのか、あとはコミュニケーションの問題です。「会社は私のためにここまでやってくれる」と信頼されることが大事なのです。それが欠けるから訴訟に発展するのです。

 たとえばタクシー会社のケースでは、ある従業員が「タバコで気管支炎を起こすから、禁煙車を作ってくれ」と言いました。会社側はすぐに用意はできないので、とりえず職場を全面禁煙にし、それから禁煙車の準備を整えました。その後、従業員は「煙草の煙がダメなのに、会社は改善してくれなかった」と訴えたのです。しかし裁判官は「職場を禁煙にして短期間のうちに禁煙車を導入したので落ち度はない」という主旨の判決を出しました。

 一方、江戸川区のケースでは、「区長が職場を禁煙にしないので、健康を害した」という訴えに関して、慰謝料5万円を命じています。これからもわかるように、すぐに対応できなくても、どこまでできるのかを本人と十分に話し合い、会社の姿勢をはっきり示すことが大事なのです。

 裁判に勝った例や負けた例を見ますと、日頃から企業における環境管理や作業管理、健康管理などをきちんと行うことが大切だといえるでしょう。