第1回メンタルヘルスセミナー「ストレスは、一日決算主義で解消を」

セミナーのご案内

> > セミナー詳細

第1回 ダイヤル・サービス メンタルヘルス オープンセミナー
「ストレスは、一日決算主義で解消を」

「ストレスは、一日決算主義で解消を」

横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長 山本晴義氏 講師略歴
横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長 山本晴義氏

働く人のメンタルヘルスとは

 今まさに職場のメンタルヘルス対策が叫ばれています。私は心療内科医で、300人くらいの患者さんを診ています。ストレスがたまっている状況で仕事をすれば生産性が落ちます。人間関係も悪くなります。クライアントに対する愛想も悪くなります。

 できる人ほどうつになる。これは事実です。しかし働く人のメンタルヘルスはうつ病にならなければいいということではありません。「俺、生きていていいんだ」「俺、仕事していていいんだ。回りの人に役に立っているんだ」という気持ちが持てることです。

 メンタルヘルス対策は、病気になった人に対して行うのではなく、全ての従業員に対する健康づくりと考える必要があります。
 過去のことを聞いて今の具合の悪さを推測するのが、臨床の中の診断というプロセスです。過去のことを知るのも大切なのですが、メンタルヘルス活動では、あえて過去のことは聞かず、今とこれからの健康づくりに目を向けましょう。そういう生き方が大切です。勤労者メンタルヘルスセンターのセンター長として、 6000万の日本の労働者、そしてその家族をふくめた1億2千万の国民に健康について伝えたいと考えています。

もとめられているラインによるケア

 2000年には厚生労働省によって、「事業場における労働者の心の健康保持増進のための指針」が策定され、その中で「4つのケア」という考え方が出されました。「個人のセルフケア、自己管理だけでなく、管理監督者が部下のメンタルケアをしなさい」とラインによるケアがもとめられています。つまり企業として、事業所として、従業員の健康管理は身体と心の両面だという姿勢を持ってくださいということです。ただし事業所は医療機関ではないので、外部の機関、地域の医療機関、たとえばわれわれ労災病院やダイヤル・サービス(株)の電話相談など外部の機関を活用して働く人のメンタルケアをすることが必要なのです。現在では、リスクマネージメントとして、メンタルヘルスが語られる時代になっています。

 倒れたら元気になるまで1年間でも面倒みますと、療養を保障する福利厚生が整っている企業がいい企業ではありません。予防が大切なのです。

 そのためには、「日頃から、部下の一人ひとりの健康状態を温かい目で見守り、日常の状態と変化に早く気づくことが第一」。これが基本です。この文章の中に、キーワードが2つあります。「日頃から」と「温かい目」です。温かい目で部下を見ることは、上司にとってのメンタルヘルスにもなります。みんなのおかげで自分は上司として仕事ができる、幸せだと思える上司になってください。職場でもフェイスツーフェイスのコミュニケーションが大切です。部下の目を見て、顔も見て、語っていると、日常の状態と変化に早く気づきます。部下の変化に気づいたら、声をかけて、じっくり話を聴いてあげることがとても大切です。

うつ病の症状に気づくために

 日本では年間3万人以上の自殺者があり、働き盛りの人の自殺が深刻です。現在の世界不況の中で、自殺者は今後さらに増える可能性もあります。厚生労働省では、自殺予防10か条を出しています。

 つ病の予防が、やはり自殺を防ぐひとつの大きなポイントになります。うつ病の症状は、気分が沈む、自分を責める、仕事の能率が落ちる、決断ができない、不眠が続くなどです。たとえば上司に怒られた、クライアントからクレームがきたことなどによっても、このような症状が起こることもあります。このような症状が2、3週間続いたら、努力が足りない、根性がないなどと思わず、病気という認識の中で早めに専門家を受診させるのが自殺を予防することになります。

 うつ病は「心の風邪」といわれます。誰でもなるという意味ではいい表現ですが、ほっておいて治るわけではなく、きちんと治療することが必要です。だから「心の糖尿病」「心の肺炎」という言い方もします。

 うつ病になりやすい人は、仕事熱心、真面目、几帳面、堅実、がんばり屋、責任感が強い、誠実、律儀、凝り性、勤勉、よい人、やさしい、親切、善良、人づき合いがよい、周りからの信頼が厚いなど、職場で必要とされるタイプが多いように思います。

 最近では、現代型あるいは新型うつといって、会社でだけうつになる。週末は元気になる人もいます。ただし素人判断は禁物です。

原因不明のからだの不調が長引くことも

 メンタルな病は身体の面にもいろいろな不調を起こすことがあります。頭が痛い、頭が重たい、胃がむかつく、食欲がない、やせたなどのからだの症状があったら、まず心療内科ではなく、身体のチェックをしてくれるクリニックの受診をお勧めします。異常がないのに元気がないような場合は、案外メンタルな病気が隠れていることもあります。医師会の先生には、身体的な検査で異常がなくても、元気のなさそうな患者さんには、睡眠や食欲などについての質問をして、ちょっとうつが疑われたら、精神科や心療内科に紹介するように、お願いしています。

 元気がない社員には、「夜は、よく眠れる?」とか「朝の調子はどうだい?」などと、職場の人たちが声をかけてみてください。

 酒の量が最近ぐっと増えていたら、危ないです。つらいのを忘れるような逃避の目的で酒を飲めば、意識がなくなるまで飲みたくなり、酒量が増えます。酒はうつ病の薬になりません。死にたいけれど死ぬことにブレーキをかけている人の、そのブレーキを酒が取ってしまうから危ないのです。

うつ病を防ぐメンタルヘルス対策研修会で行うこと

年間200回以上も講演をさせていただいていますが、企業のメンタルヘルスセミナーで行うプログラムをいくつかご紹介しましょう。

自分の長所について考える

 自分の悪いところばかりを見てしまうと、悪循環に陥ります。メンタルヘルスのためには、自分のいいところを見つけて、自分のいいところを発表することが大切です。
 「この会社のために一生懸命がんばって、自分の人生を企業人としてがんばりたい」と意欲に燃えて入社した新人が5年10年20年30年後にすばらしい企業人になることがメンタルヘルシーな会社だと思います

元気の素について話し合う

 大変な仕事をするために実践している元気の素、健康法について、語り合ってもらいます。そのとき3つのことを言わないことに決めています。

1.酒と言わない 男性の場合、元気の素がほとんど酒しかありませんから、酒の話で盛り上がります。メンタルヘルスについての話し合いの場では酒の話は避けます。

2.薬と言わない 医者から処方されている薬は大切です。しかし、安易に栄養ドリンク飲んでがんばっていると、究極の魔法の薬、麻薬がほしくなることもあります。

3.仕事と言わない 元気の素が仕事の場合、危ないです。過労死の原因にもなることがありますし、定年退職後にうつ病になる心配があります。



休んだときから、復職の支援は始まっています

 平成14年に厚生労働省から「心の健康問題によって休業した労働者の復職支援の手引き」が出されました。休業、休業中のケアから職場復帰、フォローアップ、アフターケアまでを含めて、5つのステップで復職を支援する手引きです。復職の支援は、病気で休んだときから始まっていると認識してください。

 患者さんに仕事を休ませるときの主導権は、臨床の医者にあります。医者が休みなさいと判断したら、必ず守ってください。もし無理やり働かせて自殺されるようなことがあったら、職場は安全配慮義務違反で問われます。

 会社から休職中の社員の病状について主治医にコンタクトを取ろうとしても、医者には守秘義務があるのでお断りするのが原則です。仕事を休んで少し落ち着いた段階で、主治医のもとに会社の人が患者さんと同行することをお勧めします。治療は、病気がよくなることだけでなく、復職して元気に働いてもらうことが目的です。医師としても会社の人とコンタクトを取りたいので、患者さん本人と一緒に来院されると安心します。そこで、絶対嫌だというような人間関係を作らないようにしてください。会社の人間関係や対応によって「私をクビにするために行くのか」と思われてしまうと、会社はなかなか担当医とのコンタクトが取れなくなります。

 「3ヵ月後職場復職可能」などという主治医の診断書は、あくまでも参考意見であり、100%完治して書いたものではありません。それを元に職場のほうで復職プランを立てます。たとえばリハビリ出勤だとかトライアルなどをして判断し、会社が復職の決定をします。60点、70点の診断を80点、90点にするのは、職場の力です。復職した人を温かく迎えて、仕事を通じて自信を持たせることによって、再び元の元気で優秀な社員にもなります。そうすると職場では「うつでもまた元気になるのだ。早く病院に行こう」と早い段階で受診するようになるでしょう。

■復職した人に対する職場のよい対応
仕事を通じて少しずつ安心感を形成していくことが大切です。
「元気そうでよかった」(歓迎・喜びの気持ち)
「心配していたけれど、安心した」(思いやり)
「少しずつ自分のペースを取り戻すつもりでゆっくりやって」(適度な期待)
「何かあったらいつでも声をかけてください」(支援の申し出)


■復職した人にしてはいけない対応

「みんなに迷惑かけたんだから、その分がんばらなくっちゃ」(プレッシャー)
「大丈夫? 完全に治ったの? また何かあったらこっちが困るんだから」(不信感)
「あまり期待していないから、みんなの邪魔にならない程度でいいよ」
 このような対応をすれは、結果的にまた病院に戻ってしまいます。それを何回かやっていると、「うつ病になればクビになるんだな」「絶対うつ病の診断書はもらわない」「絶対メンタルクリニックは行かない」「俺はそんなに弱い人間じゃない。精神力で治す」となります。これが自殺の一因にもなるのです。

「死にたい」というメールが来たらどうしますか?

「何をしてもつまらなく生きがいがありません。死にたいです」

 全世界の日本人労働者を対象に心の悩みを受け止めるメール相談をしている私のところには、不特定多数の人からこのようなメールが毎日送られてきます。平成12年に116件だったのが、平成19年度は6400件に増えました。

 万が一皆さんのところに職場の部下や仲間からこのようなメールが来たらどうしますか。

 こんな重大なことを自分一人では対応しきれない。金曜日の夜だったら、月曜日に上司に報告するのでは駄目です。死にたいと思っている人は、全従業員に一斉にこのようなメールを送るわけではなく、メールを送られた人が選ばれたのです。ですから、すぐに返事をしてあげてください。メールでは受け手が一生懸命考えて悩んでいたとしても、返信しない限りは相手側には無視されていると思われます。「ばかやろう」でも「何があった」でも「おれがすぐに行くから」「死んじゃだめだぞ」でもかまいません。「何でこんなにつらいのに生きていないといけないのか。死んだほうが楽だ」と考えるのもうつ病の特徴です。

週単位の生活から一日決算主義への生活へ

 週休2日制で、ウィークデーは仕事と寝るだけ。週末にまとめてストレスを解消しようとして、一日を犠牲にしている労働者がとても多いです。ストレスを抱えたまま月曜日の朝を迎え、「マンデーブルー」になる患者さんをたくさん診ている中で、お伝えしたいメッセージは、「一日決算主義」です。

 「今日夜寝るときに、いい一日だったと思えるような毎日を365日死ぬまで送りましょう」ということです。一日を大切にする生き方をする「一日決算主義」のライフスタイルを送ると、ストレスをためないですみます。

 一日決算主義を実行する方法として、毎日の生活の中に運動、労働、睡眠、休養、食事の5つを入れましょう。運動習慣は、メンタルな面、フィジカルな面も含めて効果をもたらします。運動習慣のない人のほうが、疲れやすいなどの身体症状や精神症状を訴える人が多いのです。仕事中に動いたり、歩くのは労働です。暇がない方は、朝の10分間テレビ体操、ラジオ体操でもよいので運動してください。運動習慣を持ったほうが健康的な毎日を送れます。これが私の言う、「ストレス決算主義」です。暇になったら運動するのではなく、きちっとしたライフスタイルを送るという習慣を持つことが病気の予防にもつながります。
  私の患者さんの多くは職場で言いたいことを言えずにストレスがたまって病気になっています。デジタル社会になって、声を出さなくなったのも不健康のひとつです。隣の同僚とメールでやりとりするような職場で無意識的なストレス状態がおき、うつ病をはじめとしたメンタルな病気が出てきている状況にあります。

 言いたいことを言う元気と同時に、声を出すことが健康づくりに大切です。なかなか声を出さない職場にいる人は、カラオケに行って大きな声で歌うことも健康法になります。

サポーター、仲間、相談相手がいるとうつになりにくい

 「自殺前8割が相談せず」というデータがあります。うつ病の患者さんは女性が男性の2倍ほどの割合で多いのですが、自殺者は7割が男性です。なぜかというと、女性はおしゃべりが好きで相談しますが、男性は相談しないのです。心の悩みを受け止めるサポーターの存在はとても重要です。電話相談はまさに精神的サポーターとなって時間を共有できるので、うつ病の方の心の支えになるでしょう。

 自分も家族も会社も日本も元気にする。この4つのどれひとつとして犠牲にしないでください。家族があって今働けるのです。家族を幸せにするような働き方をしてください。そして自分が元気に働いているのは、この会社があるから。逆に会社のために働ける自分であることが幸せ。そしてこの会社がよくなることが、日本をよくすることになる。そんな気持ちでお仕事をしていただきたいと思います。

 何か相談されたいことがありましたら、どうぞ下記宛にメールしてください。
mental-tel@yokohamah.rofuku.go.jp