第1回メンタルヘルスセミナー「企業におけるメンタルヘルス対策の実践的ポイント」

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第1回 ダイヤル・サービス メンタルヘルス オープンセミナー
「企業におけるメンタルヘルス対策の実践的ポイント」
~認知行動療法の導入~

「企業におけるメンタルヘルス対策の実践的ポイント」

~認知行動療法の導入~

北里大学医療衛生学部 非常勤講師 羽岡邦男氏 講師略歴
北里大学医療衛生学部 非常勤講師 羽岡邦男氏

うつ病は心の生活習慣病である

 企業における「うつ」の問題が深刻になっています。世界保健機構(WHO)は2020年にはうつ病に代表される感情障害と呼ばれる病気が全疾病の第2位になると予測しています。15人に1人が罹患する病気であるとか、これは病院にかかっている人の数で本当は5人に1人だというような説もあります。

 うつ病は簡単に言うと、ストレスのために脳が疲れて、心身のエネルギーが枯渇してしまい、憂鬱な気分になったり、意欲が低下したりする症状が続く病気です。早く楽になりたい、この場から逃げ出してしまいたいと未来を悲観する考え方が自殺願望につながることもあります。うつ病は大半の場合、右肩上がりでよくなって完治するのではなく、一進一退を繰り返しながら回復するという特徴があります。

 うつ病はなぜおきるのでしょうか。われわれは今まで生きてきた経験の中から学び取った学習やいろいろな経験の中から積み重ねてきたパターン、思考習慣や行動習慣の枠の中で考え、行動し、感じています。ところが、今までに経験したことがないような非常に強いストレスの刺激にさらされた場合、過去にそういうものに遭遇して何らかの形で乗り切った経験があれば跳ね返すこともできますが、そういう対処能力がないと、いわゆる不適応という問題が起き、気分の落ち込みや不安という症状が出ます。これがうつ病です。このようなことから、うつ病は「心の生活習慣病」だといえます。

 うつ病は、投薬を行って不快な気分を調整することによって一般的には回復します。ただし問題なのは、次にさらに強いストレスにさらされた場合には再び不適応を起こし、発病するかもしれません。予期しない出来事などに対してどういうふうに受け止める、処理するかなどについては薬でコントロールするのはむずかしいので、思考や行動などを前向きにストレスに対処できるように高めていくトレーニングが必要になります。

 さまざまな心理療法、精神療法がありますが、その中のひとつが「認知行動療法」です。

 薬で落ち込む気分を上向きに高めながら、行動や思考のマイナス面をフォローする。薬物療法と認知行動療法、心理療法をセットにすることによって治療、再発防止につとめます。

認知行動療法の基本的な考え方

 考え方、行動、気分は互いに影響しあっています。たとえば何か悩み事があると気分が落ち込んでしまい、何をするにも億劫になる。その億劫な状態に対して、何をやっているのだろうとますます考えこんでしまう。考え込んでしまう自分に気分がますます滅入ってしまい、さらに行動が億劫になる。このような「負の連鎖」がおきることがあります。

 しかし考えや行動がその人の気分に与えている影響を把握し、その考えや行動を修正することによって気分を回復させることができます。これが認知行動療法の基本的な考え方です。その人が持っているネガティブなものの考え方や行動をポジティブな方向に修正してうつ症状を改善し、再発を防ぐことが認知行動療法の目的です。後ろ向きの考え方や行動を前向きに、現実的、合理的な方向に修正するパターンを前もって身につけるようにトレーニングします。

 このように肯定的な方向に修正していくことにより、その人の持っている潜在能力を引き出し、新たな前向きの行動パターンを確立することにもつながるだろうと考えられています。つまり否定的、引っ込み思案などによってなかなか挑戦的になれないような人でも、もつれた糸をもう一度解きなおして、肯定的な形に修正することによって、前向きな行動パターンを確立し、その人の眠っていた能力を引き出すことができるという意味で単なる治療予防だけではなく、人材に対するひとつの教育的な部分の意味合いも期待できるのではないかと考えられています。

思考修正プロラムがもたらす効果

現在、いろいろな医療機関、精神福祉関係の施設などで認知行動療法が実践されています。沖縄県立総合精神保健福祉センターで行っている、うつ病患者に対するデイケア活動が注目されています。4年前に日本で初めて行政主導で導入したもので、週1回、3ヶ月を1クールとしてトレーニングで、午前中はストレッチング、陶芸など体を動かす活動を行い、午後に認知行動療法の講習が行われます。参加者には思考修正トレーニングの宿題が出され、日々どのような感情を抱いたのか、その感情をどう変えていったのかなどを記し、翌週のクラスで発表します。講習を聴くだけでなく、日々の生活の中で考え方を修正し、前向きな行動を増やすことで気分がおのずと改善することを、参加者がプログラムを通して実感しています。この継続と集積が最終的に症状の回復につながり、心の健康を高めていくと考えられています。このデイケアが参加者のうつ症状を改善させる効果をもたらし、6割強の人が復職を果たしています。
 うつ病を改善するために抑えておくべき4つのポイント
1. 今の気分がどういう状況かどうか把握できること。
2. 自分が今まで抱えてきた思考の癖、とくにマイナス、否定的、ネガティブなもの考え方をポジティブに、あるいは現実的、合理的な方向に修正できるかが一番のポイント。
3.楽しい体験ができること。楽しい体験ができる人間関係を増やすこと。
4.自己主張ができること。認知行動療法を特に集団でやる場合、発表などをとおして自己主張ができるかどうかも大きなポイント。

職場でできる、思考の修正ポイント ~気分と行動との関係~

 考えや行動がどのように気分に影響するかを知ることによって、考えや行動を修正し、気分を回復することができます。つまりマイナス思考、後ろ向きの行動を、プラス思考、ポジティブな行動に修正することによって、気分の落ち込みを防ぐ、または予防することができるのです。このような思考の修正について、職域でどうすればできるでしょうか。

 3つのポイントは、いつでも、どこでも、だれにでも、ということです。
 職場で、小集団でできる修正トレーニングについてご紹介していきましょう。

考え方と気分の関係

ストレスには外側のストレスと内側のストレスがあり、2つ合わせたものがストレスの総量と考えられています。
 借金、失恋、離婚、死別、病気、あるいは新築、昇進、失業、仕事の不調などは、一般的にストレス要因として何らかの刺激を与えかねないものです。これは外側のストレスといわれます。

 この外側のストレスは事実なので変えることができませんが、内側でどのように評価し、受け止めていくかが重要になります。つまり内側のものの考え方や受け止め方などは、修正したり、減らすことによってストレス量を減らすことができるのではないかと考えられています。これが考え方と気分、思考を修正する上でのひとつのベースになっています。そこでネガティブに捉えるのか、ポジティブに捉えるのか、いつまでもくよくよ考えるのか、それとも次の一歩踏み出すための何か方策を考えるのかにつながってきます。

うつ状態の人の考え方の特徴

・自分の力を小さく評価する。
・ 全てが悪いように見えてしまい、よかったことを認めようともしないし、思い出そうともしない。
・ 悲観的になってしまう。いわゆる自責、自罰的で、全てを自分の責任にしてしまうような考え方です。
・ 自分の努力でせっかく成し遂げたことなのにそれを忘れて、自信を失ってしまう。
 いろいろな考え方があるにもかかわらず、うつ状態の人はなぜ後ろ向きの考え方を選ぶのでしょうか。人間は今まで生きてきた人生で経験したパターンや枠組みの中で考えて行動しています。その中でゆがんでしまった物事の認知、イメージや行動が積み重なって、後ろ向きの考え方を選ぶようになります。つまり過去の経験に左右されているのです。

思考の誤りのさまざまなパターン

①物事をあるがままに受け止めて対応せず、こうあるべきだと決め付ける
男は強くあるべき、仕事はこうあるべきなどという「べき思考」です。現状への不満があるために、あるがままを受け止めて対処できず、理想像を追い求めてしまっていると考えられます。たとえばグループのリーダーがリーダーシップを発揮しようとして、メンバーを引っ張ってもうまくいかない場合、自分を責めたり、相手を責めたりします。しかし、メンバーあってのリーダーであり、ひとりでリーダーはつとまりません。その場はメンバーの状況に合わせたリーダーシップで対応して、メンバーが成長してきたらそれに踏まえた自分が理想とするリーダーシップを発揮したらいいと考えられないでしょうか。相手があってのことですから、まずあるがままを受け止める土壌の広さがないと、軋轢が生じるだけでなく、うつ思考にはまってしまう恐れがあります。

②「私にはこの仕事はできない」「状況を変えることはできない」という
いわゆるラベリング思考です。できないと決め付ける理由として、同じような仕事での過去の失敗をもし取り上げたとしても、状況もメンバーも変わっているのであれば、できないという答えになるでしょうか。この場合は、過去のゆがみを冷静にほどくことによって、うつ思考からリカバーし、前向きに取り組むことができるようになるでしょう。
③必ずしも自分の責任がないのに自分を責めてしまう
自責的、あるいは自罰的な思考です。ラベリング思考と似ていますが、自責的思考が積み重なるとうつ状態になりこともあり、組織にとっても非常にマイナスです。本人だけでなく、周囲が冷静にうまくいかなかった理由を掘り下げて、次のステップにつながるようなはたらきかけをすることが必要になります。

④自分は完璧であることを望んでいる
完璧に拘泥していると、ミスに敏感になります。そうすると自分のミスだけでなく、相手のミスも許せないので諍いになり、組織の中で孤立します。組織とのつながりを断ってしまうので、うつ状態に限りなく近づくことになります。
 このようなさまざまな思考の誤りや考え方の癖、習慣の積み重ねは、自分の可能性を狭めるだけでなく、せっかくのチャンスを逃すことにもつながります。悪いほうに考えやすい自分の考え方の癖はできるだけ修正する勇気が必要です。

誰でも、どこでも、いつでも考え方を変えるために取り組めること

①自分の長所に目を向ける。自分や相手(たとえば、部下)をほめる。
いわゆる自責、自罰思考の傾向がある人やラベル思考の人たちに「あなたにはこういう魅力がある」「あなたにはできる」と気付かせ、評価し、ほめてあげることは、うつ思考の方々にとっては非常にプラスにはたらきます。

②心配する時間、悩む時間を決める。
何か考え出したらずっと心配したり悩んだりしてしまう場合、「ちょっと一時休止しましょう」「クールダウンしましょう」「時間にメリハリをつけましょう」とアドバイスします。考えだしたらきりがなくなるというのを抑える意味で、時間で区切る対応も重要です。

③起こりうる事態の悪い結果を考えてみる。
「自分にはできません」というラベリング思考の人に効果があります。「やってみて、どうのような結果になるか、冷静に考えてごらんなさい」とアドバイスします。ずっと考えて書き出してみたところで、実際に悪い結果が果たして起こるのかどうかがわからないわけで、もしかすると杞憂かもしれなません。もし何か悪い状況が生じてくるならば、ここで誰かのサポートを得たらいいのではないかとか、こういうようなものの結果を考えてみることも必要になります。

④今まで乗り越えてきたことを思い出す。
⑤不安を脇においてリラックスしてみる。
⑥自分に言い聞かせる。
自分で決めた目標を達成できなかったときに、やるべきことができない自分は無能であるなどと思わないことです。この場合の思考の修正方法は、ここまでできたことを評価し、それをもって次のステップにしようと考えます。たとえば90だったら、100ではないが、ゼロじゃない。90できたことを評価し、残った 10を次に生かす考え方が重要になります。

行動と気分の関係について

 行動量が少なくなれば、気分も沈みがちになります。気分が沈むと、行動も少なくなります。行動が低下するとうつ気分の悪化につながるので、何か行動量をふやしてあげる必要があります。気分が悪い状態のときに気分がいいと言いきかせるのではなく、楽しい行動を増やして気分を変えていくほうが、気分は変えやすいはずです。つらいことやわずらわしいことを脇において楽しいことだけやるのではなくて、つらい中でも楽しいことをやるゆとりやすきまを忘れないようにしましょうということです。それを忘れると、気分の低下につながります。楽しみは人それぞれ違いますが、あまり熱くならず、つかず離れずに楽しみを持ち続け、楽しむ感覚を忘れないようにすることが大切です。

楽しいことを行動に移すための方法

 うつ病の場合、楽しむことに罪悪感をもつことがありますが、楽しむことによって気分の高揚をはかるんだという感覚を持つことが大切です。具体的にやりたいことをイメージして行動できれば、自分をほめてあげます。ほめることが大切だという自覚も実際に行動に移すときに必要です。行動量をふやしていくと、心の健康にプラスにはたらいていきます。