第14回CSRセミナー「企業倫理定着に向けた取り組み」

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第14回 ダイヤル・サービス CSRオープンセミナー
「内部通報後の社内調査の方法」

「企業倫理定着に向けた取り組み」

株式会社IHI コンプライアンス総括室部長 小門口匡氏 講師略歴
株式会社IHI コンプライアンス総括室部長 小門口匡氏

コンプライアンス周知のための取り組み

会社の概要

 当社は、本体が7000人強、グループ全体で23000人の従業員を擁する、様々な特徴を持った会社の集まりです。 グループ各社が全国、また海外を含めて展開しており、従業員は全国津々浦々に散っています。

 事業も多種多様で、例えば、宇宙開発関係では日本のH2Aロケットの推進系の部分や、スペースシャトルで打ち上げている宇宙ステーションなどにも関わっています。船舶関係の事業は現時点ではフル操業で動いています。また自動車のターボチャージャーなどの量産機種も手がけております。

 私どものコンプライアンス活動は、このような会社の状況を背景とした中で進めています。

コンプライアンス統括室設置の経緯

 いわゆる「コンプライアンス」と明示した組織は、平成15年に会社制度の機構改革として、執行役員制度を導入し、取締役会の改革を図りましたが、その一環として、総務部の中にコンプライアンスグループをつくり、第1期立上げをいたしました。このときにコンプライアンスグループを窓口とする内部通報制度を社内に開設いたしました。

 その後、平成17年に鋼鉄製橋梁談合事件で刑事告発され、最終的には刑事罰を受ける形にまで至った非常に大きな事件を受け、社内の内部通報も含めた態勢に問題があったという反省をもとにコンプライアンス態勢の再構築を図りました。
 平成17年10月に、総務部の中のグループから社長直轄の部門として再編し、コンプライアンス統括室を設けました。その後平成18年3月に、内部通報の窓口としてダイヤル・サービス(株)の企業倫理ホットラインを導入する形に変えました。

 コンプライアンスの取り組みについては、少しずつ形とともに周知が進んできた感がありましたが、平成19年秋に大幅な業績下方修正と、過年度の決算訂正という社会の信頼を損ねる問題を起こしてしまいました。そのため不名誉なことに東京証券取引所が新たに設けた特設注意市場銘柄の第1号の指定になってしまいました。現在は特設注意市場銘柄から脱却するために、コンプライアンス統括室とは別にプロジェクト体制をとって対応しています。さらにいわゆるJ-SOX への対応と内部統制に関わる専門の組織も作っています。

 このように不祥事が重なり、コンプライアンス全般の取り組みに加えて、金商法で求められる内部統制への対応、さらに東京証券取引所からの様々な審査等を受けなければならないので、そのための対応と、いくつかの組織体制を設けて取り組んでいるのが現在当社の置かれている状況です。

 このような状況を踏まえた上で、コンプライアンスに関する取り組みをご説明します。まず、会社としてのコンプライアンスに対する基本的な考え方を示す「基本行動指針」がベースになります。その上で、当社は事業ごとの特性があるので、部門ごとに、その特性に合わせて、いかに業務の中でコンプライアンスを実践していくか、ということがポイントになると考えています。

コンプライアンスガイドの発行

 まず基本となる「基本行動指針」を周知するために、それを説明する「コンプライアンスガイド」を発行しています。「コンプライアンスガイド」は、一般の従業員がコンプライアンスのことを難しく考えないように、より分かりやすいものにするためイラストを添えた平易な表現にして、昨年10月に改訂版を発行しました。これを全従業員に配布し、教育の場でも利用しながら従業員への周知を図っています。

コンプライアンス委員会を中心とするPDCAサイクル

 コンプライアンスの取り組みは、目に見えにくいところがあります。そこで、当社ではPDCAサイクルを回すことを念頭に、全社委員会であるコンプライアンス委員会を運営し、それに沿って部門ごとの活動、あるいは全社の活動を進めています。

 具体的にはコンプライアンス委員会を年に4回開催し、PDCAサイクルをリードするようにしています。年度末の第4回目の委員会でその年度の活動の評価をした上で、次年度の活動方針を策定します。ここで定められた全社の活動方針を受け、部門ごとに新しい活動方針に落とし込んでいくという流れです。

 縦系列の組織体制については、いわゆる人事、総務などの本社機能と、事業をやっている事業本部系列とに大きく分けています。事業本部では、工場、および関係会社も含めて活動しています。

 本社機能ではそれぞれの専門分野について、いろいろな形で事業本部を指導・助言し、あるいは必要であれば是正を図る役割を持っています。

コンプライアンス担当の配置

 一方事業を担っている各事業本部では、自主的な活動を行うための体制として、コンプライアンス実施推進責任者とコンプライアンス担当を配置しています。これが縦系列の組織です。そして、コンプライアンス担当は、各本部の部長クラスを任命し、コンプライアンス統括室を兼務する形を取っています。

 コンプライアンス統括室では、この兼務のメンバーを含めて、毎月集まって課題の検討や情報交換をして、部門ごとの活動に横串を通します。これが実務レベルの活動になります。

コンプライアンス周知のための教育

 コンプライアンスを周知していく上で最も重要になるのは教育と考えています。当社では、全社教育、階層別の教育、業務別・部門別の教育の大きく3つに分類しています。

○全社教育
 まず、役員から派遣社員も含めた全従業員に向けた全社一律の教育があります。コンプライアンス統括室が企画して、一般的なコンプライアンス意識を喚起するための教育を、eラーニングを使って年2回実施しています。そのほか総務部門などが実施する基礎知識の習得を目的とするものなど、年8講座ほど計画し、全社教育として取り組んでいます。 eラーニングは、関係会社も含めてイントラネットを利用できる会社については基本的に全て実施しており、受講者数は約1万5,000人です。年に数講座ありますので、1回当たりの講座は20分~30分くらいの短い時間の講座にして、回数を重ねるようにしています。最初の講座が夏頃からスタートして8講座ありますので、毎月受講するような形になります。受講期限を過ぎても未受講の場合、まず本人にダイレクト・メールで督促し、それでも受講しないときは、部門ごとのコンプライアンス担当に未受講者リストを送り、受講するよう促し、徹底を図っています。

○階層別教育
 コンプライアンス意識の周知のためには役割認識が重要になるので、現在この階層別教育に最も力を入れています。①IHI本体の役員、関係会社の役員、部長クラスを対象とする教育 ②職位が昇進するタイミングの新任の部長、課長、課長代理 ③入社4年目の中堅社員と新入社員、と大きくこのような区分を設けて教育しています。また、事業固有の専門知識に関するものについては、営業関係、調達関係など業務別・部門別の専門講座を設けて教育しています。
 コンプライアンスに関する教育については繰り返し継続することが必要ですので、マンネリ化しないように、さまざまな工夫をしながら取り組んでいるところです。

モニタリング(コンプライアンスについての意識調査)

 コンプライアンスについての意識調査も行っています。2006年に初めて行い、2008年10月に第2回のモニタリングを実施しました。

 第1回目はIHI本体だけで実施しましたが、第2回目からは段階的に関係会社へも展開していくことにして、今回は15社に広げました。実際の回答者数では、本体が7,312名、関係会社15社分の合計が7,330名で、ほぼ半々の回答者数となりました。回答率は本体が89%でかなり高い回答率でした。
 この意識調査は、客観性を持った形で実施するために社外のコンサルタントに入っていただき、設問の設計から分析までお願いしました。2回の調査を通じて見えてきたことは次の3点に集約されます。

1.まずはじめに、教育は効果があるということが、色々な形で現れています。コンプライアンス教育が広く行われるようになった結果と考えています。しかし、コンプライアンス意識の浸透度合いで見てみると、役員、管理職(管理職のなかでも上の層と下の層)、一般従業員(いわゆる事務系列、工場の技能系列)の順に低くなってきています。さらに、役員と管理職との間には大きなギャップがありました。その意味することについては、さらに分析を深める必要があると考えていますが、この分析の結果を踏まえて、教育のねらいや実施方法、対象とする階層など、さらに質的にも量的にも充実させていくことが、コンプライアンス意識を浸透させていく上では、もっとも効果があるといえます。

2.当たり前のことではありますが、上司や役員などの関わりが一般従業員の意識を高めていく上でも非常に影響力があるということがデータとして出てきました。しかもデータに表れているのは、上司の影響力が大きいという反面、その上司のコンプライアンスに対する関わり方が弱いという実態があったということです。個人の意識レベルと組織レベルはどうか、また組織という視点から見ると、例えば上司は相談にのりやすい人かどうかという観点から分析を加えていきました。

3.コンプライアンス意識の浸透度については、①コンプライアンスについて宣言をしている、②コンプライアンスの考え方が共有化されている、③それが共感として受け取られている、④会社の風土に根付いているという4段階で評価しました。今回の調査の結果から、当社は③の共有のちょうど真ん中あたりでした。教育等を継続する中で少しずつ共有は図られているようですが、浸透レベル、実践レベルとして見ると、まだ今一つという評価だと理解しています。

このような結果を今後取り組む課題として認識し、活動を進めているのが現状です。

業倫理ホットラインの利用について

企業倫理ホットラインを導入した背景について

 平成15年6月に内部通報制度として社内に専用窓口を設置しましたが、このときには通報制度に対して「ホットラインを使って言ってくるようなことがあるだろうか?」と、後ろ向きに考えていたと思います。社内に対しても「こういう制度をつくりました」という程度の周知でしたので、利用実績は年に数件の状況でした。そんな中で橋梁談合の事件が起こり、いろいろ反省していくなかで、やはり通報制度をもっと実行ある形に改める必要があると考え、社内窓口をやめて外部に窓口を設けることにしました。

 ダイヤル・サービス(株)の企業倫理ホットラインにお願いした1つの大きなポイントは、電話で相談ができることです。通報しようかどうか悩んでいる人にとっては、社外の専門のカウンセラーに応対していただけることが、非常に大きな安心感につながるということ、これが企業倫理ホットラインを選んだ最も大きな理由でした。実際電話で通報される人の多くは、長い人では1時間くらい色々な形で相談をしているようです。導入以降、利用件数が非常に増加していて、現在、1日に1件近い通報が寄せられる状況になってきています。

ホットラインの運営状況と利用状況

 当社では、企業倫理ホットラインの電話、ファックス、インターネットと全部の通報手段を利用しています。また、グループ全体で利用していますが、コンプライアンス統括室が関係会社の分も含めて、全ての窓口になっています。実際に企業倫理ホットラインで受け付けたものが、私と同僚の課長とコンプライアンス統括室長(執行役員)の3名のところに届きます。通報が関係会社のものであれば、関係会社のコンプライアンス担当と解決に向けて一緒に取り組んでいく体制を取っています。

ホットラインについての社内周知の取り組み

 ホットラインについては、設置の目的や利用方法についての周知が非常に重要になるので、様々な機会を通じて周知に努めています。その取り組み事例をいくつかご紹介します。

○ホットラインカード
関係会社も含めた全従業員にホットラインカードを配っています。IDカードのケースの中に入れておき、何かあった時にこれを見て考えなさいということです。

○eラーニングでの周知
当社のeラーニングでは必ず最後にホットラインについて説明するようにしています。ホットラインの仕組み、設置の目的、運用などについて、また個人情報は非常に厳格に管理していることを従業員に正しく理解してもらうよう工夫しています。

○通報内容と対応を社内に情報公開
通報内容と会社の対応した結果やホットラインの利用方法について、四半期ごとに社内HPにて全件紹介しています。少しでも正確に、そして具体的に伝えたいと考えていますが、通報した本人を特定できないようにすることが前提になりますので、どうしてもやや抽象的な表現になってしまいます。そのあたりが情報公開の難しいところですが、掲示板に掲載すると、5分も経たないうちに閲覧数が3ケタの数字になっていることがありますので、非常に関心が高いということが分かります。

平成19年度の通報件数は、上期下期合わせて114件になりますが、平成20年度の上期ではすでに81件。第3四半期を締めた時点で40数件あり、すでに前年の数を上回る状態になっています。この利用件数は他社と比較すると多い部類に入るようです。

また、当社では匿名の通報がとても多く、平成20年の上期では83%が匿名でした。しかも、通報の7割がインターネット利用であることが特徴です。通報に電話を利用できるということが企業倫理ホットラインを選択した大きな理由でもあったので、利用方法についての周知方法を改善していく必要があると考えています。

通報内容をざっとマクロに捉えると、上司に対する不満や社内の福祉制度にまつわる通報など不平・不満に近いようなものが多く見られます。職場でのコミュニケーション不足が原因なのか、職場での些細な問題をホットラインに通報するケースが増えています。また「こんな生ぬるい態度で仕事していていいのか」など職場規律の乱れについての通報もあります。そのため特に課長・部長層を階層とするマネージメント教育では具体的な事例も示しながら、「自分の身の回りをよく振り返ってください」とマネージメント課題として提起しています。

労働時間管理などサービス残業についての通報では、通報者本人から具体的な事実関係を示すものが得られたときに、すぐに人事部門とコンプライアンス統括室が乗り込んで証拠を確認し、是正につなげたケースもあります。

また、冒頭に申し上げました業績下方修正の問題に関係すると思われる通報ですが、「工場のサービス残業が横行している。土日も含めて皆出ている。こんな状態でいいのか。」という通報がありました。調査にあたったときには、すでに落ち着いた状況だったので、サービス残業の実態を確認することができませんでしたが、後から振り返ってみると、ちょうどその工場が大混乱している時期を指していたということがわかりました。この場合は、現在進行形で通報があったら検知できたかもしれないのですが、その波が過ぎ去った後の通報だったので、本質的な問題をとらえることができませんでした。やはり何か大きな問題につながる兆候は通報の中にあるのではないかと感じています。

これだけの件数になってくると、ホットラインからも会社の状況が、何となく読み取れるようになってきました。確かに1件1件で見ると些細なことかもしれませんが、その中に何らかリスクが内在化しているのかもしれないと注意して中身を見ていかなければいけないと思います。まだまだ改善しなければいけないことも山ほどありますので、課題を一つずつ潰しながら、取り組んでいるところです。